「花乙女」の真ん中

 花乙女の髪に飾る花を、小机に置いて、リリーが首を傾げて言う。


「リッキーの勧めできましたって言ったら、少しは融通してくれるかも知れないわ」


「そういう魂胆が丸見えだから、はしたないと言ったのよ。そんなことあるわけないでしょ」


 マリアが苦々しげに言うので、リッキーは肩をすくめた。


「そんな、試すくらいなら、してもいいんじゃないかな? わからないけれど」


 リッキーの言葉に少女たちがわいた。


「だけど、驚いたわ、普段は全く気付かなかったけれど、お化粧する前から、肌まで白いってどうなの? それもお母様直伝のなんとやら?」


「ああ、うん……ハーヴが効いたかな」


 リッキーは思わず視線を泳がせた、確かに母に一日に何杯ものハーヴティーを飲まされた。いや、飲んでいたことになっているから、ここでも飲んできたことにする。


(ほんとうは、うがいに使っていただけだけど……)


「っくう! そばかすも皆無! 悔しい……」


「はは……」


 14になってから、ほとんど家から出ていない。


 母親が、木登りなんて、男の子のようになんてと、反対するからだ。


 それでもリッキーはうれしかった、母が少しでも自分を気にかけてくれていると感じて。


 だから従ったのだ。


 いまだ、母親の前ではおどおどしてしまうのだけれど。


 リッキーは立派な花乙女の役をつとめるべく、少女たちに笑いかけた。


「みんなの方がきれいだよ。来年はたのしみだな。今日はボクなんかのために、手伝わせちゃってごめんね。今度お茶会でもしようよ」


 マリアがきっとしてメモを取り出した。


「そのハーヴのブレンド法、教えてくれない? もちろん、わたしがお茶会に出すのよ。リッキー……サンドラは高級チョコレートね」


 おもむろにメモを書き出す少女たち。


 彼女たちは、自由になるお金が欲しいので、各所で働いていたりする。


 なので大事なことは書き留めておくのが習いになっている。





 冴えない娘なら、ちょっとお粉をはたけばなんとかなる。


 だが、リッキーはちがう。


「あ! けむたいよ。こんな、仮面になるほど粉付けることないんじゃない?」


「へんねえ。肌は白いほどいいんだから、つけすぎってこともないと思うんだけれど」


「マリア、首筋もつけねば」


「リリー、もおう、いいよ。なんか目に入って苦しい」


「何を言っているの! 花乙女は白さが大事!」


「だからって、これは滑稽だ。大道芸人じゃないんだぜ?」


 小部屋は蒸し風呂のように暑くなり、せっかくつけてもらったお化粧も剥がれそうだ。


「もう、暑いよ! 木戸を開けるからね!」


「あ! リッキー!」


 すると!

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