未だ「花乙女」の真っ最中

 それを見て、リッキーは熱気でぼうっとする頭をたたき起こした。


 そうだ、女子は自分が綺麗かどうかに拘泥する。


 花乙女の試練はこれからだ。


 したくを手伝ってくれる、少女たちを無下にしてはいけない。


「お日様が一回のぼるごとに、髪を洗って母の特製パックをして、眠っていたから。よければ、お店を覗いていいよ」


「のぞくのぞく!」


 花を抱えたリリーが大きく頷く。


 頬にそばかすのある、素朴な少女だ。


 リッキーの髪の毛をくしけずっていた、マリアがたしなめる。


「はしたないわよ、リリー。でも、わたしも見てみたいわね、できることなら」


 リッキーの言うお店、とは「美容とリラックス」を掲げた高級エステである。


 店の外観こそ、つぶれたきのこのようで愛らしいが、並ぶのは高級品の香水やリボンや石けん、お香、お化粧品、ハーヴなどの嗜好品の数々だ。


 会員にでもならないと、まず手がでない。


 十代やそこらの少女たちが、憧れはしても、気楽に入れるものではない。


 まあるいほっぺたのビアンカが嘆く。


「いいなあ、リッキーは。働かずにすんで」


「毎日母のシゴキでそれどころじゃないんだ、悪いけれど」


「いいわねえ。磨きをかけるだけの手間暇を傾けてもらえて」


 大きな鏡に映る、マリアの視線が剣呑だ。


「この街のほどんどの人たちが、マリアを気に入ってるよ」


 マリアはことり、と櫛をテーブルに置いて、そっとため息。


「気に入られたいのじゃないの。男に貢がれたいだけの話!」


「ボクも自分にはこんなの似合わないって思ってるよ」


「リッキー! いいえ、サンドラ!! ボク、ではなくて、わたくし、よ」


「母がもう一人、いるみたいだ!」

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