まだ「花乙女」

 おかげで、名誉貴族らの矛先は王独りとなり、多くの民衆は巻き込まれることなく、天命をまっとうした。





 さて、アドラシオーの国王には一人の王子がいたが、彼に国王の座を受け継がせる気があるかというと、そうではなかった。


 王はただただ、かわいい一人息子を敵地に晒すことになるのが我慢ならず、ことに外交に力を入れていた。


 王子は、春になればヒナギクを喜び、夏になればヒナゲシを愛し、秋には野山の散策に共に木の実を拾いに、冬になれば風が入らないように、色模様の美しい上質のタペストリーを部屋にかけてやる。


 王子には剣や知略暴虐など、似つかわしくなく、いっそ教会でひっそりと穏やかに一生を終えさせてやりたい、などとも思っていた。





 そして、このアドラシオーの国には、唯一と言っていいほど、盛んな祭りがあった。


 それは、春の初めに。


 男性には高嶺の花を夢に見させ、女性には自ら『華』と化すという、それなりに歴史は古く、このアドラシオー国になったからこそ、磐石となった文化だった。


 それが十六歳になった、乙女の祭り。


 彼女らが大人になってゆく祝いの会だ。


 そして、その乙女たちを「花乙女」と言う……。

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