A君とB君の話

そこに、とても幸せで幸せなA君が歩いています。

すると、猫背で下を向き、iPodのイヤフォンで耳をふさいだB君が通りかかりました。

B君の姿は、負のオーラで溢れていました。

ところが、A君は幸せで幸せで、B君の肩を思いっきり叩くのです。

びっくりしたB君は、しぶしぶiPodのイヤフォンを外し、

死んだような目とともに顔をあげ振り返りました。

(そのとき彼のiPodが流していたのは「KID A」。とても暗いアルバムです)


A君は言います。

ようB君。どうしてそんな暗いオーラを放ってるんだい。

せめてその猫背をしゃきっと伸ばして、目の前の景色に目を向けようよ。

そういうのって大事だよ。そんな風にしてたら、幸せのほうから逃げちまうよ。

B君は言うとおりに目線を上げ、背筋を伸ばしました。

それから二人は、とても当たり障りのない会話をして、とある駅で別れます。


しばらくすると、B君はため息とともに、iPodを取り出しました。

少し音量を上げて「KID A」の続きを聞き始めます。


やがて電車は最寄駅に着き、B君は自転車に乗ります。

行き先は誰もいない公園。家には帰らないんでしょうか。

すると突然のことです。B君は罵声とともに思いきり、そのiPodを砂場に投げつけました。


くそっ、くそっくそっ!俺の幸せが邪魔された。

雑踏に紛れて暗い音楽を聞いて、世の中を憂う自分に酔う。

そんないつもの珠玉の時間を取られてしまった。


B君の砂を蹴り上げる音だけが、夜の公園に響きます。

そうしながら、B君は思うのです。

背筋を伸ばしてA君と話しているよりは、今のほうが幸せだと。

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ショートショートショート。 ソウナ @waruiko6

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