第9話 予備自衛官補 B その1

予備自補のB課程が始まりました。A課程より人員が減っていたり、前年にA課程を修了している人が合流したりするため、部隊が再編成されます。五日間をともにした仲間とも別の班になります。

教官の方も新しく何人か支援でやってきました。


B課程で印象に残ったのはやはり催涙ガス体験ですね。何十倍だったかに薄めた催涙ガスが充満したテントの中にガスマスクを装着したまま入って中でマスクを外してガスの威力とマスクの防護能力を実感するというものです。


まずマスクを装着します。襟も立てて首を防護しておきます。陸自の戦闘服は襟を詰襟のように立てられるように設計されています。準備が出来たら縦隊を組み前の班員の弾帯をつかんでムカデのように一列でテントに入ります。もちろん班長も一緒です。

中はすごく蒸し暑く、ガスの煙で視界が悪かったです。

「うわ、なんかヒリヒリする」このガスは皮膚にも刺激を与えるようです。露出した肌から日焼跡のような痛みがします。


「よし、防毒面外せー」班長が指示しました。皆一斉にマスクを外します。

「うわっ!痛え!」あちこちから声が上がり咳も聞こえました。鼻やのどの粘膜からものすごく刺激を感じます。超痛いです。たぶんこんなに粘膜を痛く感じるのはこれが最初で最後になると思いますね。

「咳するな!もっと痛くなるぞ」班長も慣れてるとは言ってましたが結構痛そうです。

班員のうち一人がヤバい状態になったため外にドナドナされていきました。それほどにヤバいガスです。でも薄口催涙ガスです。


「よしじゃあ課題を与えるぞ」あ、なんか見たことあるぞこれ

「〇〇予備自補」

「はい〇〇予備自補!」

「ビートたけしの物まねしろ」

「コマネチコマネチ!」

「よし!」

まさか催涙ガスの中でコマネチすることになるとは思いませんでした。おそらく一生で最初で最後の経験ですね。

「△△予備自補」

「はい△△予備自補!」

「X班長の物真似をしろ」

「(口調を真似ながら)ダンカンこの野郎!」X班長がよくこのギャグ使ってたんですよね。

「よし!」

こんな感じで班員全員お題をクリアしてテントから出ました。


ああ空気って素晴らしい

その一言です。事前に用意してあった洗面器で顔を洗います。顔面は涙と鼻水だらけでぐしゃぐしゃでした。水がネロネロになりましたね。当然ガスを浴びた戦闘服はそのままじゃ使い物にならないので洗濯することとなりました。

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