No.4 -2-


 004


 ほんなら続きやろか。ちゃんと-1-から読もうな。読んだ? はい。


 徐々に身体も温まって白熱し始める二人。そろそろ観客席とかの有象無象が追いきれんくなりだしてきて…。

 え、僕? まぁ視るだけやったらまだこの程度は。ヴァンにぃ全然本気出してへんし。

 ……とか言うてたら周りに気ぃ使ってかどうか知らんけど大技ぶつけ合って終わったみたいや。なんやティアさんの口上だのなんだのわちゃわちゃして帰ってきた。え、え、まじで?


「うぃー、つかれた」

「お疲れ様、にしても手ぇ抜きすぎとちゃう?」

「んあー? そうかー?」

「【竜の血D-glory】の力を欠片も使わんのはどうなんよー? そんなキャラちゃうやんか」

「なんだよ楽しみにでもしてたか?」

「そらそうやよ、吹雪さん仮にも竜殺しの技術者やし、竜に見初められた人との対決なんてそんなんまぁみれへんで」


 うがうが言うてるとティアさんがちらりちらりと合図を送ってるのに気付く、あー、言うてたら僕の番か。ぐぬぬ。うー、やだー、どうせあいつくるんやろー、うー。


「んじゃ俺の分もかっこつけてこい、お前の戦い方大好きだから見せつけてやれ」


 僕のぽんぽんしながらそんなことを耳元で。ぐぬぬ、ずるい、そんなんやる気出るに決まってるやん。この天然ジゴロめ、ちょいちょい意図的にやってるからやらしいんやけども。言うてる間に着々と準備が進んで……あぁ、ほらやっぱりきおった。


「ひさしぶりね、エル」

「会いとうなかったけどな、ベル」


 ベルモンド・I・オベリスク。僕と一緒で星文字持ち【imitation】のIを襲名しとるんやけども。僕のdestructionもベルのimitationも星文字の中じゃかなり異質なんよね。今の時期星文字に執着してる人間なんかあんまおらんのにこいつは鬱陶しいぐらい誇り持ってて、それでまぁ、突っ掛かってきよんのな。さて、んな適当にあしらおか。



 005


『あーい、そんなわけで本日の懇親会最後のプログラム、うちのエルとベルちゃんの模擬戦やりまーす。さっきの俺らの模擬戦、最後らへん何やってるか分からないって意見が出まくったので俺が実況やります、ヴァンです』

『伴って私、ティアが解説を執り行います、エルちゃん可愛いですね、可愛いです』

『ありがとう、お宅のベルちゃんもちょー可愛いよほんと』


 ホール内に鳴り響くマイクを通した声、何言うてるんやあの人ら…いやティアさんほんま猫可愛がりしてくれるの嬉しいけど、ほれ見てみ、ベルあたふたしとるやん。ていうか一応懇親会やのに砕けすぎちゃう? ヴァンにぃ最初の方やたらわざとらしく固くやっとったのに。


『ところであの根暗は?』

『つい先ほど出動要請が出ましたので』

『まじか、大丈夫な感じなのそれは?』

『大したことではありませんよ、すぐ戻るはずです、おっとごめんなさい、ではそろそろ始めましょうか』


 そんな声を背景に。四方を立体的かつ高度な結界が張られたステージに向かい合って立つ。


『ちなみに二人とも魔術師ってのもあるから今回は事前に魔力を練る、術式を組み立てる、法に遅延をかけるといったことは全て禁止してるぜ』

『魔法使いに準備時間なんて与えたら、というのもありますが、全く同じ条件でまっさらなタイマンでいきましょう、とのことですね』

『んでもって二人とも同門の魔術師だもんで、ガチのスペック対決になるから面白くなるんじゃねーかなー』

『はい、それじゃあ位置についてくれたみたいなので……いきましょうか! 懇親会ラストプログラム!! はじめっ!!』


 《戦闘熟練:魔法(上級)》†《上級魔術(氷)》†《詠唱破棄》†《彼岸の氷樞ニル・ヴァルナ

 《戦闘熟練:魔法(上級)》†《上級魔術(氷)》†《詠唱破棄》†《彼岸の氷樞ニル・ヴァルナ


 はん! ええ読みしとるやんけ!! 一瞬で沈めたろ思たのによう反応しよったな、全く同じ魔法で、完全に相殺っ、思てたよりつよぉなっとるわ。まぁ【思てたより】やけどな!!


「「【来たれAccess‼】!!」」


 《召喚契約:武器(杖)》

 《召喚契約:武器(杖)》


『おおうおう、いきなり上級氷魔法、しかも無詠唱、無補助でぶつけ合うとか、やるねー、んで互いに自分の得物を顕現、現界までの速度半端ねーな』

『凄いですね、私とかあのレベルの魔法唱えようと思ったら15分はいりますよ。ところでいちいち杖転移させるぐらいなら最初から持っておけばいいんじゃないですか?』

『(分かってて聞いてんだろうなこれ…)あー、多分魔素濃度の高い空間なり固有結界なりに収納しといて、高水準の魔術師が使う媒介は水物って言うしな。何より有事の際に楽だし』

『なるほどなるほど、うわ、すごい。氷塊やら火柱やら落雷やら、派手ですね。え、中級以下唱えてないじゃないですか、はえー』


 おーおー、ついてくるついてくる、しかも前と違ってえらい良い杖使っとんな。アドルフ作のRickenbackerやん。型番は4001、渋いやん嫌いやないで。


「そういうあんたこそ、トム・ウォーカーの……いやフォレスト・ホワイト製か、なんにせよStingrayだなんて高校生が持つ杖じゃないわ、しかも第五世代なんて垂涎ものよ」

 

 ん、よー知っとるやん。かなりのフェイク織り混ぜてんのに世代まで看過されたんは驚きやな。ちょっと前まで他人のマジックアイテムなんざどーでもええってスタンスやった癖に。


「そろそろペース上げてくわよ!!」


 《戦闘熟練:魔法(上級)》†《特級魔術》†《口上詠唱》†《儀式詠唱》†《詠唱媒介(杖)》†《コンボ:戦闘熟練:魔法(疑似特級)》


 右手に持った杖を薙ぐように振るベル、添うように光の軌跡が流れ、それを整えるように左手で空間をなぞる。……! 特級魔法やんか、口上詠唱、儀式詠唱の二重詠唱で無理矢理、いや杖を介した三段構えやね。ほんならこっちも…!


『特級!? まじかよ、高校生で疑似とはいえ特級魔法使える魔法使いエル以外にいたのかよ!』

『一応うちのベルを含んで五人いますね。内四人がなんらかの手管で戦闘熟練を疑似特級に押し上げて、という前置きはいりますが。おっと、エルちゃんも特級魔法陣、え、ちょっと待ってください特級魔法のぶつかり合い想定してませんでした、結界耐えますよね? ね? 結界班気合いいれて!!』


 《戦闘熟練:魔法(上級)》†《特級魔法》†《魔導師(仮)》†《吸血鬼》†《コンボ:戦闘熟練:魔法(疑似特級)》


 ティアさんの声と同時に、結界を精製してはる人たちの顔色がみるみる青くなっていく。どーせやったら壊すぐらいのノリでやるけどなっ。いくでぇ!


「目覚めよ、六番目。司るは鳴雷、役は黄、勒の月。季夏、皆仕尽く弥涼暮、杜若、著莪、一八短夜、夜焚釣堀、南から吹き荒ぶ風。いと高き窮霆、いと深き赤河。某を駆けるは雷の皇。禍雷、赫雷、帯びよ、熱せ、落ち、神よ、鳴り、放て!!」

「目覚めよ、四番目。司るは黒耀、役は紫、死の月。陰、建巳、角を落として八十八夜、人丸忌、花供養、御身拭、御忌、御影供、壬生の念、嵯峨の仏。圧し、呑み込め、万を絶やせ闇来、某は破れた世界。某を揺蕩うは白金の主、廻り、出でよ!!」


 相対する少女が二人。

 一縷の遑無く、予めそう決められていたように同じ速度で編み上げられる、一つの到達点。魔の真髄。

 賢者と呼ばれ、崇められるような存在が、その生涯を経て手繰る権利を与えられる、果ての力、八柱の二。その名は。


 《特級魔法(雷)》†《舞う朽葉massicot Judas

 《特級魔法(闇)》†《堕つ紫音Orchid Aphrodia


『超重力の奔流と幾千の雷、凄まじい魔力のせめぎ合いですね、格の低い天使ぐらいなら降ろせてしまいそうな力場が発生しています!』


 ん、んんん、押し……きれんね! 相殺しきっとる、けどまぁ、それで終わるんやったらそこまでやでな、こっから、いくで!!


 《古代魔法(氷)(雷)(炎)》†《遅延》†《氷嵐の支配者1st》†《雷鳴と共に現る者2nd》†《偉大なる赤竜3rd


起動open‼次いで混成composite‼


 《魔術:オリジナル》†《昏き海淵の禍神4th》†《魔術接合》


『おいおい飛ばしすぎだろ、特級に及ばないとはいえ戦闘中に古代魔術の最上級を三つ遅延させてた上にそれを連結させたのか』

『しかもあの難易度のスペルをナンバー化で略して連ねるなんて、でもうちのベルも…』


「ちんたらやってると思ったらそんなことやってたのね貴女らしいわ! ならそれを、上から打ち砕く! 【重なれUnison‼】」


 《分割思考》†《コンボ:二重詠唱》†《特級魔法(炎)》†《轟く紅蓮Crimson Augustus


 特級二重詠唱!? しかも完全に共鳴させてる、うちの学園にそれ出来る奴何人おんねんって話や、けども! それぐらいなら許容範囲や!


「こいつで……どうや!!」


 《具現結晶》†《コンボ:セフィロトfinal





 005


「ヴァンにぃ…怒ってる?」

「怒ってねーよ」


 時間も場所も飛んで帰りの車内。ヴァンにぃの向かいの席に座りながら。あの後普通に最後の締めを帰ってきた吹雪さんと二人でやって、簡単に上への報告を済ませて、帰路に着いてるわけなんやけど。

 あの決着は、というかなんというか、簡単に言うたらヴァンにぃに止められてんな。そこそこ本気で。【星の子】の力使ってたもん。


「うー、でも」

「熱くなっちまったんだろ、しゃーねーよ、ライバルってやつにはどーしても負けたくねーもんな」

「そ、そんなんやないけど」


 言うたら、僕のあれまだ未完成の創作魔術なんよな。一応戦術的実用性度外視のロマン砲みたいなもんやねんけど、コンセプトとしては特級より上の火力って感じの魔法で、それでなくとも最後にベルがもう一つ特級重ねてきて、あのままぶつかってたら会場はおろかあっこの本部周辺にクレーター出来とったやろうなぁ。


「エルがあれだけ冷静さ欠くってのも珍しいしな、叱りはするけど怒りはしねぇよ」


 こつん、と僕の頭を小突くヴァンにぃ。いや、でもまさか特級を三つ重ねれるとか思ってなかってんもん、あれなかったら普通に僕が押し勝ってたからな。


「お、言い訳なんて重ねて珍しいな、まぁでもかっこよかったぞー、やっぱり見てて本当綺麗だわ」


 ぐりぐり、と頭を揺さぶられる。存外気持ちいい。


「ん、ああいう相手って貴重だからな。ベルちゃん、大事にしてやれよ。んで禍根あるなら早めに立ち切っとけな。相談ぐらい乗ってやっから」

「……あいつが絡んでくるだけやもん」


 楽しかったけど。

 やたらにやにやしながら嬉しそうに僕の髪を弄んでくる。むー。

 にしても、疲れた。はよ帰りたい。


「寝てていいよ」

「んぁ、んー」


 めっちゃ大きい欠伸してもーた。見かねるまでもなくそうやって言うてくれるからお言葉に甘えちゃお。ヴァンにぃの寝てていいよは着いたら起こす、じゃなくてお布団まで運んでくれる、やからね。


「おやすみなさい」

「おう、おやすみ」

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