No.4 -1-


 000


 それこそ星の数ほど膨大に増えた人類。人、ヒューマン。亜人だのなんだの含めると数えきれないぐらいの生き物が、今比翼グループという組織下、人権というものを持つ。

 そんな中、現人類にはファーストネームとラストネームの間にアルファベットを一文字持つものがそれなりにいて。チームオルフェウスで言うところのエルレイン・D・ライオンハートである。

 これを【星文字】といい。それを持つものを【星の観測者スターゲイザー】と呼ぶ。

 数世紀前、人類という種族を比喩抜きで頂点まで押し上げた、テラフォーミングもといユニバースフォーミング計画というものがある。

 これの先導者27名。

 彼らの名前、異名の一部を人類が感謝として形に遺した。そして代々その血族には恩謝として引き継いでいったのだ。

 殆ど形骸化してしまった概念ではあるが、未だに星の観測者はある程度重んじられるし、あらゆる分野のトップには何人かいるものである。

 余談ではあるが比翼グループの現総帥は、ユニバースフォーミング計画でリーダーを務めた男、通称【Adam】始まりの徒である彼の血を継ぎ、誉れあるAの文字を持つ。

 今回の話は【destruction】と呼ばれた魔女の末裔、エルレイン・D・ライオンハート、苦難の一日の様子である。



 001


 えーっと、今日は、定期星団間懇親会の日。なんや名前ころころ変わるけどよーするに星団と星団で仲ようしましょーって企画やねんけども。

 言うたら違う星団とでも連携が取れるように、違う星団であれトップ同士がどんなチーム形態か理解しておけたり、それを踏まえて自チームの糧にしたり。

 星間情勢的にもパワーバランス的にはかなり上位に食い込んどるガッケイの番頭クラスが定期的に顔合わせてるってのは大事だとかなんとかあずねぇからちょい前に聞いた。

 ぶっちゃけ当の本人達サイドからしたらモーションというかかなり形だけって部分があるんやけども……まぁ僕らも組織の人間で、好きなことやらせてもらいながらお賃金もいただいてる訳やからこういう企画は真摯にやらざるを得んのよねぇ。

 今回のプログラムはチームオルフェウスとチームセイリオスの交流、ということなんやけ、ど、も。

 オルフェウス側からは二名。セイリオス本部へ出向かう事になりまして、そりゃあまぁちょっと事情がある僕らとしては大いに揉めまして、その結果。


「なんで僕なんよぉー」


 何故か僕が選ばれたんよね。なんでなん。なぁ、なーんーでーなーんー。

 あずねぇでも鈴ねぇでも連れてけばよかったやんかぁ。しずにぃはまぁ、うん。

 という訳で向かってはいるものの二時間弱ぶーぶー言わしてもろてんねんけど。


「僕セイリオスあんま好きやないんヴァンにぃも知ってるやろー? なぁー」

「知ってるよ、んでエルもご存知の通り俺もセイリオス好きじゃねーんだよ」


 事のあらまし的にはあずねぇがいい加減そういうのやめなさい。って無理矢理上に早い段階でヴァンにぃと僕が行くってことを伝えたんやとか。ぐぬぬ。

 ちなみに前置き、僕もヴァンにぃも決してセイリオスって組織自体が嫌いなんやなくて、そこにいるある人物を毛嫌いしてるだけなんよね。


「そろそろ着くぞー」


 ぶーぶー言うてる内にセイリオスの本部が見えてきた。我らがオルフェウス本部よりざっと約15,000km。時間にして二時間半。

 言うても乗り継ぎとかの待ち時間が殆どやから実際には一時間かかってへんけども。聞いた話では星団間、というか比翼グループの主要建造物には大概位置転送システムがしっかり用意されてるらしいんやけど有事の際しか使ったらあかんねんてー。

 近場のターミナルから歩いてやぁっとついたーってところで。


「お待ちしておりました。エヴァンス様、エルレイン様」


 と、なんや堅物そうなにーちゃんが出迎えてくれました。ちなみにセイリオスは本部に何千人ぐらい据えてるらしくて、それに伴い敷地面積がうちんとこの何十倍。より役所っぽい外観で親しみにくいんよね。

 まぁほんまにこーいうのは星団の特色というかほぼほぼリーダー側のオーダーに従事するからねぇ、十三星団ともにばらっばらでおもろい。

 せやせや、エリダヌス星団のトップ、チームレグルス。あっこはなんと本部に一人で構えてるんよね。リーダーのオズマ・トリリオン=オリオンさん。

 【座する銀河の果てリバティガーデン

個人戦力としては比翼グループとしても上から数えた方が早いんよ、めっちゃ強いしその上面白い人なんよね何回か会ったことあるー。話えらい逸れてもうたね、言うてる間にエントランスホール抜けてなんやイベントルーム? に通してもろたー、広い、しかし広い。来るの三回目ぐらいやけど。


「よぉヴァン、久しぶりだな」


 すると中心で待っていたのはセイリオスのリーダー、凍道 吹雪さん。その隣に秘書みたいな役処をしてはるメシュティアラ・ホワイトアッシュさんのお二人。ヴァンにぃに声かける手前僕は軽く会釈しながら周りをぐるりと見渡してみる、んーー、今のところあいつはおらんみたいやな。


「チームオルフェウス。エヴァンスロード・アルフィーネ、エルレイン・D・ライオンハート。両名ただ今馳せ参じました。本日は懇親会ということですが、胸を借りさせていただき、互いがより良い組織となるように、より良い連携を取り合えるように、質の良い時間を過ごしましょう」


 あー、意地が悪い。てかシンプルに子供……ヴァンにぃほんと吹雪さん相手になるともう……わざわざ相手がラフに来てくれてんのに、面子潰しに行くとか、悪いわぁ。

 まぁずらーっとおるセイリオスの面々には慣れた光景やろうし、流石にお偉方とかおったらヴァンにぃもこういうことせんのやけども。絶対あずねぇ来た方がよかったやんかあ。


「………………」


 あ、ほら、もー、ぴくぴくしてるやん。吹雪さんも吹雪さんでヴァンにぃ相手やと大人気ないからなぁ、あー胃が痛い。周り皆おんなじような顔してるわ。ティアさんはにっこにこしとるけど。


「こほん! わざわざご足労ありがとうございます。お二人のご到着を心待ちにしていました。本日はお話しの時間を幾らか設けさせていただいた後、軽いオリエンテーションを企画しております。まずはお疲れでしょうしもてなさせてくださいませ」


 と、この場で一番大人な対応をしてくれたティアさん、なんでそんな楽しそうなんやろう、不思議や。

 案内されるがままに別室へ向かわせてもらうけど、僕魔法使いやらしてもらってるけども頭脳労働はあんまりやねんなぁ……



 002



「んんんんん、疲れたぁああ、ヴァンにぃいいい」


 ぐぐぐーっと伸びをする僕、ぽきぽきと身体中の間接が音を鳴らすほど凝り固まるぐらいには時間が経過してます。

 さっきまでミーティングルームにおったんやけど、今は客室みたいなところでヴァンにぃと二人でだらだらしてる。セイリオスの人たちからは準備が云々かんぬんって事でちょっとした待ち時間。


「おー、おつかれー、がんばったなー、えらいぞー」


 こういうのが心から嫌いなヴァンにぃは相当疲れた様子、もたれかかってる僕を労い頭を撫でてくれているものの生気がまったくあらへん。

 何したかって言うたら各々の星団について活動内容だのなんだの。人員、予算がどのように運用されてるか、とか。管轄がそこまで遠くないために競合、というか協力する場面においての動き方、とか。の話し合いみたいなもので。なんやこの件報告書まとめなあかんとかなんとか。

 いやまぁそもそもこの手のものに関してヴァンにぃ(吹雪さんもそれなりに)がポンコツ寄りであることはそれなりに周知の事実なのであずねぇの根回しとティアさんの心遣いによって、当初この企画について上から降りてきていたカリキュラムをなぞりながらも形として悪くはない報告書にまとめあがったそうな。


「ヴァンにぃ元気だしてぇなー」


 ぐいぐいしてみるも返事がない、ただの屍のようや。僕の頭撫でるマシーンと化してしもうた。折角やし数十分ほど堪能しとったらこんこんこんっとノックの音。


「はいー」

「失礼します」


 がちゃり、とドアが開く。

 さぁて、がんばるで。



 003


 ところ変わって最初のイベントルーム、の真下。バトルルームとかなんとか言うところに通してもらう。言わずもがな、互いの力量どーのこーのってやつやね。面倒くさい。

 プログラムとしてはヴァンにぃ対吹雪さん。んでその後うちが幹部の誰かとやるみたいなんやけど、まだ相手聞かされてなくて嫌な予感しかしいひん。あるてぃめっとかえりたい。ヴァンにぃはやる気なさ気。でもぼっこぼこにするってずっと言うてる。まぁ、ちょっと楽しそうやけど、ヴァンにぃくらいになると実力の近い相手とやり合う機会なんて早々無いやろうし、そこに楽しみ感じれる人やったら余計や思うわ、その相手が吹雪さんってのはヴァンにぃ的には不服で仕方ない、みたいな感じやろうけど。


「じゃあ、そろそろやろうか」


 と、バトルサークル? に立ちながら、吹雪さん。ちなみに観客席みたいなのも用意されていて、周りはずらぁっとセイリオスの面々、アウェーやでアウェー。

 ほんの少し前までなんやらご託延々と並べさせられてたからそろそろヴァンにぃもいらいらしてるやろうなぁ。あずねぇいっつもお疲れ様やでな。


「んーー」


 柔軟を繰り返しながら軽く返すヴァンにぃ。あ、ちょっと本気や。楽しみ。


「どっからでも、どーぞ」


 ゆらり、と姿勢を伸ばし、構えを作る。

 吹雪さんは周りを見渡し、ティアさんの方へ向くとなにやら合図を送る。向こうもこくりと頷く。


「じゃあ……始める、ぜっ!!!」


 《流派:血凍流》†《戦闘熟練:刀(上級)》†《魔術付与(氷)》


 言うと同時、長太刀を抜いたと思った瞬間にはそれをヴァンにぃに向けて一直線に投擲。……投擲?? あの長い刀を? あの体勢から? 意味わからん。

 こんなこともあろうかと簡易な視力強化魔法はかけてたんやけども、その軌跡は全く見えてへん。


「遅い」


 ぱしりと、指と指の間で長太刀を受け止めるヴァンにぃ、かっこよすぎか。何で避けるどころか受け止めれるんやろうか。

 まぁでもそれ、僕でも分かるくらい悪手や思うんやけど、折り込み済みやろうなぁ。


「遅いのはお前の判断じゃねぇの?」


 《戦闘熟練:魔法(中級)》†《コンボ:遅延》†《魔力解放(氷)》†《魔術:アブソリュート》


 悪そうな笑みを浮かべる吹雪さん。ヴァンにぃが何か言おうとした時には。サークル上狭しと氷塊が現れとった。


「すっご……」


 思わず声が出てしまう。恐らくは長太刀に魔法かなにかを付与させて、遅延魔法だのをかけてなんらかの衝撃とかの条件付けで発動するように仕込んでたんやと思うけど。特になにかしらのモーションも見えんかったし、ここまで大規模なものにディレイかけておいて一瞬で顕現ってのが凄い。

 戦闘前から準備してたなら僕も気付くやろうし、エンチャントしたのは抜いてから投擲までの瞬間やろうなぁ。幾ら簡易的な魔法とはいえここまでの威力になると暴力みたいなもんやで。


「いやまぁ、お前のやることなすこと全部一個ずつ潰してやろうかと思ってな」


 《星の子》†《人星一体:60%》


 質量の塊と化した氷塊がぱきぃいんと細雪のように砕け散り、渦中にはヴァンにぃ、無傷。あほか。


「性格悪いなお前」

「お前には言われたくねぇよ、不意打ちなんてせこい真似しやがって」


 意思を持った生き物のように長太刀が吹雪さんの手元へくるくると戻っていく。それを見向きすらせず手に取り、ヴァンにぃの元へ駆け抜ける。

 斬る、斬る、斬る。遠くから俯瞰で見て、その軌道にのみ集中してようやく概ね見切れるほどの速度。勿論それを遊ぶように避ける。にしてもあんな長い刀使いながら驚くほど綺麗な太刀筋。

 確か、血凍流。ヴァンにぃの愚痴でよく出てくる。

 斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬、斬、斬斬斬斬斬斬。一つ一つがまるでパズルのように、機械仕掛けの歯車のように。まるで最初っからここまでのルートが明確にあって、それをなぞるように模倣してるかのような、高速の連撃。芸術って言ってもいいぐらいの超絶チェーンコンボ。これは有名。


 《流派:血凍流》†《対人三式》†《血凍流:一の道:舞凍》

 

 ため息出るくらい綺麗やね。対人三式、人と戦うために特化した技術。元々龍殺しの流派やのになぁ、おかしいなぁ。ただ、うちのリーダーには当たらへんけどなー。


「ふっ…」


 《血凍流:泡沫》


 途端、ヴァンにぃの喉元に狙いを定めていた刃がぴたりと止まると、最初からそこにおったみたいに距離が空く。多分、歩法の一種。ちきん、と軽い金属音。


 《流派:血凍流》†《戦闘熟練:刀(上級)》†《コンボ:居合い》†《血凍流:絶》


「っちぃいい!!!」


 ちょっと僕には見えへんかったけど。どうやら居合い抜き。かなり高密度な斬撃付き。流石にヴァンにぃも血相を変えて防御に転じる。なーるほどなー、ここまでが一連やったわけか、ヴァンにぃのあんな顔始めてみるわ。


「やるじゃねぇか根暗」


 《星の子》†《人星一体:100%》


 なんとか捌いたヴァンにぃ、すたりと着地すると、おっと、臨戦態勢。明確に攻めの姿勢とってるとこほんっまにレアやで。


「はっ、能天気お気楽野郎が、さっきから防戦一方じゃねぇか、おら、きやがれ」


 口悪く煽る吹雪さん。単純に攻守交代の合図だと思うんだけどこの二人は一々罵り合わなあかんらしい。わざわざ周りにこんな魅せプレイしときながらあくまでわざとじゃないって体を貫き通したいみたいやね。

 ほんま鈴ねぇの言うとおりただの仲良しにしか見えへんけどなぁ。

 てな感じでその後もチュートリアルかってぐらい丁寧に二人のじゃれあいがその後三十分弱続くんやけど。

 せやな、長いからこのへんで分割しよか。何がって? 気にしたら負けや、気にしな気にしな。じゃあ次いくで。

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