No.3 -1-



 001


 はい、私のパートです。

 現在。私、飛 鈴鳴と兄様がいるこの空間は、チームオルフェウスの本部が階下地下五階。ほぼほぼワンフロア使い切った贅沢な訓練施設になっております。

 その中心に簡単なバトルサークルのようなものが作られており、先の約束通り、私のやがままでここでお手合わせをしていただいています。あれから結構時間がたった気もしますが勿論今も兄様に組み手をしていただいてる真っ最中で。お強い兄様に翻弄されてばかりだけれども、なんとか一撃当てるのが本日の目標です。


 《戦闘熟練:素手(上級)》†《流派:天鳴流》


「はっ、やぁあ!」


 距離をおいてからの牽制、左の肘。やはり当たらず空を切る、そんなことは最初から承知の上、これは詰め将棋のようなもの。口に出さずとも師事のお上手な兄様。私に様々な課題をくださっています。

 それを一手一手、少しでも兄様に触れられるように、詰める、詰める。詰めていく。相手のエリアを占領していくように。きっと答えが用意されているはず。

 流れるように、ぐん、と体重を乗せた右の拳を兄様へ。


「ふっ、はっ、せいぃっ!」


 首だけ動かし紙一重で避けられる、ものの、勢いを殺さず突き出した右腕を折り曲げて、地面を踏み締め、右肘を押し出す。一歩後退し、上半身をくん、と引いて寸でかわされる、そこへ畳んだ腕を戻すように反動を使い拳を振り下ろす、当たらない、更に爪を立て水平に薙ぐ。我ながら綺麗な連撃、だと思ったのですが。


「はいそれだめー」


 と兄様、手首を掴まれ、勢いのままに引っ張られます。重心が崩れたところに足を引っ掛けられて、すとん、と転ばされてしまいました。


「きゃっ」


 ですが腰に手を添えられ、地面にぶつかる寸前で支えていただきます。咄嗟に声が出ちゃいました、恥ずかしいです。ああいう声ってどこから出るのでしょう? 矯正出来るものなのでしょうか? 変な声だと思われてないでしょうか…うう、顔が熱いです。


「う~、兄様は強すぎです」


 ぺたんと地面に腰を落とし、頬を膨らませながら拗ねたように兄様に言ってみました。あざといのは承知の上です。にしても動きを止めると汗で濡れた髪がへばりついてるのが凄い気になります。うー、気持ち悪い。はっ、私汗臭くないでしょうか、どうしましょう。シャワー…でももうちょっとしたいです。


「鳴も強いよ、ほんと、流石俺が選んだだけあるわ」


 そんなことを考えていると、そんな風に褒めていただけました。嬉しいです、顔がにやけちゃいます。うふふふふ。

 おっと、兄様がぱたぱたと首元を仰いでいます、鎖骨がちらちら見えています。代謝がとてもよろしいので首の血管がこれでもかと浮いています、これはえろいです。ガン見してもよろしいでしょうか、いやしますけど。

 ちなみに今、兄様と私が着ているこれ、一見すると機能性の良さそうなジャージにしか見えませんが、実は学園警察官全員に支給される制服でして。

【重変形術式採用型学警装束】だとか大層な名前が付いている大変特殊な制服なのです。ちなみに一着で簡単な車が買えちゃうぐらいの費用がどーのこーのです。

 名前の通り様々な用途、着用者の意思にに応じて瞬間的に変形します。変形させる時はさせたいモードをイメージしながら胸の紋様に手を当てるのです。ちょっとかっこいいですね。正直こういうの嫌いじゃないです。

 で、これはそのうちの一つの形態、学警装束訓練時限定形式『ラクティスフォレスト』これまた大層な名前ですね。企画担当は厨二病なのでしょうか。まぁ比翼の開発部? かなにかも学生が多いと聞きますので必然ではありますが。

 あ、余談ですが学園警察は縮めて【ガッケイ】と、この制服はよく【ガップク】と呼ばれます。私はなんだが流石にそのノリは恥ずかしいのでそうは呼びません。

 それと『ラクティスフォレスト』は目に優しい緑色が特徴で、これまた思考一つで長袖、半袖への変更も可能になっており大変便利ですね。凄いです。更には汗を吸収、即座に分解、イオン系の物質に変え、放出してくれるのだとかなんとか。科学、化学は苦手です、きらいーです。

 また着用者の体温変化にも気を配ってくれていまして…と、長くなってしまいました。


「ふぅ、もう一回いいですか兄様」


 一息ついてから、何度目かは忘れましたが、軽く柔軟をしている兄様に懇願してみます。答えをほぼ分かった上で聞くのは意地が悪いでしょうか。


「おう、今日はいくらでも付き合うよ」


 と、微笑んでくれる兄様、分かってはいても頬が緩みますね、ふふふ、今日はいい日です。いっぱい甘えちゃいます。


「ほんとですか!? じゃあすぐやりましょう!」


 と、いう訳で、立ち上がりもう一度ぐっと体に力を込め、息を整え、気を高めゆるりと構えを取ります。すると兄様が。


「天鳴流、だっけか」


 と呟きます。そうなのです、これは父から受け継いだ、飛家一族秘伝の自慢の武術なのです。かなり由緒正しい武術だとかなんとか、比翼にもそれなりに居たとかなんとか聞いた覚えはありますが。そこまで有名でもないのでこの場合は兄様が博識なのです。なんてったって私が在籍する前からその存在を知っていたのでかなり驚きました。


「はい、皆伝したとはいえまだまだ未熟ですが」

「よく言うよ」

「いえいえ、兄様ほどではないですっ、よっ!」


 話の途中ですが、地面をだんっ、と蹴って間合いを詰め、突きを繰り出しちゃいます。いわゆる不意打ちというやつですね。なりふりはこの際構わずに一撃を当てる、一度立てた目標は実行しなければ、です。

 独特の重心移動と、体運びから流れるように放つ突き(不意打ち気味)普通はこれで大抵の相手は沈むのですが。


「おおっと、珍しく今日は卑怯だな」


 なんて意地悪そうに笑う兄様。私が突きを出す瞬間に、一歩私側に、半身反らした形で踏み込み、完全にかわされました。化け物でしょうか、この人は父様の何十倍強いのでしょう。


「たまにはこういうのもやってみようと思いましてっ」


 私の真横に位置する形の兄様、体勢は変えず、地面を思いっきり踏み締め、肘からいれるように左右にかなり内功を練った掌底、のつもりだったのですが、振り下ろし気味の腕の手首を掴まれ、先ほどのように重心を崩されます。

 ガクン、と急な高低変化した時のような感覚が私を襲い、眼前には地面が広がってゆきます、しかし、私も二度同じ手で負けるような女ではありません。きっとわざわざ同じ場面を作ってくれたのでしょう、このあたりは流石兄様です。


「やぁぁああ!」


 兄様が足をかけようとした、その時に。敢えて自分から跳躍ぎみに脚を浮かせ、流れるように空中で捻りを加えてからの踵落とし。 これでどうでしょう!


「まぁ発想自体はいいかな」


 私の予定では逆側の腕で防がれ、そこからもう一撃、という予定だったのですが、綺麗にかわされ、ガシッと体を受け止められてしまいます。気付けば上手くお姫様だっこの形になってしまいました。これは大変なことです。どうしましょう。どうしましょう。


「に、兄様!? お、降ろしてくださいまし!!」

「? いや、降ろすけど」


 心臓が跳ね上がり顔を真っ赤に染めた私とは対象的に、ぽかんとした様子で私をゆっくり降ろす兄様、不意打ちです。不意打ちなんてしては駄目です、不意打ちなんてするのは悪い人です。ずるいです。更に言うならすぐ降ろすんかーい、です。ばっきゃろい、です。この人は、ほんとに、ほんとにもー、ですね。

 と、一人で悶々としていたら、奥側の扉が開きました、誰でしょう?


「ヴァンにぃー、鳴ねぇー、おるー?」


 あらあら、エルちゃんでした、後ろにはノア君も付いてきています。かわいい。おいでー。


「いるぞー、どうした?」


 わしわしとエルちゃんの頭を撫で回す兄様、本当、兄様の撫で癖には困ったものです。とはいってもエルちゃんはいついかなる時も撫で回したくなるので気持ちは分かりますが。あ、ノア君が私のところに来ました。可愛いですねー、素晴らしい毛並みですねー。よーしよしよし。


「あずねぇが呼んで来いってー、そろそろ三時間になるし」


 …………へ? さ、三時間!? 嘘、もうそんなに経ってます? き、気付きませんでした。兄様怒ってないでしょうか、呆れてないでしょうか。まぁそんなことでそんな感情を抱くような兄様ではないとは分かっているのですが、やり過ぎてしまいました。


「あー、ほんとに心配症だなぁ、体調管理ぐらいきちんとしてるっつーの」


 と、こんな感じに私の反省などは露知らず、姉様にだけはいつもツンとしている兄様、幼馴染というやつらしいです、少し羨ましいですね。幼馴染み欲しい!


「えー、僕が折角ケーキ作ってあげたのにいらんねんや、ふぅん」


 にやにや口角を上げながら、わざとらしく笑うエルちゃん、あらあら悪そうな顔しちゃってまぁ。この後の展開ほど読みやすいものはないですね。


「いく」


 ほら、兄様は甘いもので簡単に釣れちゃうのです。甘いものと猫さんがなによりも大好きな兄様。ですがお優しい兄様は、すぐにはっ、と気付き。


「あ、でも、な、ぐ、むぅ…」


 私に一日付き合う、と言ったからにはと考えてらっしゃるのでしょう、うんうん唸っています。ここでちょっと意地悪してあげてもよかったのですが、流石に三時間も通しでつき合わせていたのも悪いですし、兄様可愛いですし。おすし。


「大丈夫ですよ、行きましょう兄様?」


 どんな過酷な状況に追い込まれても、滅多なことではうろたえない兄様がうろたえているのは面白かったですが、少し可哀想なので、腕を引く私、たまには大人なのです。えっへん。


「ご、ごめんな? 後でまた付き合ってやるからな?」


 と、申し訳なさそうに私の頭を撫でてくれます。きゃー! きゃー! 今汗かいてるからやめて欲しいですー!!


 


002



「ほんとにエルはお菓子作るの上手いな、すげー美味しい」


 もくもくとせわしなく、今を逃せば今生食す機会に恵まれない、と思わせんばかりにエルちゃんの作ったお菓子を食べる兄様。

 普段は礼儀、作法もきちんとしてるのに頬にクリームをつけています、あざといなぁ、流石兄様あざとい。ずるいぞー、です。


「やろーー? お菓子作りは魔法と似たようなもんなんよー」

 

もうそれはそれは嬉しそうなエルちゃん、か、可愛いです。持って帰っていいでしょうか、いいですね、はい、持って帰ります、私のです、あげません。


「いや、でもほんとに美味しいわよね」


 フォークで綺麗に一口サイズに分けて口元に運ぶ姉様、なんだかんだ言いましてもこのチームで最も女子力が高いのは姉様です。

 兄様は絶対認めませんけど。見てくださいあの清流のように透き通る白い手、滑らかで艶やかな曲線を描く指、これはもうフォークになりたいですね。何を言っているのでしょう。でもやばいんですよ、なんかこう、色気が。ほらもう、ケーキ食べてるだけでえろい、えろえろです。なんで髪かきあげるんですか? 誘ってるんですか?


「そういや沈は?」

「なんで私に聞くんですか、知りませんよ」


 聞かれたものの、ちょっとぶっきらぼうに返してしまいました。大方皆の前で男として甘いものを食べるのが恥ずかしいとかそんな感じでしょう。何故その思考自体が恥ずかしいと気付かないのでしょうか。あれは本当にもう少し兄様を見習ってですね…


「んー、じゃあ僕持っていくー」


 と、軽く一人分お皿に分けたったったっと歩いていくエルちゃん。もう、ほうっておけけばいいのに。いいこですね、ケーキいらないからエルちゃん食べたいです、あ、でもやっぱりケーキいります。ごめんなさい。


 はい、少し、間をおいて。


「あ、ヴァン、ちょっと聞いてくれる?」


 頷く兄様を見て食べながらでいいから、と前置きをしてから話始める姉様。唇についた生クリームを薬指でなぞるように拭いながら、えろ、むらむらします、おい。


「最近ね、星全体のあらゆる所で機械トラブルが異様に多発してるのよ」


 機械、トラブル? ははー、機械とかそういうのは私は駄目ですので困りましたね。そもそも機械なんていらないんですよ、全部自分でやればいいんです!


「あー、例えば? 携帯端末とか?」

「ううん、違うの、もっと大規模。この星自体元々はある程度人が住める環境ではあったんだけど、もっと大人数、かつ様々な種族を適用させるのにかなり人の手を加えた」

「星の位置関係、引力、重力、元素とかいったあらゆるものの理想環境化、だよな」

「そう、それらを半永久的に持続させている、この星にそれこそ星の数ほどある制御装置・・・それが事故とは思えないレベルで故障、誤作動を繰り返してる」

「被害は?」

「今のとこはそれぞれの管轄が上手くやってるみたいでそこまでの被害は出てないわ、でもこの間隣のシリウスの管轄で温暖化機構の不順が起きてね」

「シリウスんとこは寒さに弱いのが集まってるもんな」

「そう、ちょっと大変だったみたい、でも吹雪さんの活躍で一切の被害がなかったらしいわ」

「あぁ、そういやあの根暗はシリウスだったな」


 と、私にとってはちんぷんかんぷんな話が続く中、姉様が吹雪さん、と言った瞬間、露骨に兄様の機嫌が悪くなります。かわいい。

 えーとですね、基本的には各星団のトップに立つようなお方であれば大抵の方が二十を過ぎてらっしゃいますが、十三星団中三星団のみ、兄様と同じ歳の方が務められています。

 まずは兄様の大親友、カノープス星団、チームアルバトロスのリーダー。『闇極南極星クロスサザンクロス』ことクラウス・アルバーンさん。

 兄様はアル、と呼びます。この人もめっちゃ強いです、化け物です。

 そしてもう一人が件の吹雪さん。

 シリウス星団、セイリオスのリーダー、『蒼光氷狼牙ブルーフェンリル』こと、凍道とうどう 吹雪ふぶきさん。

 長く白いマフラーと、身の丈以上にある長太刀が特徴です。兄様は根暗と呼びます。別に吹雪さんに根暗な印象はないですしアクティブな方なのですが、曰く、前髪が長すぎるし(以前私たちには聞こえないところでエロゲの主人公かなんかかよ、と言っていました)堅苦しいし笑わないし、だそうな。

 いわゆる犬猿の仲ですね。傍から見ればただの仲良しさんですが。

 吹雪さんの誘い受け、か、兄様の鬼畜攻め…ええ、ええ、やめておきましょう。


「わかった、警戒するに越したことはないな」

「ん、お願いね」


 あら、いつの間にかお話が終わってしまいました。むっ、ケーキもなくなっています、兄様の馬鹿。食べ過ぎです。

 にしても気付けば夜ですね、晩御飯の前にデザートを食べてしまいました。

 エルちゃんは思い立ったら即派なので、ここにいるとこういうことが多々あります。


「さて、じゃあ体動かすか」


 立ち上がり、私の方を見る兄様。かっこいい……違った。え、今なんて言いました?


「え、あ、はい!!」


 突然のことに嬉しくなって少しばかり声の上ずる私、恥ずかしい。今かなり変じゃありませんでした? もう、もう。


「一時間ぐらいしたら晩御飯作るから、それぐらいに帰ってきなさいね」


 と、姉様、ふふふ、お母様みたいです。兄様と一緒に返事をしてから訓練所に向かいましょう! いきましょう!!


 003


「さて、んじゃそろそろ本気でこいよ、この頃出せてないだろ、思いっきりぶつかってこい」


 着くやいなや、お兄様。

 少し上げようかなぁとは思っていましたが、まさか、まさかそんなことを言っていただけるだなんて。


「え、いいのですか……? その」

「いいよ、全部外せ、全部でこい、受け止めてやる」


 やば、今の着ボイスにしたい……ではなくてですね。

 どうしましょう、すっごく嬉しいですが、全力全開はここ半年ぐらいやってないので自分でもどうなるやら……いや、お兄様なら。


「では、お言葉に甘えます……少しお時間いただきますね」


 ふぅ……まずは、百重に掛けてる負荷術式を……解く。筋力300%、神経系200%、伝達速度300%各低下、弱体化、解除。ん、んんん……!! 遅延式、靭帯、筋繊維の硬化、リセット!!

 …………んんんん、ふぅ……。

 軽い、あー、今凄い気持ちいいです。


「……で、最後にそれも」

「あ、はい忘れてました」


 手首と、足首、その他四ヶ所に付けてる特別製の重り、重力魔法を詰め込んだマジックアイテムでスイッチとレバー一つで0kgから5tまで上げれる不思議アイテムです。ちなみに水に濡れても大丈夫!!

 レバー回せばいい話なんですけどどーしてもあれがやりたくなったので、かっこよく投げ外します。

 どかぁあああん!! と轟音を上げて床にクレーターが出来上がります。ふふふ、体が羽根のようです……!

 あ、この訓練所は生製形状記憶材質(なんか生きてるらしいです)だとかなんとかで出来てるのでそこまで時間かからずに再生します、壊し放題です、ふふ。


「……ほんと古い鍛え方してるよな、尊敬するわ」

「ふふふ、うちの伝統なのです。お待たせしました。では準備はよろしいですか?」

「ああ、いつでも」

「目を離すと、冗談抜きで死んじゃいますから、気を付けてください」

「元より一瞬でも目を離すつもりはねぇよ」


 やば、着ボイry

 はい、さて、ではでは。いざ尋常に……。

 先手必勝です!!!


 《戦闘熟練:素手(疑似特級)》†《瞬動(上級)》


「……!!」


  五歩分ぐらいは空いていた距離を一瞬で詰め……というか30mはあった逆側の壁にめり込んでしまいました。何より私も追い付けてなかったのによくかわしましたね。


「すげぇな、身体能力だけでそこまで早い人間初めてだわ」

「お褒めに預りっ、光栄です!」


 直ぐ様壁を蹴り、お兄様の元へ、移動する度穴が開きます。まぁでも今ので大体の力加減は分かりました、勝ちにいきます!


「はっ、せやぁぁあ!」

(さすっがにっ、はええな、捌ききれねぇ!)

「隙、あり…ですっ!!」


 《流派:天鳴流》†《天鳴流:響:(奥義)虎砲・神槍》


「ちぃっ!!」


  直撃です、天鳴流に5つある型のうち響の奥義。これを受けて立てる奴はいまい! ふははは!


「……質量をもつ闘気、上級以上の拳闘士でようやく至れる技術。ましてやその形を操り、虎を模した超高密度の気をまとった拳撃、やるじゃねぇか」


 《星の子》†《人星一体:30%》


 まぁ勿論ノーダメージなんですけど……って【星の子AsteriaS】の力が発動しています。しかもあれは人星一体、星の力を纏う技術ですね……お兄様もそれなりに本気を出してくださっています。これは、アガります!


「しっ!」


 《天鳴流:拍節叫叉》


(足を浮かさない天鳴流の特殊歩法、確か叫叉!! 膝すら動かない独特かつ高速移動。かつ攻撃しながらっ、場を整えてやがるな)

「い、きますよっ!」


 《天鳴流:調》†《掌握結界:三日月之烏》


 強く、濃く練り込んだ闘気を空中にばら巻き、漂わせ、それを足場に、かつ利用する際は足裏、掌に反発する気を纏うことにより更なる高速駆動戦闘! さぁ! どこまで追えますか!!?


「おらぁ!!! 甘ぇ!!」


 が、しかし流石お兄様、直撃を全ていなし、かつカウンターを合わせてきます。やりますね、まだまだ回転率上げてきますよ!


(…! 疾ぇ…!)

「こ、こですっ!!」


 渾身の空中回し蹴り。自分でも分かるほどこれでもかってぐらい完璧な一撃、な、のにっ!


(っ…! 何回フェイントいれやがった!? 五? 六? なんにせよそんだけ嘘混ぜてこの威力…いやそれすら技の流れに入れてんのか!)


 受け切られた、ほぼ完全に威力を殺されてます、が。お兄様がほんの少しよろめきました! いまです!


(闘気を連れて飛び上がった? …ん、こいつは、やべぇ!!)

「これが私のオリジナル、です!!」


 《掌握結界:三日月之烏》†《無限の肯定》†《コンボ:東雲の雨》


 高く跳び、辺りにこれでもかと滞空させていた数百の闘気の塊を霰のように降らせる試作技っ、イメージするなら100kg超えの鉄球が雨のように降り注ぐのです! 無事ではいないでしょう!!


「……なるほど、度肝抜かれたな。操気の心得は俺以上かもな。流石【無限の肯定】持ちだ。ただタメが長い。モーションを短くするか、より体勢を崩さねぇと当たらねぇよ」


 無傷!? あれの中を縫ったのですか!? そんなの、あり得る訳…ってやばいです!!


「ぅおらぁっ!!!」


 《戦闘熟練:素手(疑似絶級)》†《渾身の右》


 渾身の右ストレート。生み出すのは視認できるほどの質量をもつ衝撃波の壁、え、ちょっと【星の力】乗せずにこれですかっ!


「は、あぁぁあっ!」


 練る時間すら無かったので、無理矢理気力、闘気の超放出、で、すがっ、押されてます、ねっ、というよりっ、これだけ濃く作った闘気が出力から負けてますっ、うぅ、痛いぃ。せめて! 素のお兄様の出力に負けるのはぁああああ!!


 《流派:天鳴流》†《響》†《翼》†《音》†《コンボ:共鳴調和》†《奥義:千血・鳥哭鳴》


 かなり、かなり強引に体を捻り込み、技を、放つ!! 全部、全部、全部乗せ!! 天鳴流が極意は五つの型それぞれが特性の全く違う闘気、それらのうち三種類を一縷の淀みなく混ぜ合わせ毛ほどのマイナスすらなくしただただ火力を詰め込んだ気を思い切り練り込んでっ、腕をっ振り抜くぅう!! 今、私にできる精一杯の全力全開ッッ!!


「抜かせ!! ぶち抜いてやるっ!!」


 《戦闘熟練:素手(疑似絶級)》†《星の子》†《人星一体:40%》†《渾身の右》


「ま、け、る、かぁあああ!!!!!」



 004


「うー、たてませんー」

「飛ばしすぎだ、しばらくぶりだろうから体もびっくりしたんだろ、鍛えれてはいるけど実戦で使えなきゃ意味ねーからな」


 うう、耳が痛いです。

 なんだかんだかなりのお時間じゃれ合わせていただいたのですが、ちょっとテンションが上がりすぎてしまい、ペースも考えず馬鹿みたいにぶっぱしまくってたら体が動かなくなりました。闘気が空っぽになっちゃったみたいです、あれも生命力みたいなものですし。


「いやまぁ、そうだな、もっと定期的にこうやってやればいいんだよな。悪い、これから時間つくるわ」


 な、なんですと…!! これは夢か何かですか……!!!


「そんなほっぺつねらんでも、まぁお前らの体調管理だの修練だのも仕事のうちだからな」


 それ抜きにしても、鈴と遊ぶのは楽しいんだけどな、と頭を撫でてくださりました。天使の羽を取ったらお兄様だったというのはあまりにも有名ですね、天使です、お兄様まじ天使。あいたたた!!


「あー、ほら無理に動くな、流石に今日はもう上がりだな。俺もテンションあがってたみてーだ、悪い悪い」


 そんなことを仰りながら、ふわっと抱えあげられます。きっと上まで運んでくださるんでしょう。もう恥ずかしさも抵抗する気力も湧きませんので素直に甘えさせていただきましょう。はぁ、今日、鈴はとても幸せです。お兄様のおかげで今までずっと、これからもっと幸せなのでしょうね。ふふ


「お兄様」

「んー?」

「ありがとうございます」

「いーえ、こちらこそ」

「ふふふ」

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