We are Team Orpheus!!
001
「あれだけ手加減しなさいって言ったでしょーーーがぁぁぁ!!!」
室内に割れんばかりに響き渡る怒声。眼鏡の似合うオルフェウスのオペレーター兼ポラリス星団第二位。東梓。透き通るような水色の長い髪がチャームポイント(本人談)。そしてその怒声を一身に浴びせられているのは勿論。
「いや、はい、あ、はい、すいませんっした…」
オルフェウスのリーダー、ひいてはポラリス星団第一位。エヴァンスロード・アルフィーネである。正座させられ縮こまる彼の姿に、ボスとしての威厳は微塵足りとも見当たらなかった。
あの事件から一日ちょっとが経過しており、事態は完全に終結。後始末もほぼ終えて、という段階でリーダーであるところのヴァンは、一応は部下に大目玉をくらっているのが現在のあらまし。
「ねぇ、わかる? 謝ってほしい訳じゃないの。ぶっ飛ばしすぎなのよ、何千キロぶっ飛ばしたと思ってんの? ねぇ聞いてる? あのね、生きてたからよかったものの」
「そ、その辺りは上手く手加減したし、あいつなら大じょ…はい、ごめんなさい」
弁解を図ろうとしたものの、なに言い訳してんの? との圧力が凝縮された視線にエヴァンスは即座に萎縮する。繰り返すが威厳もなにもあったものじゃあない。
言うまでもないが、梓はリーダーであるヴァンを立てれない訳ではない。寧ろ普段どれだけ本人のいないところで彼の評価を落とさず、盤外で上げ続ける等。いらないところで苦労の絶えない補佐官なのだ。だからこそ、他の目がないところでは人一倍うるさい。
「てかね? 今回の一件で一番時間と労力割いたの吹っ飛ばされた犯人探しだからね? 分かってんの? ねぇ? ねぇって」
「聞いてます」
「じゃあどう思ってんのかちょっと言ってみて」
「いややっぱ言う通りだけど手加減って大事だなぁって」
…………間。
「ああん?? 馬鹿なの!!? 毎度毎度聞き飽きたわよ!! ようやく戦闘前に規律の所属と二つ名の口上するようになったと思ったら、やりすぎるし初撃は必ず受けるとかいう意味分かんないポリシー貫くし、で、なにより回線とか全部切ってタイマンしたがるのほんとやめろ、あれほんとやめて、色々めんどくさいのよ! 後無駄に犯人と仲良くならないで?! それとちょっとは事務仕事してよ! 風呂上がったらすぐあったかいかっこしなさい! それと寝るぎりぎりまで端末触るのやめなさい、睡眠の質が落ちるわよ!」
日頃溜まるものもあるのだろう、噴水のようにそれはそれは溢れ出る。ここで何か言い返すと長くなるので決して言い返しなどしない。終わりのないそれはつらつらつらつらと無限かのように次から次へ、話の主軸を見失い、豪雨のようにヴァンへ降りかかる。
(…お前はおかんか、とか言ったら後二時間はのびるんだろーなぁ)
しかし当の本人にはあまり効いておらず、だらだらとそんなことを考えながら、床の模様と睨めっこしていた。ちょっとお腹が空いてきたなぁだなんて考えながら、この最大風速何ヘクトパスカルか測定不能レベルの大嵐が過ぎ去るのを待つ。すると。
「あずねぇ、それぐらいにしとき? どっちみちヴァンにぃもう聞いてへんモードに入っとるでな」
横手から梓の肩をぽんと叩いて静止し、梓に珈琲の入ったカップを渡す少女。腰まで伸びた艶やかで美しい黒髪が印象的な彼女はポラリス星団は第四位、エルレイン・D・ライオンハート。齢を十六歳。
白い白い肌に映えるのをわかっているようにその小さな肩にノアールという黒い子猫が乗っている。
「あ、エル、ありがとう」
「はい、ヴァンにぃも、お疲れ様」
梓に対し柔らかく笑い、軽く頷いててくてくとヴァンの前まで歩き、ちょこん、と屈んで珈琲を渡す。
「お、ありがとな」
「えへへ、ちゃーんとブラックで、ヴァンにぃの好みにあわせてるからね」
にっこりと愛嬌たっぷりに笑うエル。
すると怒りゲージは上手く沈静化されたのか、珈琲を軽くすすりながら。
「はいはい、ブラックしかのまねぇ俺カッケーっすね」
「ミルク三つ砂糖三つの子供舌に言われたかねぇよ」
「甘いのが好きなだけですー」
「俺は苦いのが好きなだけですー」
と子供みたいな口喧嘩を始める二人。それを尻目にやれやれと肩を落とし、事務作業に戻るエル。
今更ながら、ここは超銀河比翼学園グループ統括理事直属、超時空学園警察ポラリス星団、チームオルフェウス本部である。
基本的には星団ごとのトップチームは学星寮の主要施設の近くに配属され、その星団の一位から五位までを置く、といった決まりになっている。あくまで基本的には、だが。
メンバーに関してはある程度のリーダーの融通が利くものの年齢配属日数云々関係なしに完全なる実力主義制度。
余談ではあるがオルフェウスが置かれているのは、巨大商業大陸アンダンティーノの全貌が人目に見れる場所。学星寮でもトップクラスに明るく、娯楽に富み、バラエティ色が強い、トレンドや技術の最先端を司る。
学星寮一蔵書の多い図書館とこれまた星で有数のキャパを誇るホールの間辺りに本部は建っている。このエリアは海にも面していて商業も栄えているので元々学生寮には学生のストレス軽減のための施設が豊富。他より巨大なショッピングモールとアミューズメントパーク等々充実している。
この立地の良さから、基本的にヴァンたちはあまり寮や家に帰らず、ここに半ば住んでいる、というかここまで本部にプライベート色を出しているのは彼らぐらいだ。ヴァンと梓に至ってはここ以外に住居を持たない。
一応本部に常駐しているのは五人。に対してが十階建てなので住むのには全く困らない。むしろ持て余していたり。
それでもたまにだが上層部云々がゲリラ的に訪問してくるので、女性陣の力によりとても綺麗に美しく保たれている。
「すみません、梓先輩。これ始末書です、適当にでっちあげておきました。ヴァン先輩、お疲れ様です」
二人の幼い喧嘩を仲裁するように、書類の束を梓に渡すのは第五位であるところの眼鏡をかけた少し背の低い少年。
十七歳にも関わらず、あどけなさの残る顔立ちとソプラノ気味の綺麗な声質から、よく中学生に間違われるのが悩みで、意識的に声を低くしなるべく険しい表情をして大人っぽく振舞っている。だがしかしとても童顔なので、ヴァンや梓の目にはただただ背伸びを頑張ってるだけにしか見えないのでかわいいかわいいされている。
ちなみに、早速眼鏡キャラが被っているが、梓のはお洒落眼鏡であり、コンタクトの頻度も高い。
「ありがとう、いつも助かってるよ沈君」
にこりと微笑み、半ば無意識に沈の頭を撫でる梓。ショタコン属性があったりなかったり、その辺りは後述したりしなかったり。
「やめてください」
と、振り払い、すぐに梓から離れるものの。しゅんっ、と後ろに現れ。
「いやはや、ほんと沈は頑張り屋さんだなぁ」
ヴァンにも頭を撫でられる、再び逃げようとするも前方には梓、後方にはヴァンがにやにやしながら手をわきわきさせつつ沈を包囲していた。言うまでもなく沈はこういうキャラというか立ち位置なのである。
「お二方、もうその辺りにしてあげてくださいな、あらあら可哀想に涙目になっているじゃないですか」
すると嗜めるように奥から割り込むのは、三位。
その可憐な笑顔とふわふわとした雰囲気とは裏腹に、純粋な戦闘力、しかも徒手空拳のみでこの地位についていたり。どこからどうみても完璧に出来上がった淑女だが、十七歳である。
「な、涙目になんかなってない!」
顔を秋の葉のように紅く染めながら、隙をついて逃げていく沈、あらあらそうですかぁ、と鈴鳴はくすくすと意地悪気に微笑んでいる。ヴァンと梓は二人して逃げられた、と落ち込んでいた。
「お疲れ様です兄様。姉様もお疲れ様です」
にこりと優しく微笑む鈴鳴。基本的にヴァンと梓の意向で、オルフェウスに発足時において上職を呼ぶ際に堅いのは嫌だからと呼称を兄、姉に固定した。反対派は沈のみ。流石に外ではきちんと呼ばせてはいる。
「ありがと、鳴もお疲れ、面倒な仕事を一人で任せてごめんな?」
「いえいえ、私の取り柄はこれだけですから」
ばっ、と簡単に拳を構え、くすくすと微笑む鈴。今回においては幹部クラスの始末と、シュウというリーダーが消え瓦解しかけた組織の掃討を一人で、かつものの三時間弱でこなした。
「そんなこといわねーのー、もー、こいつはー」
わっしわっしと労いの意を込め、鳴の頭を撫でてやるヴァン。もう髪型が崩れるじゃないですかと嫌がりながらもどこか嬉しそうにその手をはね除けるわけでもなく、ただ委ねる。
「まぁ、報告書云々自分でしっかりしてるし、事務も雑務もこなすからその時点でヴァンより仕事してるけどね」
と後ろから梓。
「うっせ」
「うるさくない、ちょっとは上としてなんかしてあげなさいな」
そういう梓に、いえ、そんなと即座に謙遜する姿勢を見せる鈴だが、いや、なんかしてやる、なんでも言えモードのヴァンと、遠慮せず甘えなさいモードの梓。
「…では兄様、そのですね、久しぶりに私と手合わせ願えませんか? 出来れば戦闘のご教授も含めてくださると嬉しいです」
もじもじと、台詞とは言ってることとはかけ離れた可憐さを醸し出しながらも。
「ぜーんぜーんいいぞ? 最近相手してやれてなかったしな、仕事もねーし」
いやいやだいぶあるけどな、と言いかけたものの、鳴が可愛いので口に出せない梓。
「本当ですか!? ではすぐに! いまいきましょう!!」
ぱぁっと表情を輝かせ腕をぐいぐいぐいぐいと引っ張る。困った風を装いながらもどこか嬉しそうなヴァンだった。
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