作中解説

解説「リーマンショックとは何か?」

 この度は小説『えこのみっくあにまる』をご覧頂き、ありがとうございました。


 本小説は、私がライトノベルの書き方を学び始めてから最初の作品となります。その為、作中で提示される情報にばらつきがあったり、セオリーを知らない構成になっていたり、そもそも題材がライトノベルとしてはカテゴリーエラーであるなどと、改めて見直すとなかなか恥じ入るところが多々あります。


 また、政治経済に詳しい方ならお分かりかもしれませんが、本作品はリーマンショック~第二次安倍内閣発足くらい(2008年~2013年頃)をテーマに討論しています。2017年に合わせて内容を一新しようかとも思いましたが、当時表面化していた問題が、今現在も本質的には何一つ解決されていないことから、改稿は討論中の言い回しを調整するに留めました。


 加筆箇所については、中~後半のギャグパートを幾つか書き足しました。五章の『馬の骨と風紀部長』のカレーとか、六章『鮫は陸に打ち上げられて』のサメとかあの辺ですね。私の知人もそこだけはほんと面白いって言ってくれています。そこは気分転換に書いただけなんですけどね……。ギャグでいいなら幾らでも書くんで仕事ください。




 さて、作品中にて論じられた内容について解説させて頂きます。

 まずは、『サブプライムローン』問題と『リーマンショック』について。


 作中でも説明があった通り、『サブプライムローン』とは、アメリカ国内の貧困層に持ち家を買ってもらうために用意された低所得者向けの住宅ローンです。信用度の高い高所得者向けのローンはサブを抜いた『プライムローン』といいます。


 アメリカでマイホームを購入できるんだ! と喜んだ低所得者層(信用の低い層)がサブプライムローンに飛びつきましたが、低所得層の収入は不安定である為、金融企業は徐々にローンを回収できなくなってしまいました。


 回収不能になり損失が出るのを恐れた金融企業は、ローンの回収権利を証券化して、他の金融機関に売ってしまおうと考えます。ですが、回収困難になりつつある状況では高く売れません。そこでサブプライムローンを抱える金融機関は、ある恐ろしいアイデアを思いつきます。それは回収が困難になりつつあるサブプライムローンを別の優秀な証券とセットにして『安心安全な証券セット』として売ってしまおうというものでした。


 とはいえ、安心安全な証券セットを売りつける相手もプロです。そう簡単には騙されません。ですが、そんなプロでさえ騙される要因が2つありました。それは『アメリカ住宅価格の上昇』と、『格付け会社による高評価』の2つです。


 サブプライムローンが普及した理由は、低所得者が『担保無し』でローンを組める点にあります。では低所得者のローン返済が焦げ付いた時に、金融企業はどうやって損失を補填するのでしょうか? それは簡単、低所得者がローンで購入した『住宅を差し押さえる』のです。


 当時のアメリカは住宅価格が日々上昇していたので、もしも借金が返してもらえなくても、住宅さえ差し押さえれば損は出ないという楽観的な見通しがありました。だから、回収が困難になりつつあるサブプライムローンが安全であると広く認識されていたのです。


 ですが、プロはそれだけでは安心できません。なので、一応調査会社の意見も聞いてみようと考えました。この調査会社とはMoody'sやS&PやFitchに代表されるような『格付け会社』のことです。


 格付け会社とは、上場している様々な企業や、それぞれの国の財政や税収などを専門的に調査して、どの企業やどの国がどの程度信用できるかをAAAランクとか、Bランクなどと『格付け』する機関の事を指します。


 しかし、本来プロであるはずの格付け会社でさえ、サブプライムローンは安全な金融資産だと『勘違い』してしまっていました。低所得者層が持っている住宅の価格が高くなれば、いざという時に差し押さえられるから安全だと、一般大衆と同じように判断してしまっていたのです。


 もし住宅価格の上昇が止まれば、全てが破綻するというのに。


 そしてそれは現実のものとなります。ある時期から住宅価格が上昇しなくなってきたのです。住宅価格が上昇しているから、借金返済が滞っても住宅を差し押さえればよかった。しかし、住宅を差し押さえても住宅が全く売れない、持っているだけで住宅資産の市場価格は日々下がっていく、住宅の経年劣化も進んでいく……。このように、とても苦しい状況に陥りました。


 もし、このサブプライムローンが安心安全な証券セットとして市場に放出されていなければ、サブプライムローンを始めた金融企業だけの損失で済んだでしょう。ですが格付け会社も認める『安心安全な証券セット』は広範囲に販売されており、既に世界中の金融機関が大量保有していたのです。


 どの金融機関や企業がどの程度の損失を抱えているか分からない。迂闊に金を貸せば、その会社が破綻してお金を返してもらえなくなるかもしれない。こうして世界中が疑心暗鬼になり、経済の血液とも言われるマネーの流れが一気に鈍化してしまいました。大まかに言えば、これが『サブプライムローン問題』という訳です。


 そしてその後、このサブプライムローン問題によって致命的な大打撃を受けた金融機関がありました。そう、それこそが150年以上の歴史を持ち、世界有数の金融企業であった『リーマンブラザーズ』です。


 サブプライムローン問題によって世界中が混乱している最中、とうとうリーマンブラザーズは経営を続けることが不可能になってしまいます。一応国の支援を受けようと模索もしましたが、当時のオバマ政権は「散々自分達は荒稼ぎしておきながら、潰れそうになったら国民の税金に頼るなど許さない」と強硬な態度を取りました。そうしてリーマンブラザーズは、その長い歴史に幕を閉じることになります。その後、リーマンブラザーズという巨大な金融機関を失ったことによって、世界中が多大な『ショック』を受けることになります。


 サブプライムローンのような不良債権をどの機関がどの程度抱えているのか? リーマンブラザーズ破綻によって連鎖的にダメージを受ける企業はどこか? 格付け会社が信用できない今、一体何を信じればいいのか? 様々な推測や憶測が世界中に広がり、世界中の景気を落ち込ませてしまいました。


 これが世に言う『リーマンショック』です。




 色々省略して説明させて頂きましたが、この辺を踏まえて本作品の『ファーストディベート』を読むと、また違った楽しみ方ができるかもしれません。既に知っていた方は、討論を眺めながら当時の世界情勢に思いを馳せていたことでしょう。


 ファーストディベートの討論中には、他にも『為替問題』や『国債問題』や『企業のあり方』など、様々な問題が提起されています。結構複雑に入り組んでいるので、作品紹介において最高難易度の★5つをつけさせて頂きました。

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