難病

「残念ながら、有効な治療法は見つかっていません」

 医者の言葉に、絶望した俺の頬は紅潮した。まさか自分がこんな難病にかかるとは。宝くじに当たるよりも確率が低いという。なんてことだ。もう俺はこれまでのようには生きていけないのか。

「そんな……私は一体どうしたらいいんでしょうか」

 俺は不敵にニンマリと笑って言った。

「そうですね。治療法がない、というのは日本の話で、海外では治療薬の臨床試験が行われているそうです。私の知り合いの医師が研究しています」

「それはいいことを聞いた。臨床試験でもいい、なんとか治療したいのです」

 俺は俺は眉根を寄せてぎらりと医者を睨みつける。もう治療は諦めなければならないのかと思ったが、これは助かった。

「しかしひとつ問題が。海外ですから莫大な費用がかかります」

「そりゃあそうですよね。海外ですもんね」

 俺の目が点になった。海外で治療を受けるとなると、治療費はもちろん交通費、滞在費もかかり、莫大な出費になる。やむをえないだろう。

「経済的な状況も考えなければなりませんが、大丈夫でしょうか」

「費用がかかるのはわかりましたが、どうしても治療したいのです。ぜひ紹介状を」

 治療しなければ、今後俺はもうまともに社会で生きていくことはできないだろう。俺はフン、と鼻を鳴らした。

「そうですか。ならば紹介状を書きましょう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 真っ青になって俺は医者に感謝した。

「いや、しまった。あの先生は先月引退したんだった」

「なんだって?じゃあ紹介状は書けないということですか?」 

 俺はヘラヘラと笑いが止まらなくなってしまった。

「極めて稀な難病なので、どこの病院でもいいというわけにはいかないのです」

 ふうむ、こまったな。俺もちょっとインターネットでも使って治療が可能な病院を探してみるか。俺の目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。感情と表情が一致しない難病なんて、診てくれる病院は他にあるのだろうか。

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