生存競争

 船長、禿げた男、メガネの男、バンダナの男の四人の船乗りが、動力も連絡手段も失った船で見渡すかぎりの絶海を漂流していた。最後の缶詰を食べ終えてから丸五日。雨が降る気配もなく、四人の喉はもうカラカラだ。

「このままでは全滅だ。犠牲になるひとりを決めよう。『あたり』を引いたものが犠牲者だ」

 船長がそう言うと、四人はくじを引いた。『あたり』を引いた者の血と肉は、『はずれ』を引いた残り三人の飢えと渇きを、わずかな時間だけだったとしても癒やすだろう。禿げた男は自分のクジが『あたり』だとわかるやいなや、隠し持っていたナイフでさっと船長の喉を切り裂いた。みずみずしい血があたりにしたたる。

「なんてことを。卑怯な男だ」

 メガネの男とバンダナの男が口を揃えて非難する。

「前からこいつは気に入らなかったんだ。それでお前たち、喉は渇いていないのか」

 禿げた男は悪びれずに肩をすくめて言うと、もはや身じろぎひとつもしない船長の喉元にしゃぶりつく。それでともかく、残る三人の命はどうにか繋がった。


 船長のお陰で喉の乾きが癒やされたのは二、三日のあいだだけ。それが終わるとまた三人の喉はカラカラになった。

「このままでは全滅だ。犠牲になる一人を決めよう」

 三人は拳銃でロシアンルーレットをすることにした。銃弾は六発。二周回れば誰かが必ず死ぬ。ところが五発が空撃ちに終わり、最後の一発になったとき、メガネの男は手が震えたふりをして、わざと少し狙いを外して引き金を引いた。飛び出した弾丸はメガネの男の頭を少しだけ削り、隣の禿げた男の脳天をぶち抜いた。新鮮な血があたりに飛び散った。

「しくじった。死ねなかった」

 メガネの男は残念そうなふりをして言う。

「なんてことだ。嘘つきめ」

 バンダナの男が非難した。

「手が震えて仕方なかったんだ。それでお前、喉は乾かないのか」

 メガネの男はそう言い訳してから、自分の頬にまで飛び散った血を拭って夢中で舐めとる。喉が渇いた男たちにとって、喉の渇きを癒せるならもう何でも良かった。こうして二人はどうにか生き延びた。


 しかしその潤いも、わずかなあいだ。二、三日もすれば、すぐに喉はカラカラになった。

「このままでは全滅だ。どちらが犠牲になるかを決めよう」

 バンダナの男とメガネの男は、それをコインを振って決めることにした。負けたほうはナイフで自分の胸を突く約束だ。バンダナの男が表に賭け、メガネの男がコインを振った。裏が出たのがわかり、負けたバンダナの男が、おもむろに震える手でナイフをとった。その途端、メガネの男はバンダナの男の肩を思い切り突き飛ばした。船から突き落とされたバンダナの男は、あっという間に海の底に沈んでいった。

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