まず最初に言っておくことがある。俺は嘘をついていない。

ここで、論理学に素養のある人間なら、次のように指摘するかもしれない。


正直な人間は、「自分は嘘をついていない」というだろう。

嘘つきの人間も、「自分は嘘をついていない」というだろう。

つまり、「自分は嘘をついていない」という者は、

正直者か、嘘つきか、どちらなのか区別がつかない。

したがって、その言葉は意味を持たない。


だが、俺はついに「自分は嘘をついていない」という言葉に

意味を持たせることに成功した。

なあに、気がついてしまえば簡単な事だ。


「お前は嘘をついているな」

「いいえ、私は嘘をついていません」

「認めないのならば、責めが要るだろう」

俺は女の指の先に取り付けた小さな金属装置の螺子ねじを、少しだけ締める。

指の肉が潰れ、女が痛みにうめき声を上げる。

「もう一度聞く。お前は嘘をついているな」

「いいえ、私は嘘をついていません」

「ならばもっと責めが要るだろう」

さらに螺子ねじを閉めると、ぶつりという不気味な音がして、女が絶叫する。

「もう一度聞く。お前は嘘を付いているな」

「私は嘘をつきました。どうか許してくださいませ」

「やはりそうか。さっきまでは『嘘をついていない』と言っていたのに、今度は『嘘をついた』と言ったな。この女は嘘つきだ。この魔女を処刑せよ」





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