第47話 死闘の果て
柔らかい風が頼邑の髪をそっとなでるように触れる。頼邑は、眼を開けると、そこは草原の草の穂がさざ波のように揺れている場所だった。
起き上がると、目の前にアオがいた。頼邑が目を覚ますのを待っていたようだ。その隣には、玉藻もいる。
ふと、玉藻の後ろを見ると光がゆっくりとこちらに来た。
その姿を見たとき、頼邑は心の糸が緩んだ時に生まれる悲しい思いが溢れた。ただ、生きてこうして会えた喜びが心を素直な気持ちにさせてくれた。
「生きていてくれてありがとう……」
その言葉は、心に秘めていた思いが鏡を映すように出たものだった。
その思いは同じなのか光は、まばたきもせず、一粒の涙を流した。
光の全てを受け止め、そっと包み込むよう抱きしめた。
ふたりの包み込む新芽が、ゆらゆらと何か話しかけているように揺れていた。
「頼邑のことは信じたい」
その言葉の裏腹には、頼邑以外の人には、まだ無理だということを表していた。受けた心の傷は、すっかり消え去ったというわけではないが、もう過去の思いを断ち切った光の表情はとても晴れていた。
光は左手に小太刀を握りしめた。
頼邑の顔が驚きの色を示した。刹那、冷たい金属の感触が光の首筋に触れると、シャッと風を切った音が響いた。光の長い髪が、はらはらと舞い落ちる。
光の声は優しかったが、力のある響きがあった。
「あの里は、お前にとって大切なのだろう」
そう言って、光は切った髪を持ち、玉藻にまたがると、里の方へ向かった。
そこで、光は髪を放った。金色の髪が陽の光に反射して輝いていた。風に運ばれる霊髪は、傷を負った者たちを癒していく。
苦痛にゆがんで、獣の唸るような声を洩らしていた治兵衛にも痛みが消えていった。里の者たちは、治癒していく傷を見て、驚きと喜びに歓喜が起こった。
伊助と平八郎は、金色の髪が空に舞っているのを見て平八郎が、
「おれたちは、何もできなかった……」
と、気落ちして言った。
「それでも、生きていかなきゃならねんだ」
伊助の声は、静かだったが、強い響きがあった。
その顔は、悽愴が残っていたのであった。
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