第38話 怒り

人間と獣の叫び声が途方から光の耳に入ってくる。

陽光はまぶしく、光は眼を閉じて耳をすましていた。

「光、玉藻が戻ってきた」

傍に立っていた熊が、うわずった声で言った。 光は眼を開き、振り返りった。玉藻が近づくのを待った。

「奴らが殺生石を使って動き始めた」

玉藻は、先の出来事を話した

光は、全てを知ってた。

「お前は、皆に退くように伝えろ」

光の眼にひかりが宿り、よくやってくれたことに対して礼を述べた。

熊は、うなずくと、ここから一里(四km)ほど離れた所にある見晴らしのよい場所へと向かっていた。

「殺生石の弾が飛んできたのはどちらの方角だ?」

玉藻は、不死の森と城の境目の方向に顔を向けた。

光は、玉藻の視線の方向に眼を見据えている。 光の胸にはちきれるほどの憎悪の炎が燃え上がっていく。

心の片隅で、ほんのわずかな人間の存在が、絡まった玉糸のように置かれていたが、それは消えた。

光の周りで、枯れた枝の折れるような音がし、その足元の地面に亀裂ができ始めていく。

全身の霊力が、怒りで無意識にやっているものだった。光は瞬きもせず、手に持った槍を地面に突き刺した。

その瞬間、眼にも止まらぬ勢いで真っ黒な大地に赤い亀裂が走った。

地底から振動と共に恐ろしい地鳴りが鳴り響き、城が雪崩れるように崩れていった。

砂煙と瓦礫が人間を襲ったのだ。


その頃、頼邑は傾斜をのぼっていた。

突然、前方から獣の咆哮のような不気味な音が聞こえてきた。

ギャア、ギャア

と、黒い鳥が不死の森から飛び立っていくのが見える。

つづいて、大きな揺れが頼邑を襲った。

……地震!

すぐにアオからおりると体勢を低くした。

大きな揺れは収まるものの、周囲の小石が互いにぶつかり合うほどまだ揺れは残っている。

四方を見渡すと、煙がたちこもっているのが目についた。急いで頼邑は、その方向へと突き進んでいった。

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