第35話 光の覚悟
水面に森の木々がうつしだされるほど、水は透き通っている。青白いひかりが水の中に溶け込むように射し込んでいた。何本もそびえ立つ太い木の間から、まばゆいひかりの絹のような布が射し込んでいる。
そこに光はいた。光は小高い山になったら土を見つめている。後ろには玉藻、そして二匹の九尾と熊がうなだれるように座っていた。
小さな瞳を潤みを帯びた一匹の熊がゆっくりと光の前に出てきた。光は、そっと熊の頭をなでると、光の頭の中にある記憶の糸が蘇っていく。
生まれたばかりの子熊が毛皮にされ、人間の子供の羽織物にされていたことだった。母熊は、なかなか身籠ることができず、光も心配していたが、やっと子ができたのだ。
そして、光が子熊に精のある食べ物を手土産に持ってきた日に殺された。怒りに狂った母熊は人間を喰い殺したが、すぐに撃ち殺された挙句、毛皮を剥ぎ取られ、肉は人間によって食べられた。 毛皮を剥ぎ取られたことを思うだけで光の胸に激しい憎悪の炎が燃え上がったときに、香炉が盗まれたのだ。
「向かってくる人間は、一人残らず殺せ。相手が誰であろうと容赦するな」
光は、皆をにらみつけるように言った。唇を噛み締めると、唇からしたたれる血がポトポトと足元に落ちていく。
「若僧はいいのか」
「そんな奴、もう忘れた」
と、玉藻の問いにも素っ気ない態度を示した。
それ以上、玉藻はかける言葉をしなかった。光の中に揺れ動く心と暗い絶望があるのを感じたからだ。
東の空がほんのりと明けてくるのが見える。
うっすらと明けてゆく空を見て、東雲という言葉を思い出した。
……しののめ、か。
それは、頼邑が教えてくれた言葉だった。光は後ろを振り返った。その後ろに山々が朝陽を浴びつつ、緑の色に塗られていく。
美しい…。
と、思わずつぶやいた。
いま、見えるものを守るためなら死を惜しむことはないと思った。光は、玉藻に飛び乗り、大群を率いれ、山を下り始めていった。
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