第33話 追っ手

追っ手

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「気付かれたか」

頼邑は、さらに手綱を強く握りしめると、アオは砂を蹴散らしていく。

不死の森にさしかかった所で侍に狙われたのだ。 全身から痺れるような殺気を放射して、馬蹄の音と共に向かってくる。侍たちは矢を番え、次々と頼邑を狙った。その動きを予測していたかのように飛んできた矢は、頼邑の脇腹を鋭くかすめた。

だが、矢はそのまま地面に突き刺さり、頼邑は無傷のまま、すぐに体制をなおし、すばやく矢を番え、放した。

矢は、空気を切るように侍に向かっていく。侍の体が傾しき、地面に吸い込まれるように頭から落ちていく。だが、それだけでは終わらない。後方から、矢が飛び交ってくる。そして、丘に挟まれた山路の両側から侍に攻められた。

侍が、先回りしていたのか次々と周辺を囲まれていく。

……このままでは危うい。敵をまかねば。

と、頼邑は察知し、一瞬の隙をついて、アオから飛び降り、雑木林へ飛び込んだ。

アオは全身を身震いさせ、走るのを躊躇したが、行け!と頼邑の叫び声に反応してアオだけが走り去っていった。

「逃がすな。追え!」

侍は、声を上げた。

雑木林に侍が追ってくる。そのとき、アオは崖までさしかかり、軽々と降りていく。侍たちは崖を飛び込む気まではないようだ

枝葉をかき分けながら頼邑は先を進むと、アオが崖を降りていくのを見た。ハッとするように頼邑は、急斜面を息をするのを忘れるほど一気に駆け下った。

頼邑は、雑木林の中から手笛を鳴らした。

ピューイ

と、音に反応したアオは頼邑のに合わせ、速度を変え始める。

それを見逃さず、一瞬の隙を見極め、頼邑は全身の力を足に集中させ、雑木林から崖へと飛び降りたのだ。高いところから体を浮遊させたが、風の抵抗をもろともしなく、アオに飛び乗った。

それを見た侍たちは、驚きの表情を隠せないでいた。まさか、崖から馬へ飛び乗るなど想像していなった。それでも、侍は矢を放し続けた。そのとき、頼邑は体をひっくり返らせ、矢を放した。一発、そして二発も侍に命中させる。それには、さすがの侍も崖の上で立ち止まった。

追うのを諦めたようである。その場に立ったまま、

「恐ろしい奴だ……」

と、つぶやき、しばらく走り去っていく頼邑を見つめていたが、雑木林へと引き返していった。

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