第23話 伝説の香炉
月霧の里から離れた山間に城がある。この城主は、この地を治めていた。
その城主である大殿は、反発してきた里の者に対して睨みを利かせていたが、銀の採取するために必要な人材を失うわけにはいかなかった。
里の者と小競り合いをしていると、嗅ぎつけた各小国が攻めてくる恐れもある。
何か絶対的な力を取り入れるため、この地に伝わる何でも願いを聞き入れる香炉を探し求めていたのだ。
そこで地侍を使って、香炉の在り方を探っていたのだが、その地侍にも頭を悩ませることになったのだ。
「殿、殿にお目通りを願いたい地侍が外におります」
家来の言葉に大殿は、ゆっくりと立ち上がり、表に出ると満面に笑みを浮かべた地侍が今にも何か言いたげな表情していた。地侍の手には、かなり古い木箱があり、それを前に差し出した。
「それは何だ」
大殿が首をひねりながら言った。
「こちらは、殿がお探しになっていった香炉にございます」
「開けてみよ」
そう言われ、地侍は木箱から取り出した香炉を見せた。
家来は地侍から受け取った香炉を大殿に見せると、大殿は手に取ることもなく、しばらく見つめていた。
「 こやつを今すぐ叩き出せ」
と、低い凄みのある声で言った。
地侍は凍りついたように身を硬くし、顔が驚愕にゆがんでいた。
「地侍の身で、わしを欺かせるつもりだったのか!」
大殿は目をつり上げ、開いた口からは牙のような歯をのどかせていた。
まさに夜叉のような形相である。
「本物の香炉にはある言葉が記されている。だが、この香炉には何も記されていないおろか、この香炉は、先達て公方様から頂いたのと同じものがわしの部屋にもある」
その言葉に地侍が目を剥いて、あわてて逃げ去って行った。
これが大殿が悩みを抱えてるものだ。近頃、褒美を貰いたい地侍が先ほどのようにやって来るのである。
大殿は、ため息をつくと部屋へと戻っていった。
誰もいない部屋で、香炉に記されている言葉をつぶやき始めた。
「過ちから生まれた者、自ら香を焚き、香を焚いたものは光となる」
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