第13話 銀山

伊助、平八郎、男たち、そして頼邑は銀山の坑内へ入って行った。

中は、暗闇なので、さざえ殻に胡麻油、綿灯心を入れて火を灯し、足元を照らす。伊助と平八郎は木綿の単衣袖なしに綿帯をしめ、木綿手ぬぐいを被り、松入という藁で作ったかますに道具類を入れて腰につけ、足羊あしなかを履いていた。頼邑は、道具と足羊を身につけただけである。

足場の悪い岩場を道具を持って歩くのは怪我を負っている伊助には辛い。

「伊助どの、持とう」

そう言って、頼邑は伊助の道具を取ると、変わらぬ速さで歩いていく。

「あんなに持ってるのに、若造、早ぇなぁ」

男たちは妙に感心していた。

ここの銀山での作業は、大きく分けて採鉱の製錬の二つがある。

採鉱は、間歩の採堀権を持つ、「山師」、下財の下で鉱石を掘る、鉱石を掘る「金堀」、「手子」と呼ばれる十二歳から十三歳くらいの子供、石を運び出す「柄山負」、支柱をつくる「留山師」などが働いている。

伊助たちは、下財の下である。

そして、掘り出した鉱石は製錬業者に売られ、専門の技術者によって製錬が行われた後、極印が押され「判銀」という形になる。

鉱石を掘る際、鉱脈にそって堀り進んでいくのだが、それには不死の森を通ることは避けられない。

「もう、ここが不死の森でやす」

平八郎が、ぼそっと言うと、

「ここが……。なら地上にはあの少女がいるかもしれないな」

頼邑はなぜか、少し笑みを浮かべている。 

「頼邑さま、勘弁してくだせぇ」

伊助が情けなく怯えたように言った。

男たちは上を見上げ、外に覡がいるかもと思うと気が気でない。だが、その一方で覡一人に怯えるものかと、姿を見せたときは返り討ちにしてくれると思った。

もはや、その自信はどこからくるのか自分たちにも分からない。

そして、いつも作業をしている場所に到着すると二人の男が待ち構えるようにいた。この二人は役人である。

「ここは他の者がやることになった。お前たちは、外での作業をしてもらう」

二人の男がそう言うので、呆気にとられた男たちだったが、

「ちょいと待ってくだせぇ。何も聞いてない。それに外での作業はおれたちがやるには技術が足りねぇ」

と、嫌悪の表情で言った。

「決まったことだ。ご託はせず、言われた通りにせよ!」

「外に出たらおっかねぇ。ここで何とか作業してえんです」

お願ぇやす、外だけは勘弁を、と衰願するような口調で言い添えたが、聞く耳もたず、皆を追い返そうと棒で押してきた。

男たちは、よろけた拍子に伊助はつまずいてしまった。肩先に疼痛があった。頼邑は、伊助をしっかり支え、二人の役人を見た。

「乱暴はよせ!」

役人から棒を取り上げ、険しい顔で言った。

「小僧、何の真似だ。我らに対しての無礼承知の上での行いか」

役人が、叱咤するような口調で言った。

「皆、外に行こう」

伊助を介抱しながら来た道を戻り始める。

「え? でもよ」

男たちの顔に驚きの表情が浮いた。

てっきり、頼邑が役人に歯向かうと思っていたので頼邑のあっけない行動に納得がいかなかった。男たちは、重苦しい空気の中、歩いていく。

「頼邑さま、あれでよかったんですか」

伊助が聞いた。

「あの者たちに何を言っても聞く耳もないだろう。ここは、大人しく下がるべきだ」

頼邑が小声で言った。

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