第3話 嵐の前触れ
暗がりの夜から日の出が頼邑を迎えるように辺りがうっすらと明るくなり始める。それでも、休むことなく走り続けていく。やがて、陽はだいぶ高くなってきた。
よく晴れて、大気には秋を感じさせる清々がある。ここも雨がないせいか、砂埃がたっていたが、爽やかな陽気である。
さらに休めることなく、走り続けていくと海原が見えてくる。青い空と海原のなかにくっきりの陽の光が浮かび上がって見えた。
「これが、海というものか」
海を見るのは生まれて初めてのことだ。いつか、長老が海といのは青々とした水は塩辛いと言っていた。海は地平線にのび、それはどこまでつづいているのか頼邑には想像できないものだった。
東へ向かう頼邑に潮風が心地好かった。そして、海をはなれ、再び景色は森へと変わる。 しばらくすると、右手に寺が見えてきた。境内はひっそりしている。頼邑は 、馬のアオをとめ、そこから足で歩き、山門をくぐると庵の方に歩いた。ふいに、前を歩いていた頼邑の足がとまった。庵の前に人が立っていたのである。
この寺の和尚だった。頼邑の姿に気付いたのか和尚が近寄ってくる。
「もし、旅人のお方であられますか」
和尚は、穏やかな微笑みを浮かべて頼邑を見つめていた。それから、頼邑は庵の中で茶菓子を馳走になった。
「では、あなたの国ではそのようなことが起こっておりましたか……」
頼邑が旅をしているわけを聞いた和尚は、湯のみを持ったまま虚空な眼で、
「やはり、あの森のせいか」
と、顔をゆがめてつぶやくように言った。
「森?」
頼邑が訊いた。
「ここから、さらに山を越えたところに、豊かな暮らしをしている集落があるそうです。その先には、神々が宿る深い森がある。それは、不死の森と呼ばれております」
和尚は、まだ湯のみに虚空にとめたままである。
「その森は、ここから何里ほどでしょうか」
和尚は手にした湯のみを飲まず、膳に置いた。
「行こうとするのはやめなされ。その森は、またの名を呪われた森と呼ばれております」
急に声を低くし、眼付きも変わっていた。
「…………」
山の向こうの夕日が辺りを赤く染めていた。 カナカナとひぐらしが鳴いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます