第16話朴念仁《ウィリバルト》を巡る恋愛事情

「それでヨッヘン……、ウィリ兄様、じゃない、ウィリバルト様は……? 」

「その場で跪いて求婚さ。ホント、あの押し掛け軍団の見え見えアプローチに今まで気がついてなかったなんて信じられるか? ありゃあ朴念仁なんてもんじゃ無い、バカ念仁っつーんだ。そう思わないか、マリア」


 アルステリア王国モーリア辺境伯領常備軍練兵場脇に設置してある士官用工房で雑談に興じているのは、この秋士官学校を卒業した二人の若手士官である。若手士官のうちの一人はヒト族の新任大尉で、名前をヨッヘンリント・モーリアといい、もう一人は新任中尉のマリア・カラスという名前の虎人族の女性だった。二人は携行武器のメンテナンスを行いながら、先日婚約を決めたウィリバルトを肴に、他愛ない雑談を交わしていた。ただし闊達に話すヨッヘンリントに対し、半ば聞き役にさせられているマリアはというと、やや歯切れが悪い相槌をうちながら、時折手元を狂わせてメンテナンス道具を取り落とし、ガッシャンバッタンと音を立てていた。


「うん……、でもウィリ兄様じゃなくて……、ウィリバルト様らしいというか……、なんと言うか……」


 階級の違いが有るが、気にせずに我俺口調で話をしているのは、二人が士官学校同期生だった事もあるが、合同出産で同日同じ施設で誕生した幼馴染の間柄である事が理由である。


 士官学校卒業生は少尉任官で部隊配置というのが一般的なのだが、この二人は卒業後即大尉と中尉で任官しており、その事実が二人の優秀さを物語っていた。しかし、当初の予定では、ヨッヘンリントは領主の息子という事で、慣例に従い中尉任官で他は少尉任官と決まっていた。それが覆されたのは、卒業演習で二人の示した抜群の能力だった。


 卒業学生率いる一個大隊と、卒業後五年までの成績上位者で構成されたOB率いる一個大隊で行われる卒業演習は、ここ数年は常にOB大隊の勝利で幕を閉じていた。元々が成績優秀な上に数年の軍歴を重ねたOB大隊に、ペーペーの学生が敵う筈もなく、卒業に浮かれる事無く任官する様にとの戒めになっていたこの演習で、今年度は卒業学生大隊が勝つという番狂わせが久しぶりに起きていた。その立役者になったのが卒業生総代、大隊長ヨッヘンリントと、騎兵中隊を率い勝負を決した次席卒業生マリアである。


 森林丘陵地帯での偶発戦闘という状況設定で行われたこの演習で、司令官たるヨッヘンリントが示した作戦は、占領した丘陵の頂上に司令部小隊を配置、その前方に前衛の歩兵中隊を二個展開すると、他の全ての兵力を小隊規模に分散し、これを斥候部隊に擬した伏兵としてOB大隊の進撃路に配置する、というものだった。あからさまな至弱を示した卒業学生大隊の布陣に、始めは罠を疑ったOB大隊司令官は、推進させた三個の威力偵察中隊全てから「複数の小規模斥候部隊と遭遇、交戦中」という報告を受けほくそ笑む。


「奴ら、情報の有用性を履き違えているな、俺も学生時代はそうだった。よし、領主様の次男坊殿に先達として一つ教育して進ぜよう。全軍、前へ! 」


 戦場で敵に対して優位に立つ為に、一にも二にも重要な物はズバリ正確で鮮度の高い情報である。卒業学生大隊指揮官、ヨッヘンリントはそれを重んじる余り、その陥穽に陥っている。OB大隊指揮官はそう判断した。


 戦場における情報は刻一刻と変化していく、最新情報とされていた情報も、一瞬後には陳腐化してしまう、だがそれを補う為に次々に斥候を出していては、肝心の攻撃、防御の為の兵員が少なくなってしまう。正に過ぎたるは及ばざるが如しなのだが、学生の図上演習では、斥候に出した兵隊の数が多すぎて攻撃したい時に攻撃出来ない、という喜劇がたびたび起こっていた。恐らくはヨッヘンリントの行動もその延長であろう、そうOB大隊司令官は判断した。さらに加えて彼が勘案したのは、斥候が持ち帰る情報は間違っていなくとも常に正しいという訳では無いという事だ。作戦や計画という物は、人間が運用する限り、実行に移した瞬間から綻びを生じ、崩れていく物である。特に軍事作戦という物は、敵という存在がある以上、その傾向は顕著であり、如何に綻びを最小限に抑えるかが指揮官の技量だが、崩れた行動を情報として斥候が持ち帰った場合、敵指揮官の判断に齟齬を生む要素ともなりうる。そのため軍全体の作戦行動に影響しないと判断すれば、指揮官はその綻びを綻びのまま放置する事もある。こうして情報に石を混ぜておけば、鮮度の高い玉石混淆の情報に敵指揮官は頭を悩ませ、判断を鈍らせる事が出来る。指揮官として大事な事は、少ない情報で敵の指揮官の作戦と心理を見抜く力であり、そのために得た情報を正確に読み取り優先順位と真贋を判断する能力である。参謀旅行でその点をかなり教育されはするが、実際に軍務に就かなければ、それも実戦を経験しなければ身につく能力では無い。自分もまだまだだが、実際に軍務に就き、情報を正しく扱う事に関しては自分に一日の長があると自負したOB大隊指揮官は、一つの作戦を立案して実行した。その内容は威力偵察中隊を再編して三個中隊のうちの二個を合流させ主攻部隊として再編。そして残った一個威力偵察中隊を前面に展開する敵二個中隊の右翼から、再編した主攻部隊を左翼から包囲する様にすり抜け背後で合流、その動きに呼応して自らの司令部と予備部隊を前進させ敵二個中隊を牽制して遊兵化させ、合流した威力偵察部隊と主攻部隊は斥候部隊を追い散らしながら三個中隊の兵力を以て敵司令部を直撃、一気に勝負をつけるという物である。


 しかし、それはヨッヘンリントの手の平の中だった。


 彼はOB大隊の動きを確認すると、司令部を時計回りに移動させる、それに呼応して壊走していた筈の斥候部隊が有機的に連係を取り、威力偵察中隊の鼻面を引きずり回し伏兵の潜む場所に誘引、あっという間に包囲網を完成させてしまった。一方の主攻部隊も目標の敵司令部の移動に伴い、進路の変更を余儀なくされる。OB大隊指揮官はこの状況に舌打ちするも、ヨッヘンリント司令部の移動先を予測すると、主攻部隊に包囲網の一点を突き開囲、その後中の威力偵察部隊と合流して包囲の反対側を突破、その突進力を以て敵司令部を強襲する作戦に変更した。その作戦変更を嘲笑うかの様にヨッヘンリントは回れ右、今度は反時計回りに元の頂上に向けて移動を始め敵主攻部隊の突進力を奪うと、その隙に遊兵になった筈の中隊二個をその背後に推進させて、二重包囲網を完成させた。

 歯噛みするOB大隊司令官の眼前で、ヨッヘンリント脚本演出の戦場劇が開演した。ヨッヘンリントは包囲網の一部、自身の存在する司令部に向かう一点を敢えて薄くして、包囲され混乱するOB大隊を誘導、翻弄して釣り上げる。彼等はヨッヘンリントの誘導で迷走し、自軍司令部から離れていく。OB大隊司令官はこれを嫌い、部隊をコントロール出来る位置に置くため、なし崩し的に司令部を前進させた。そうしてヨッヘンリントは敵司令部を任意の場所に誘引する事に成功した、それを確認すると作戦の最終フェイズに移行する。自部隊の包囲網があと一息で突き崩せる体を装い後退させ、それを慌てて援護する体で司令部部隊を前進させた。それを見たOB大隊司令官は、今度こそ決着をつけようと手元の予備部隊に吶喊を命じた。雄叫びをあげて丘陵を駆け上がる予備部隊を見送り、一息をついたOB大隊司令官は傍らの幕僚と


「流石は次男坊殿だったな、お互い気を引き締めないとすぐに抜かれるぞ」

「同感です、が、頼もしくありますね」


 と談笑する余裕を取り戻していた、しかしそれは束の間の余裕であった。彼等は一瞬弛緩させた精神の中、背後の丘陵から虎の咆号を聞いた。


「!! 」


 青ざめて振り返った彼等の目に、森林の中から悠然と姿を現したのは、士官学校次席卒業確定の生徒率いる騎兵中隊だった、そして自分達のいる場所が丘陵を縫う様に巡らされた小路脇に有る、やや開けた草原である事に気がついた。


 しまった、嵌められた! ここでは騎兵突撃を防ぐ事が出来ない!


 大型の軍馬に跨る騎兵隊長の次席卒業学生は身長百九十センチメートル、体重百キログラム、バスト百三十ウェスト八十ヒップ百二十の超グラマラスボディを誇る虎人族の女丈夫、マリア・カラスその人である。彼女の鋭い視線に射竦められ、OB大隊司令部員は身体だけではなく思考までも硬直させてしまった。マリアはそれを意にも介さず手にした得物、長さ2メートル50センチ、重さ八十八斤の大戦斧を片手で軽々と頭上に掲げた後、悠然と振り下ろし一点を指し示す。

 彼女が指し示した先は、今しがた吶喊して行った予備部隊の背中だった。配下の騎兵達は鬨の声をあげて獲物に向かい手綱を扱き、得物を振りかざし駆け向かう。茫然自失のOB大隊司令部員に涼やかな切れ長の目を向け、薄紅の唇に笑みを浮かべるマリア・カラス。場違いな彼女の美貌に一瞬見惚れたOB大隊司令部員は、次の瞬間顔色を失う。

 涼やかだった目が猛禽の輝きを宿し、穏やかな笑みが肉食獣のそれに変わる。OB大隊司令部員が現実を理解したのは、咆号を轟かせ愛馬を操り古(いにしえ)の騎馬武将の如く、暴風に荒れ狂う風車の様に軽々と大戦斧を振り回しOB大隊司令部に突入して来たマリアの一撃を我が身に受けた時であった。


 こうしてただ戦場を歩き回るだけでOB大隊を無力化したヨッヘンリントの知略と、充分にその意を汲んで別働隊を指揮し、最も効果的なタイミングでOB大隊司令部に突撃、蹂躙したマリアの手腕が高く評価され、一階級上の官位で任官していた。


「しっかし、分かった後の対応には魂消たな、剛毅というか馬鹿正直もあそこまで突き抜けると、逆に清々しいぜ」

「……ま、まぁ……、そもそもウィリ兄様……ウィリバルト様だから、そこら辺は……、仕方が無いと言うか、なんと言うか……」


 慣れた手つきで愛用の『剣先スコップ剣』の手入れをしながら、軽口気味に長兄ウィリバルトの婚約の顛末を話すヨッヘンリントに比べ、マリアの方はといえばヨッヘンリントの言葉一つ一つに動揺し、道具や大戦斧を取り落としたり、相槌一つにも精彩を欠き、あのOB大隊司令部を蹂躙した人物とは思えぬ挙動不審ぶりを示していた。

 それもそのはず、マリアはヨッヘンリントと一緒に合同出産で生を受けた縁で、物心ついた時からウィリバルトとも接していた。虎人族であるマリアの身体能力は他種族の大人すら軽く凌駕する、そのため同世代の子供達が相手だと、思いきり遊びに興じる事が出来なく、本音は少しつまらなさと寂しさを感じていた。そんなマリアの内心を知ってか知らずか、ウィリバルトは彼女に手を差し伸べる。後年吼える巨人と称されるウィリバルトは、ヒト族でありながらも常識外れの膂力を以てしてマリアの全力を受け止めていた。そんなウィリバルトをマリアは『ウィリ兄様』と呼んで慕っていた、そして年齢を重ねるうちにマリアはウィリバルトを恋慕する様になっていく。だがそんな甘酸っぱい想いも、初等教育を終える頃には身分の違い種族の違いを否応無しに認識し、押し殺していく事になる。しかしそれでも陰ながらお慕いするウィリ兄様の役に立ちたいと、軍を志し士官学校に入学し、卒業して領地防衛の任についたのだった。


 一度は諦めた想いではあったがやはりそこは恋する乙女、愛しい君の婚約問題に心中さざ波が立つどころか大波津波に荒れ狂うのはいたしかたない所である。マリアはそんな胸中を晒すまいと平静を装おうとしていたが、揺れる乙女心を抑制する事が出来なかった。そこは長年の付き合いでヨッヘンリントが察してやるべきなのだが、彼はOB大隊司令官の心理を正確に読み取り手玉に取った男とは思えぬ程、幼馴染の恋する乙女の心理には鈍感であった。それもそのはず、彼はかつてお菓子作りの一件で、教えを乞うた女性にあらぬ夢を見せていたにも関わらず、それに全く気がついていなかった過去を持つのだ。血は争えないと言うかなんというか、ヨッヘンリントもウィリバルトに負けず劣らず、充分過ぎるほどバカ念仁の資質を有していた。


 さて、この二人が話題にしている、ウィリバルトの婚約者選定に至る話はどんな子細が有ったのかというと……



「きゃーっ! 折角集めたのにーっ! 風さんの意地悪ーっ! よーしっ、また始めから、やるわよーっ! 」


 修道院の墓地に舞散った枯葉を集め、掃除に励むバーバラーを遠巻きに眺める四つの目が有る。


「あんれぇ〜、舞い上がっちょるぞな〜、バーバラー」

「そうなのよ、今回ばかりは私にも打つ手がないわ。なんとかならない? ベッシー」

「なんとかっつたってなぁ〜、どがいしたらいがっペ……」


 四つの目の持ち主は二人の女性だった、一人はミゼット族でこの修道院の責任者、マザー・ナターシャ、もう一人はその親友で、バーバラー変貌のきっかけを作った一人の森林エルフのベッシー・サラ・ボーンである。


「確かにこのまま尼になるのも人生だけど、これじゃぁ人生を投げ出したのと同じだわ。出家の意義が薄れるし、本人のためにならないわ」

「だっちゃねぇ~」


 頷きあってため息をつく二人に、不意に声がかけられる。


「ナターシャ様、ベッシー先生、礼拝堂の掃除、終わりました! 」

「終わったにゃ、次のお仕事は何なのにゃ? 」


 悩む二人に声をかけたのは、墓林祭を目前に控え、トミーの菩提寺たるこの修道院へ勤労奉仕にやって来たクリスロードとタバサである。


「これはクリスロード様、恐れ入ります。タバサちゃんもありがとうね」


 優しくそう答えるマザー・ナターシャの笑顔に力が無い、タバサのオッドアイの様な力を持たないクリスロードだったが、彼女が何か悩みを抱えているのは一目瞭然だった。


「何かあったのですか? ナターシャ様」

「マザー、悩みが有るにゃ。元気が無いのにゃ」


 心配そうな目で見る二人の姿に、これではいけないと自分に活を入れる様に胸元で拳を握り、マザー・ナターシャは目を閉じた。そして目を開くと先程よりも明るい笑顔で二人に答える。


「あらあら、心配させた様ですね、ごめんなさい。さてと、二人とも疲れたでしょう、ここらで一休みにしましょうね。頑張ってくれた御褒美に、甘いジュースをご馳走しましょう」


 マザー・ナターシャのその言葉に、タバサの耳と二本の尻尾がピンと伸びる。


「やったにゃ、若ちゃまジュースだにゃ! バーバラーお姉ちゃん、一休みだにゃ~! 一緒にジュースを飲むんにゃ〜! 」


 子供らしく喜んだタバサは、頭上に高く掲げた両手を大きく左右に振って、やや遠くの墓地で舞い散る落ち葉と格闘するバーバラーに大声で呼びかけた。


「はーい、私、この落ち葉を片付けてから参りますわー。タバサちゃん達はお先に行ってらしてー」

「分かったにゃー! 早く来ないと、お姉ちゃんの分も飲んじゃうにゃ〜! 」

「きゃーっ、それは無しですわー。急いで退治しますから、取っておいて下さーい! 」


 タバサの呼びかけに大声で応じたバーバラーは、手を振ってタバサ達を見送ると「ヨシ! 」と気合いを入れ直し、大量の落ち葉との格闘を再開した。


 掃除の終わった礼拝堂の片隅の机を囲み、四人は椅子に座って一息入れていた。御満悦な表情でジュースに舌鼓を打つタバサを微笑んで見つめるクリスロードだったが、ふとマザー・ナターシャとベッシーのさっきの様子が気になり、目線を二人に移した。クリスロードの視線に気付かずに、二人は表情を少し曇らせ、窓の外を眺めていた。

 何を見ているのだろう?

 そう思ったクリスロードが二人の視線の先を見てみると、そこには墓地の掃除に励むバーバラーの姿が有った。


「バーバラーん奴、ほんとに尼っ子さなるべぇか? 」

「今はまだ見習いに留めているけど、いつまでも誤魔化すわけにはいかないし……」

「ナターシャ様は、バーバラーさんが尼さんになるのは反対なんですか? 」


 二人の心配の種はやはりバーバラーなのかなと察したクリスロードは、マザー・ナターシャの袖を引っ張りそう尋ねると、彼女は軽くため息をついて首を左右に振りながらそれに応じた。


「そうね、反対と言うより残念な気がしてねぇ……」

「だっちゃねぇ。昔は昔、今は今じゃち言うても、てんで耳ば貸さんち……」

「アタイは反対にゃ! バーバラーお姉ちゃん、若様がスキスキにゃのに、にゃんで尼さんなんかになるんにゃ! 」


 憤慨するタバサに苦笑しながら、クリスロードは思案する。バーバラーがモーリア辺境伯領に来た理由も、それ以降今に至る経緯も知っているクリスロードも三人の意見に同感だったが、これまでは子供が口を挟む事では無いと考え、ずっとこの問題には黙ってきていた。実際今までは何だかんだ騒動が有っても、最終的には出家を踏み止まっていたので楽観視していたが、二人の様子から今回はどうやら違うらしい。モーリア辺境伯家にとって、バーバラー始めとする『押しかけ婚約希望者』達は、親から預かった大事な賓客である、たとえその娘の希望にそえない結果に終わろうと、丁重に親許に返す義務と責任が有る。それ故にバーバラーの問題は、モーリア辺境伯家としても頭の痛い問題だった。


「僕に良い考えが有ります、任せて貰えますか? 」


 意外なクリスロードの申し出に、マザー・ナターシャとベッシーの目が点になる。そしてお互い顔を見合わせ、もう一度クリスロードの顔をのぞき込む。自信ありげなクリスロードの笑顔に、二人は彼の非凡さを思い出す。そうして頷きあった二人は、藁をも掴む思いでクリスロードに向き直る。


「お二人共近くに、良いですか? ごにょごにょごにょ……」


 マザー・ナターシャとベッシーがクリスロードと額をくっつけ合う様に身を乗り出すと、一呼吸遅れて「仲間外れは嫌」とばかりにタバサもその輪に加わって、クリスロードに向かってエヘヘと笑う。そんなタバサにクリスロードは微笑み返し、それから計略の子細を小声で開陳すると、マザー・ナターシャとベッシーは目を見開いた。


「クリス様(さぁ)」

「ナイスアイデアです」

「だにゃ! 」


 思わず膝を叩いた三人は、クリスロードの背後の扉が勢いよく開くのを見た。


「お待たせしました、落ち葉の片付け、終了しました」


 そこに立っていたのは、奉仕の喜びに目覚めつつあるバーバラーである。


「あ、あら皆さん……、どうされまして? 」


 バーバラーは扉を開けた途端、意味ありげな笑みを浮かべ、自分を見上げる四人の目に一抹の不安を感じ、ひきつった笑みを返すのだった。

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