第4話 赤ちゃんだからわかりません

 さてさて、これからどうしたものか……


 子供の頃貪り読んだ、世界の謎と不思議の本に書いてあった、転生輪廻とかいう現象が俺の身に起こったらしい

 その本では、インドで前世記憶を持った子供が沢山居ると紹介していた。

 まぁインド発祥の仏教もヒンズー教も、修行の最終目的は、転生輪廻から解脱をして自らが浄土に行く、もしくは衆生を導くという救済だから、そういう話の一つも出るのだろう。

 そういやチベット仏教のエライさんは、十四回も転生輪廻を繰り返しているそうだ。もし今後会える機会が有るならば、俺はこれからどう振る舞えば良いのか、転生輪廻の先輩としてのアドバイスをじっくりと聞かせて貰いたいと本気で思う。

 しかしながら、その望みは叶わないだろう。何故ならここは、インド人もビックリな事に地上世界では無いからである。では何処の世界なのかというと、どうやら海と大地を貫いた所や、地底なんかに観念とか概念として存在するあの世界らしい。そう、所謂『異世界』だったりする訳である。


 ここ数日間、情報収集に勤しんだ結果、幾つか分かった事が有る。


 まず肝心なのは、ここでの俺の名前。


『クリスロード・モーリア』というらしい、因みに愛称はクリスで、救国の英雄の名前が由来だそうだ。


 うん、『九朗』よりはよっぽどマシだ。


 命名者は父親では無い、この世界でもこのアルステリア王国特有の文化、合同出産で一緒になった家族の父親、ダーリン・スチーブンス氏に名付け親になる様にお願いしたらしい。因みに合同出産で、一緒に産まれた他の赤ちゃんの父親を『亜父あふ』と言い、父親に次いで尊敬する人とされる。つまりこのダーリン氏は、俺の亜父で名付け親という事だ。因みに俺の父親が、ダーリン氏の娘さんの亜父であり、名付け親であるとの事だ。


 次に分かった事は、この世界には人以外にも人間とされる種族が存在している事である。

 まだ出産後間もなく、完全な職場復帰をしていないが、復帰後は俺付きの侍女になる女性、サマンサ・スチーブンス女史(この人は俺の『亜母あぼ』だ)は何と猫人族であり、顔見せに来た時はその見事な猫耳に驚いてしまった。


 そんなファンタジーな世界に転生を果たした俺は今、地面に這いつくばって前進している。

 何でそんな事をしているのかというと、身体を鍛え直す為だ。

 前世での死の間際、あの子猫を救えなかった事は、今の俺にとって大きな心残りとなっている。

 学生時代は体育祭なんかで陸上部イーター、運動部キラーと呼ばれたこの俺が、まだまだ老いさらばえてはいない筈なのに、いつの間にか衰えていてあの体たらくだった。


 このままではいけない!


 忸怩たる思いを胸に、俺は自分を鍛え直す事にした。

 生後間もない身体を鍛え直すというのも、正直な話変だと思うが、そんな些細な事はどうでもいい。

 今回の人生で悔いを残さないためにも、今出来る事は全力でやっておくべきなのだ。この異世界転生という荒波をきっちり乗り越えるためには、俺に赤ちゃんなんてやってる暇は無い。


 ♪ハイリハイリフレハイリホウ


 大きくなれよ。という理由だ、若いヤツには分かるまい。


 それに、俺はただ闇雲にハイハイをしてるのではない、これも立派な情報収集活動の一つなのだ。この部屋の中には今、俺の他に四人の人間が正方形の形で床に座っている。

 彼等は今世での俺の家族で、兄と姉にあたる人物である。彼等を通じてこの世界の教育方法、生活様式、文化水準、思想形態等の情報を収集し、加えて出来うる限り彼等の思考的好悪を探ろうと思う。

  かの転生輪廻の先輩からアドバイスを受ける事叶わぬ今、それを元に今世の身の割り振りを決める指標とするのだ。


 まさか目の前の赤ん坊がこんな事を考えていようとは、兄姉達どころか御釈迦様にも分かるめぇ、ふっふっふ……


 そんな事を思いつつ、俺は前方で手拍子を打ち、笑顔で待ち受ける長兄、ウィリバルト・モーリアに向かい、全速力でハイハイをするのだった。


 あ〜、でもこれ、理屈抜きで何か楽しい〜。





「よ~し、頑張れクリス。もう少しだ、来い」


 無邪気な笑顔で、自分に向かってハイハイして来る年の離れた弟を、ウィリバルトは相好を崩して応援する。彼の声援に応える様に、弟クリスは笑顔を輝かせ、ハイハイの速度を加速する。やがて兄の元にたどり着いたクリスは、膝の上によじ登り、嬉しそうに元気良く手足をばたつかせ、嬌声をあげる。


「キャッキャッ、あだ、あだ、むー!!」

「そうかそうか、よしよし」


 ウィリバルトがクリスを抱き上げ、高い高いをすると、クリスは上機嫌でばたつかせる手足の力を強めた。


「おっ、クリスは凄い力だな。きっと強い剣士になるぞ」


 予想外の赤子の力に驚いたウィリバルトは、落とさないように注意してクリスを床に下ろし、次兄のヨッヘンリントに向ける。


「さぁクリス、次はヨッヘンに突撃だ、進め〜」

「ばぶ〜」

「よし、クリス、どんと来い! 」

「だぁ〜」


 ヨッヘンリントは座った姿勢から、クリスに視線を合わせるために床にうつ伏せとなり、両手を差し出し手招きをする。クリスはそんな次兄の仕草を気に入った様で、目をクリクリさせて前進する。そして彼の眼前に到着すると、もみじの様な手でその顔をピタピタと叩き、髪や耳を掴んで嬌声をあげる。


「う〜う〜、ばぁぶぅ〜」


 クリスの攻撃(?)にたじたじとなったヨッヘンリントは、座り直して抱き上げる。


「兄上、今の見ましたか? クリスは剣術よりも、グラップルの素質が有りそうです。よーし、クリス、大きくなったら稽古をつけてやるからな」


 グラップルとは、アルステリア王国に古くから有る徒手格闘術を統合、再編して作られた軍隊格闘術で、空手と合気道を融合させた様な武術である。

 ヨッヘンリントは剣術よりもこちらが得意であり、将来の一番弟子のぷにぷにの頬を、つんつんとつついた。そんなヨッヘンリントにウィリバルトはしかつめ顔でたしなめる。


「ヨッヘン、グラップルも大事だが、やはり貴族の嗜みは剣をおいて他に無い。よし、クリスが大きくなったら、一緒に見てやろう」

「となると、剣術では私はクリスと同期ですか? それはちょっと嫌だなぁ」

「ならば明日からでも剣術の稽古に身を入れる事だ、興味ない事柄の手を抜くのは、ヨッヘンの悪い癖だ」

「あ〜だ〜、うぶぅ〜」

「ほら、クリスもそうだと言ってるぞ」

「うへぇ〜、参ったな〜」


 可愛い弟を独占する兄二人に、双子の妹達が痺れを切らし、抗議の声をあげる。


「兄様達、クリスはまだ赤ちゃんですよ」

「今はそんな事より、丈夫で健やかに育ってくれればいいんです」


 やはり妹とはいえ女の子である、将来どうこう勝手な勇ましいビジョンを描く兄二人よりも、赤子の堅実な成長を願う気持が強い。それに彼女達がクリスに願う事は、未来永劫『可愛い』なのだ、女の子にとって可愛いは正義である。

 長姉アルドンサは、正義を行使して可愛い弟を野蛮な兄二人から救出した。


「さぁクリス、お姉ちゃんの所にいらっちゃ〜い」


 アルドンサがそう言って、クリスに向けて両腕を伸ばし、手の平をかざす、すると。


「ああ〜、む〜」


 クリスの身体がふわりと宙に浮かび、そのままふわふわと空中を遊泳してアルドンサの元に移動した。アルドンサはクリスを抱きとめると、ニッコリ笑って話しかける。


「どうでちゅか〜、お姉ちゃんは魔法がちゅかえるんでちゅよ〜、ちゅごいでちょ〜。おもちろかったでちゅか〜」

「あ〜ぶ! あ〜ぶ! だぁ〜!!」


 いきなりの空中遊泳に、最初は面食らった表情を浮かべていたクリスは、アルドンサの話を聞くと、まるで理解をしたかの様に目をクリッと見開いた。そして興奮した笑顔を彼女に向け、全身を使って喜びを表現する。その様子に気を良くしたアルドンサは、魔法を使って天井近くまで高い高いをした。


「ちょうでちゅか、おもちろかったでちゅか。は〜い、高い高~い」

「むう! むう! キャッキャッ」


 魔法の高い高いが気に入ったのか、クリスは空中を上下しながら、可愛らしい嬌声をあげて喜びはしゃいでいる。その様子を心底羨ましげに見つめていた次姉のダルシネアは、何回目かの高い高いを終え姉アルドンサの腕にキャッチされたクリスを、魔法を使って自分の手元に呼び寄せる。途中で一回宙返りを加えられたクリスは、ダルシネアの腕の中で大喜びしていた。


「はーい、クリスちゃんいらっちゃ〜い。お姉ちゃんもねぇ、魔法がちゅかえるんでちゅよ、クルクルはどうでちたか? 」

「ばぁぶ! ばぁぶ! だ〜!! 」

「ちょうでちゅか、おもちろかったでちゅか。じゃあ、クルクルちながら高い高いちまちょうね、それぇ〜!」


 ダルシネアがクリスに宙返りを加えた高い高いを始めると、クリスは空中で大喜びの嬌声を上げている。その様子を見ながら、他の兄妹三人がダルシネアの元に集まり、上空ではしゃいでいる弟を見上げて目を細める。


「クリスは魔法感受性が高いみたいだな」

「あれを怖がらないなんて、大物ですね、兄上」

「全くだ」

「何を言ってるんですか、兄様達は。クリスは私達の弟です、そんなの当然じゃないですか」

「ええ、この子は将来クリスロードの名前に恥じない英雄になるんです、この位へっちゃらですわ。大きくなったら、魔法だって上手に使える様になりますわ」


 感心して呟く二人の兄に対し、妹二人はそんな事は当然と反駁する。この「私はなんでも知っている」と言わんばかりの妹達の態度に、兄二人は思わず苦笑して顔を合わせた。


 この世界には、魔法が普通に存在している。

 ただし、多くの者は、竈に火を起こす程度の魔法しか使えない。強力な魔法を使うには、高い魔法感受性と魔力量、それと魔法を構築する為の、緻密なイメージ力が求められる。

 アルステリア王国では、初等教育前半で児童の魔法感受性と魔力量が見極められ、適正が高い者には初等教育後半で魔法教育を施すカリキュラムが組まれている。そして、初等教育後半で更に高い魔法資質を示した者は、魔道士学校に進学が認められ、高度で専門的な魔法を学ぶ事になる。

 アルドンサとダルシネアは初等教育前半で高い魔法適正を示していた。そして10歳になり初等教育後半期に進み、本格的な魔法教育が始まった今は、魔法を使いたくてしょうがない時期なのだ。二人が今、魔法を使ってクリスをあやしているのには、そんな背景がある。

 因みに長兄ウィリバルトは14歳、彼も高い魔法資質を示しており、来年度からモーリア辺境伯領内の魔道士学校への進学が内定している。一方12歳のヨッヘンリントは魔法資質が高いのだが、それを極める程興味が無く、将来は父や兄を支えて国や領地を守るため、士官学校への進学を志していた。


 アルドンサとダルシネアによる、魔法の高い高いが一段落し、四人の中央に御満悦の表情を浮かべるクリスに、ウィリバルトが長兄の威厳を示すために、半ばふざけて魔法の講義を始める。


「いいか、クリス、この兄も魔法を使えるんだぞ。来年から魔道士学校に通うこの兄が、直々に魔法の手ほどきをしてやろう、心して聞くように」


 まだ産まれたばかりの赤ちゃんに、いきなり魔法講義を始めた長兄に、妹二人は「また始まった」「クリスはまだ赤ちゃんなのに」と、一斉に呆れた表情を浮かべてながら小声で野次る。そんな外野の野次など馬耳東風、ウィリバルトはベテラン講師を気取り、特待生飛び級の新生児クリスロードに講義を続ける。


「魔法を使う為の三つの要素、魔法感受性、魔力量、そしてイメージ力がある。この中で最も重要なのはイメージ力だ、なぜなら魔法感受性と魔力量、特に魔力量には個人差があり、どんなに努力をしても、個人の上限を超えて魔力量が増える事はない。ここまでは理解出来たかな?」


 ウィリバルトは一度言葉を切り、クリスロードの様子を見る。邪気など一切無い、素直な瞳で不思議そうに見つめる弟の姿に満足したウィリバルトは、再び口を開き、講義を再開する。


「よろしい、では魔力量が劣る魔導師は弱い魔導師かというと、一概にそうとは言えない。魔法感受性がそれを補い、少ない魔力量で強力な魔法を発動する事が可能になる。ではどうやって魔法感受性を高めるかというと……」


 そう言うと、ウィリバルトは両手を組んで、擦る様に揉み合わせ、クリスロードの興味を引くように、親指と人差し指の間から中を覗き込む。それを見たクリスロードは、ウィリバルトの思惑通りに自分も中を見たいと、全身で訴える。ウィリバルトが少し勿体つけて手を開くと、手のひらの上に魔法で作り出した光球が浮いていた。クリスロードは驚いた目つきで、じっとその光の球を見つめている。ウィリバルトは光の球に、フッと息を吹きかける。すると光の球はクリスロードに向ってふわふわと飛んで行き、頭上で弾けて光のシャワーを浴びせた。

 クリスロードは手を叩いて喜んでいる。


「魔法感受性は持って生まれたセンスも大事だか、どんな魔法を構築して使うか、詳細なイメージをする事で磨かれる。だから強力な魔導師になりたければ、どんな結果を求め、どんな魔法をどの様に使うか、イメージする力が最も重要と言える」

「そう、こんな風にね」


 ウィリバルトの言葉を受けて、ヨッヘンリントが不意に口を開く。クリスロードが目を向けると、彼は握った拳に人差し指を立てていた。人差し指の上には、ウィリバルトが作り出した物と同じ様な光球が浮いている。

 クリスロードの興味を引いた事を確認したヨッヘンリントは、離れたベビーベッドに向かい腕を振り下ろす。光の球は一直線にベビーベッドに向って飛んで行き、枕の横に置いてある大きなぬいぐるみに命中する。するとぬいぐるみは立ち上がり、光球が当たった場所を庇う様に押さえると、ヤーラーレーターと言わんばかりの動作でベッドに倒れた。

 これを見た妹二人は「兄様、悪趣味」「クリスの教育に良くない」と不満を口にするが、ヨッヘンリントはこれを無視してクリスロードにウィンクをする。


 一瞬呆けた表情を浮かべたクリスロードは、やがて目をクリクリさせて二人の兄を交互にみあげた、そしてヨッヘンリントの真似をする様に、壁に向って手を振り下ろした……





 ほほう、いい事を聞いたぞ。この世界には魔法が有るのか。流石ファンタジーな異世界だぜ。

 ナニナニ、魔法を使うにはイメージする力が大事か……、なるほどなるほど。ヨシ、じゃあ一発やってみるか!

 何をイメージするかな……、うん、記念すべき一回目だ、ド派手に行こうぜ。

 まずイメージするのは円柱型に固めたHMXだ、RDXでも良いが、アレは毒性があるから中毒を起こすと不味い。

 分子式は確かC4H8N8O8、この円柱の片側をへこませて漏斗状の金属板を貼り付ける、一般的なのは銅だったな、元素記号はCuだ、原子構造をイメージ……。学生時代、しっかり勉強しておいて良かったぜ。さて、貼り付けたぞ、そしたらへこんだ方が目標に触れる様に飛ばして、着弾と同時に反対側を爆轟させるっと。

 外見は魔法っぽく光球が良いな、兄貴達もそうしていたし。うん、イメージは完璧だ。


 そ〜れ、飛んで行け〜!!


 なんちゃって、一回聞いたからって出来るかよ。


 ……………って、あれぇ……………


 やべェ、どうしよう……




 クリスロードが腕を振り下ろすと、光の球が勢い良く壁に向って飛んで行く。

 着弾した魔法弾は、クリスの中のおっさんがイメージした通りに爆轟した。

 発生した爆轟波により、おっさんがイメージした漏斗状の銅板は動的超高圧になり崩壊する、そしてユゴニオ弾性の限界を超えて液体に近い挙動を示した。その結果、銅板は爆轟波の進行が進むにつれて、漏斗の中心に出来た圧力凝縮点によって、底部から先端まで絞り出される様に液体金属メタル超高速噴流ジェットとなり噴き出した。この現象をモンロー/ノイマン効果という。

 壁に接触したメタルジェットの運動エネルギーは、壁の強度を無力化して侵徹し、轟音と共に穴を開けた。

 彼がイメージした物は、形成炸薬弾という物騒な代物だった。


 この光景を目の当たりにした四人は顔色を失う。そして点になった目で、愛らしい弟の姿を見つめた。


 一同が唖然として言葉を失う中、騒ぎを聞きつけた父親、カーレイ・モーリアが血相を変え、部屋に飛び込んで来た。


「どうした! 一体何が起きた!! 」


 壁に空いた穴を見るなり、カーレイは四人に詰問する。


「また魔法の濫用だな! 誰がやった、ヨッヘン、お前か!? 」

「違うよ、父さん」


 父親の剣幕に押され、消え入る様なか細い声でヨッヘンリントが答える。


「ウィリ! ではお前か!? お前は長男として皆の手本となる立場のくせに、一体何を……」

「違う、違うんだ、父上」


 怒り心頭のカーレイに、ウィリバルトが説明を試みる。


「アレは……、クリスロードが……」


 その説明にカーレイは目を剥く、怒りの温度が更に上昇するのを感じ取ったウィリバルトとヨッヘンリントは今までの経緯を早口で説明する。


「実は、僕がふざけ半分で魔法の講義をクリスにしたら……」

「そう、クリスが魔法を使って壁に穴を空けたんだ! 信じられないけど信じてくれよ! 父さん! 」


 カーレイは二人の必死の説明に少し考える表情を浮かべると、クリスロードの姿をまじまじと見つめる。そしてアルドンサとダルシネアに厳しい表情で真贋を問い質す。


「二人とも、それは本当か!? 」


 父親の剣幕に怯えながら、双子の姉妹は抱き合って首を横に振る。


「ち、違います……」

「お父様、違うんです……」

「やはり違うんだな!? 」


 双子の姉妹は、兄達の仕業では無いと言ったつもりだったが父親の形相に恐れをなし、短くそう答えるのがやっとだった。カーレイはその言葉を、兄二人が嘘をついて誤魔化していると受け取った。


「コラッ! 二人共! 生まれたての弟に罪をなすりつけるとは何事だ!! 恥を知れ!! 」

「そんな馬鹿な! 」

「待ってくれよ、僕達の話を真剣に聞いてくれ」

「何が馬鹿なだ!! 聞く耳持たん!! こんな赤ちゃんに、あんな魔法を使える訳が無いだろう! 嘘をつくにも程がある、こっちに来なさい!! 」


 耳を捕まれ、父親に引きずられる様に退場して行く二人の兄の背中を震えながら見つめるアルドンサとダルシネアは、不意に足下から見上げる視線を感じる。そこには天使の様な笑顔で見上げるクリスロードの姿が有った。





 やべェ、これマジやべェ、魔法は暫く封印だ。

 少なくとも、普通に喋れる様になる迄使ったらダメだな、こりゃ……

 仕方ない、ほとぼりが冷めるまで普通に赤ちゃんやるしかねぇな。ヨシ、これからは気負わず気楽に赤ちゃんをやろう、それがいい。


 さて、それはさておきこの壁の穴はどうしよう?


 そんなの決まってらい


「赤ちゃんだから、わかりません」


 そう結論を出した俺は、可愛い赤ちゃんを演じるべく、二人の姉に天使の笑顔を向けるのだった。

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