第2話 嵐の夜に

 空に雷雲が渦巻き、不気味な雷鳴を轟かせ、豪雨と強風が吹き荒れる月の無い夜、ある建物の一室で、二人の女性が苦悶の表情を浮かべ、痛みに耐えている。


「ゔぅぅぅうっ…………。サ、サマンサ……、だ、大丈夫ですか……」


 歳の頃三十代半ば過ぎといった、美貌の人間の女性がベッドに横たわっている。彼女は苦悶の表情を浮かべながらも、傍らに横たわる猫人族の若い女性に気遣いの声をかける。


「はい、奥様、勿体のうございます。うあぁぁあっ、あぁあぁぁっ」


 気遣われた若い猫人族の女性、サマンサも同じ様な苦悶の表情を浮かべて謝辞を返す。

 二人とも額に脂汗を浮かべ、互いの手をしっかりと握りしめ、励まし合っている。


「「ひっひっふー、ひっひっふー……」」


 二人の女性は呼吸を整えると、再び迫り来る波動に立ち向かう。


「奥様! 奥様! くうぅぅ〜っ、奥様は……、大丈夫……なの……ですか……」

「私は大丈夫……、うぅぅ〜〜っ、任せなさぁあああ〜ぃ」


 苦しみに耐え、自分を気遣うサマンサに対し、奥様と呼ばれる女性は悲鳴混じりではあるが、気丈に応えてみせる。


「サマンサ、私はこれが四回目、五人目のベテランです、気遣い無用……、貴女は、初めてでしたね?」

「はい、奥様」

「私がついてます、大船に乗ったつもりで任せなさい!」

「はい、奥様……」


 感涙を浮かべ、頼しげにこちらを見つめるサマンサを、奥様は優しげに見つめ返し、握り合う手に力を込める、サマンサはそれに応え、同じ様に手に力を込めた。


「なぁ〜にをしとるんじゃい、二人とも!」


 励まし合う二人の頭に、突然ぺしりぺしりとチョップが見舞われる。


「エリザベス! サマンサ! さっさと済まさんか! 外の連中は今か今かと、首を長くして待っているんじゃぞ!」


 二人の女性が頭上の声の主に目を向けると、そこには如何にもやり手ババァといった感じを全身から醸し出す、白衣の老婆が顔を顰めて立っていた。

 この姿をみとめた二人の女性は、再び顔を見つめ合い微笑みを交わすと、目と目でエールを送り合い、それぞれの戦いに挑んだ。

 そんな二人に白衣のやり手ババァが声をかける。


「それ、二人ともその調子じゃ、いきんでいきんで、もっといきんで!!」

「うぅぅ〜っ」

「くうぅぅ〜っ」


 やり手ババァの掛け声に合わせ、二人の女性は下半身に力を込めた。



 ここ、アルステリア王国では、出産予定日の近い女性は一箇所に集められ、陣痛が始まると同じ分娩室に運ばれて出産する、『合同出産』が一般的な文化となっている。

 この世界では、出産が死因の上位にあげられる。

 出産による母子の死亡を防ぐには、医療魔導師によるアシストが必要であるが、その医療魔導師も個別に対応するには人数が少なすぎた。

 そこで出来上がったのが、合同出産というシステムである。


 この合同出産は、出生率の向上と母体の安全に一役かっただけではなく、様々な相乗効果を生み出した。

 親達は自分の子供だけではなく、複数の子供の誕生に立ち会う為、子供は実の親だけではなく、地域が一丸になって育てる、という認識が芽生え、強く浸透していった。同時に子供達も、血は繋がらなくても互いに兄弟姉妹であり、大人は皆両親である、そう認識していた。

 この認識は国民同士に強い連帯感を生み、アルステリア王国を強国にのし上げる原動力となった。これは行き過ぎると地域間の対立を醸成する危険も確かにあるのだが、王室のカリスマ性の前では些末な問題であった。


 このように、一般的な合同出産であったが、現在進行している出産は普通の合同出産とは少々趣きが違った。

 ヒト族のエリザベスと、猫人族のサマンサが合同出産しているのである。


 いくら合同出産が一般的とはいえ、異種族が同じ屋根の下、同じ分娩室内で出産する事は、他の地域では有り得ない事だった、それが行われている理由はこの土地が有する地理条件にあった。


 ここはアルステリア王国の最西部にある、モーリア辺境伯領である、アルステリアとは常に緊張状態にある、アマデウス帝国との国境地帯であると同時に、魔物の闊歩する未開発の大森海、ポチョムキン大森海の存在がその理由である。


 領地に二つの脅威を抱えるこの土地は、かつては難治の土地だった。

 肥沃なこの土地を隣国のアマデウス帝国は常に狙い、ポチョムキン大森海の魔物の活動の活発化に合わせ、侵略戦争を仕掛けてきた。それに対抗する為、何人もの優秀な軍人貴族がこの土地に封じられたが、同じ数の軍人貴族が失脚していった。


 いつしかこの地は貴族の墓場と呼ばれ、王国の忌み地となった。領主のなり手がいなくなったこの土地に、今から150年程前、自ら進んで領地経営をするべく名乗り出た者がいた。

 時の国王ギーザ四世の末子、バトラー王子である。


 バトラー王子は、父王に上奏する。

 この土地はもはや貴族にとっての死地であり、いくら手腕力量を期待してであっても、この地に封じる事は、死刑を宣告しているのと同義である事を説く。

 そのため貴族や軍人の中に、いくら手柄や功績を上げても、死刑を宣告されては堪らないと、任務の手を抜く風潮が生まれている、これは国家の弱体化に直結する憂慮すべき問題であると訴える。

 最後にこれを解決するには、王族の一人が臣籍降下して、かの地を治めるしか方法は無いと締めくくり、自分がその任に当たると宣言した。


 ギーザ四世はバトラー王子の言葉に大いに頷くと、モーリア辺境伯爵家を設立し、臣籍降下したバトラーを初代モーリア辺境伯として、かの難治の土地に封じたのだった。

 これに際してギーザ四世は息子バトラーに、臣籍降下した場合は侯爵家以上を設立するのが慣例だが、不満は無いかと確認したが、バトラーからの答えはこうであった。


「なに、成功したら、王家に匹敵する財力を持てるのです。辺境伯程度に抑えなければ、他の貴族と釣り合いが取れません、名より実を頂きます」


 そうして領地入りしたバトラーは、領地経営開始と同時に、一つの領内法を発布する。


 種族平等法


 である。


 この世界にはヒト族、妖精族、獣人族、鳥人族等の様々な種族の人間が存在する、統治能力に優れたヒト族が他種族を統べる形で国が作られていた。

 よってヒト族を頂点とする身分社会が定着しており、各種族間には緩やかではあるが、根深い対立意識が存在していた。それがいざと言う時の足枷となっていると分析したバトラーは、各種族間の融和を第一の政策としたのだ。

 数多くの反対意見をねじ伏せ、種族平等法の定着を進めるために、バトラーは全領民に訴えた。


「君達が憎いのは一体誰だ、隣に住んでいる異種族の人間か。違うだろう。真に憎いのは戦争を仕掛け、君達を故郷から追い出し、家族を捕らえて奴隷にしたアマデウス帝国の連中と、同じく家族を食い物にしたポチョムキン大森海の魔物だろう。この二つの脅威を前にして、一体いつまでいがみ合うのかね。そんな事だから、君達は故郷を追われ家族を奴隷にされ、食い物にされたんだよ。次は君達の番だ。もう私達にはいがみ合う余裕は無いんだよ」


 そう訴えたバトラーは、率先して融和活動を行った。まだ独身だった彼は、婚姻を結んでも、子を成す事の出来ない獣人族の女性を正室に迎えた。

 さすがに血統を繋がなくてはならない為、第二夫人は同じヒト族から迎えたが、他の側室は全て異種族の女性で固めた。

 新領主、それも旧王族のバトラーの覚悟を知った家臣達領民達は、次第に心の距離を狭めていく。

 極めつけは領主自らの、異種族を交えての合同出産である。

 バトラーはこの日一緒に父親になった、名も知らぬ市井の異種族人と抱き合って子供達の誕生の喜びを分かち合った。そしてその場の全員で第一公子の名前を考え、命名したのである。


 バトラーのこの行動は、王国内の他の貴族達から眉を顰められたが、父親である国王ギーザ四世は、難治の地故に常道は通じずと不問にした為、大きな問題にはならなかった。


 こうして他種族間の融和政策を推し進めるモーリア辺境伯領に、最初の試練が訪れた。

 ポチョムキン大森海の魔物の活動期に合わせ、隣国アマデウス帝国の侵略が始まったのである。

 激しいアマデウス帝国の攻撃に晒された国境警備軍は、モーリア辺境伯正規軍の到着を待たずに全滅していた、その死体の中に、第一公子と獣人族の兵士達が、互いに庇い合う様に折り重なって横たわる姿が合った。特に第一公子の死にざまは凄まじく、最期まで仲間を護ろうと、両腕を広げて全身に矢を受けた、立ち往生の姿で発見されたと伝えられる。


 死した若者達の血が、強固な漆喰となって、モーリア辺境伯領の全ての種族を結びつけた。

 各種族が手を取り合い、怒りの炎を敵アマデウス帝国の軍に叩きつける。

 怒濤の反撃を受けたアマデウス帝国軍は潰走し、撃退された。この時からモーリア辺境伯領軍の、失地回復の聖戦が始まる。


 各種族間の確執は、実はアマデウス帝国にも存在した。

 彼等はその解消法として、隣国アルステリア王国への侵略を行っていた。同じ弱点を抱えながら、もう一つポチョムキン大森海という弱点を抱えるモーリア辺境伯領は、アマデウス帝国にとって、恰好のガス抜き場になっていたのだ、その証拠に、彼等はポチョムキン大森海には絶対に手を伸ばさなかった。

 種族間の確執という弱点を克服したモーリア辺境伯軍の勢い凄まじく、バトラー一代でこれまでの失地を回復する事に成功し、現在に至るのだが、異種族の結束も弱まる事無く今も続いている。その証拠が今回の合同出産であり、二人の妊婦の態度である。


 それとは別にもう一つ、他の地域だけではなく、いつもの合同出産と比べて違和感を感じる点がある。今日に限って出産妊婦はたった二人だけ、という事である。

 いつもなら十人以上の出産となり、医療魔導師達は息つく暇も無い程に、大忙しのてんてこ舞いの状態が普通である。

 まぁ、極論すれば誰も出産しない日も有るには有るのだし、こんな日が有ってもおかしくないと言えばおかしくないのだが、医療魔導師長、モーリア辺境伯筆頭魔導師、やり手ババァことメリッサ筆頭魔導官は妙な胸騒ぎがした。

 彼女は二人の妊婦を励ましながら、窓の外の嵐の空を見つめる。


「こんな嵐の夜に、選ばれた様にたった二人の赤子とは……、不吉な前兆でなければ良いが」


 そう思った瞬間、ひときわ大きな雷鳴が轟き、それと同時に二つの産声が上がった。

 二人の赤子、ヒト族の赤子と猫人族の赤子には外見上の異常は無いが、産褥の血液が血の涙を流す様に、二人の目尻から頬にかけてこびりついていた。

 これを目の当たりにしたメリッサは、この血の涙は生まれて来た事の喜びの涙か、それとも悔やんでいる涙か、判断に苦しみながらも、手慣れた動作で二人を産湯につけるのだった。


 一方、分娩室の外では、二つの家族が今か今かと、新しい命の誕生を心待ちにしていた。

 ヒト族の家族は、妊婦の夫であり赤子の父親の男と四人の子供達、猫人族の家族は、夫であり父親の若い男一人である。


 心配そうに、所在無さげに落ち着きの無い、猫人族の若い男に、微笑みながらヒト族の男が声をかける。


「どうも出産というのは、待つ身には辛い物があるね。何度経験しても、慣れん物だ」


 まさか自分が声をかけられるとは思ってもいなかった猫人族の男は、驚いてヒト族の男を振り返る。


「ダーリン君の奥さんは、初めての出産だって? 」


 にこやかに声をかけるヒト族の男に、猫人族の男、ダーリンは深々と頭を下げて答える。


「はい、見苦しい姿をお見せして恥ずかしい限りです、申し訳ございません、領主様」


 ヒト族の男は現モーリア辺境伯、カーレイだった。猫人族の男ダーリンは、妻サマンサが下級侍女として領主館に勤めているだけで、自分とは面識すら無い天上人の辺境伯に親しげに名前を呼ばれ、その上気を遣って貰い、深く恐縮していた。


 そんなダーリンに、カーレイは笑って肩に手をかける。


「いえいえ、見苦しいものですか、実を言うと私も、長男が産まれる時は同じでしたよ。今回立ち会っている医療魔導師は大ベテランの凄腕魔導師です、きっと無事に終わりますよ、信じて待ちましょう。さぁ、この場では身分の差はありません、頭を上げて下さい」

「そんな、領主様……」


 二人の父親のやり取りを眺めていたカーレイの長男、モーリア辺境伯第一公子のウィリバルトが名案を思いつく。


「そうだ、父上、初代様の故事に倣われてはいかがです?」


 その言葉に第二公子、ヨッヘンリントが膝を叩く。


「流石兄上、ナイスアイデア! 父上、私も賛成です。是非そうしましょう」


 二人の息子達の発言に、カーレイは一瞬何の事かと、狐につままれた表情を浮かべて聞き返す。


「お前達、二人揃って何を言っているんだ?」

「ダーリンさんに、私達の新しい家族の名付け親になって頂くのです」


 ウィリバルトの答えに、カーレイは相好を崩し、ダーリンは恐慌をきたす。


「おお、それは名案だな。ダーリン君、是非お願いするよ」

「そんな、私なんて滅相も無い」


 妻の初めての出産と、辺境伯一家からの、予想だにしない申し出に、半ばパニックとなったダーリンを他所に、辺境伯一家はわいのわいのと盛り上がる。


「ならば、ダーリン君の赤ちゃんの名前は私が考えなければ……」


 カーレイが頭を捻ると、第一公女、長女のアルドンサが手を上げる。


「父上、私が考えますわ」


 物事が自分に関係の無い所で、予想外の方向に膨らんでいき、頭を抱えるダーリンの袖を引っ張り、第二公女、アルドンサの双子の妹ダルシネアがキラキラした瞳を向ける。


「ダーリンさん、猫人族の赤ちゃんって、とっても可愛らしいそうですね。是非私に、抱っこさせて下さいませ」


 無責任に盛り上がり続ける領主一家を前に、ダーリンは更なる恐慌をきたすのだが、実は何の事は無い、要する辺境伯一家も、無事に出産が終わるのか心配で堪らないのである。それを紛らわせる為に、こうして盛り上がっているのだった。

 そんな辺境伯一家をたしなめる様に、ひときわ大きな雷鳴が轟く。

 その衝撃に肝を潰し、互いに見つめ合う二つの家族だったが、次に響いた二つの元気な産声を耳にすると、張りつめていた心を弛緩させ、抱き合って笑い合うのだった。


「おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「おめでとう」

「おめでとう」



 鈍い金属音を響かせて、分娩室の扉が開くと、両家族の緩みきった姿に呆れた医療魔導師長メリッサが、叱りつける様に声をかけた。


「何やってんだ、あんた達! 出産は無事終わったよ! さっさと入って来な!」


 二つの家族は、雲を踏む様な足取りで、メリッサの後に続いて分娩室の中に入って行った。


 分娩室の中で彼等が見たものは、憔悴しながらも誇らしげな笑みをたたえる女性が二人と、産湯を終えてベビーベッドの中で、元気な産声を上げているヒト族の男の子と、猫人族の女の子だった。

 並んで産声を上げる二人は、しっかりと手を繋いでいた。


 喜びの表情を浮かべ、しっかりと握手する二人の父親に、メリッサはぶっきらぼうな口調で話しかける。


「少しばかり難産だったけど、五体満足、母子共に異常無し。見てごらんよ、元気な赤ちゃんだ……」


 メリッサの言葉に感極まり、父親になったダーリンが涙を流す、その肩をカーレイが抱いてポンポンと叩く。

 その姿を見たメリッサは、語気を荒らげて言葉を続ける。


「喜ぶのはまだ早いよ! 」


 その剣幕に驚いて顔を上げた二人の父親の目を、メリッサは鋭い目で見つめる。


「どうやらこの子達は、サンサーラの入り口で、落としきれなかった大きなカルマがある様だ。ご覧」


 メリッサが二人の赤子に手をかざすと、それぞれの額に大きな聖痕スティグマが浮かび上がる。


「おばば様、この聖痕は……」


 震える声で尋ねるカーレイに、メリッサが大きく頷いて答える。


「うむ、儂も長年産婆をやってきたが、こんな大きな聖痕は初めてじゃ」

「不吉な事なのでしょうか!?」


 必死な表情で尋ねるダーリンに、難しい表情でメリッサが答える。


「そうとも言えるし、そうではないとも言える」


 真剣な表情で聞き入る二つの家族に、メリッサは諭す様に話を続ける。


「よくお聞き、坊の方には激しい怒り、そして深い悲しみが聖痕として刻まれておる。一方嬢には身を焦がす程の罪の意識が聖痕として刻まれておる。これが顕現すれば、世を暗黒で満たすやも知れぬ。」

「そんな……」

「何て事だ……」


 揃って頭を抱える二人の父親の肩に、メリッサはそっと手を添える。


「そなた等二人の元に産まれた小さい命は、実に危ういカルマを背負っておる。しかし、絶望するにはまだ早い、なぜなら……」

「この子達を救う方法があるのですか!? お婆様! 」

「どんな事でも致します! 是非お教え下さい! 」


 必死に訴えかける二人の父親に、メリッサは静かに伝える。


「愛じゃ、この二人には、不吉な聖痕をものともしない、大きな愛もまた聖痕として刻まれておる。そなた等はこの子達に正しく愛を注ぎ込むのじゃ、さすれば不吉な聖痕すらも、正しい力に変える事が出来るじゃろう。」


 二つの家族の顔に、希望の色が浮かび上がる、その顔を慈しむ様に見回す。


「これは簡単ではあるが、実は難しい事でもある。親の愛とは、ともすればエゴになりかねない、支配になりかねない、くれぐれも愛という物を、履き違えてはならぬぞ」


 厳かに締めくくられたメリッサの言葉に、二つの家族は深く頭を垂れる。


「はい、私達は親として、家族として、この子達に出来る限りの愛情を注ぐ事を誓います。何が正しい愛であるかを常に学び、決してエゴの押し付けにならぬ様に自制する事を誓います」


 一同を代表してカーレイが誓いの言葉を述べる。

 それを聞き取ったメリッサは、莞爾として微笑みながら頷いた。


「うむ、確かに聞き取った。お主達ならば、きっとこと子達を立派に育て上げる事だろう。では、祝福するが良い」


 メリッサがそう言うと、まずカーレイの長男、ウィリバルトが歩み出る。

 二人の赤子に両手を掲げ、祝福の言葉を捧げた。


「私はこの子達に、勇気を贈ります。どんな困難にも臆せず立ち向かう鋼の勇気を。鋼の神よ、私の願いを叶たまえ」


 次にヨッヘンリントが歩み出て、兄と同じく両手を掲げる。


「私はこの子達に、知恵を贈ります。どんな困難に直面しても、諦めずに前進する為に、泉の様に湧き出る知恵を。泉の神よ、私の願いを叶たまえ」


 そしてアルドンサとダルシネアの双子の姉妹が歩み出る。


「私達はこの子達に、機転を贈ります。どんな困難も喜びに変え、笑って乗り越えらる様に、光が生み出す影の様に形を変える機転を。光と影の神よ、私達の願いを叶たまえ」


 続いてダーリンが歩み出た、愛おしそうに初めての娘を見つめ、次にカーレイの息子に膝を着き、頭を下げる。


「私はこの子達に、健やかさを贈ります。真っ直ぐに天に向って伸びる霊木の様に、健やかな成長を望みます。霊木の神よ、私の願いを叶たまえ」


 最後の締めくくりに、カーレイが歩み出て、二人の赤子を慈しむ様に見下ろして両手を掲げる。


「私はこの子達に、力を贈ります。ここに集いし全ての者の贈りし願いを支える為、大地の様な力を。大地の神よ、私の願いを叶たまえ」


 カーレイの祝福の言葉が終わると、皆が掲げた手のひらから、柔らかい光が発せられ、二人の赤子を優しく包み込む。

 一同の愛情が詰まった光に全身を包まれ、二人の赤子が気持ちよさそうな笑い声を上げた瞬間である。


 !!!!!!


 突然青白い光が分娩室の窓から射し込む、それに続いて建物を揺るがす激しい轟音が鳴り響いた。

 この特大の霹靂が、瑞兆であるのか凶兆であるのか、この場の誰もがそれを知る由も無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る