第127話 ハイボール封じ
この芝の状態だったら、フランのドリブルも抑えられると考えていた。
……甘かった。
フランは選手寮に暮らし管理栄養士の作った献立の食事を頬張り、以前より
「薙刀! フランにマンマーク。恋人を殺した仇敵だと思って食らいつけ!」
薙刀は唇をぎゅっと噛む。
恋人なんていたことないんですけど!
「それにしても横浜は楽しそうにプレーしますね」
おっさんFが資料に目を通しながら言う。
「どうなんでしょうね、ああやって笑顔でプレーを続けるのは……」
おっさんGも苦笑い。
「相手チームはやりにくいでしょうねえ。
それにしてもランスがよく効いています。横浜の起点を潰し、ビルドアップさせません。東京ボールになると前線に飛び出して、迫力ある攻撃を仕掛けます。
ところで、いや……どうも、芝がかなり深いようですね。ボールが止まりがちになります。横浜のパスワークもスムーズじゃない」
「そうですね、見た目にも芝にムラがあるように見えます。
さて、ボールは銀将が引き取ります。そのままドリブル。ショーテルと1対1、ボールをまたいで、かわした! そしてクロス、だが合いません。
銀将ですが、生まれつき右足と左足の長さが異なり昔は運動に苦手意識もあったようです。しかし、小学校の体育でサッカーに触れ、それからサッカーにのめり込んだとか」
ボールを奪われると横浜は下がらず前線からプレス。東京はそこからふんわりとしたロングボールを蹴った。
この試合、幾度となくハルバードとオー・ド・ヴィの空中戦が見られた。ハルバードは高さで圧倒しており、競り勝ってボールを味方に落とせば東京も休むことができた。
「ガッチガチだね。ぱりぱり堅いわ」
辰砂は苦笑いしながら続ける。
「それでいてDFラインは高く保つ。コンパクトな2ラインを
「東京が狙うは
銀将が諭す。
ヴァッフェにガツガツ当たられ、エレメントは何回か
ククリはタックルが苦手だった。
紅白戦ではランスにぶっ飛ばされ、フランになぎ倒された。でも、今日は逃げるわけにはいかない。
いやだよ~。
ククリはえいやっと金閣寺に斬りつけた。金閣寺はよろめき、尻餅をつく。
あ。
取れた。
ククリはボールを長く蹴り出し駆け出した。今、目の前に敵はいない。
と思ったらオー・ド・ヴィがすごい勢いで追いかけてきた。この芝だからドリブル突破は難しい。中の二人にはマークがついている。
「鷹!」
「とんび!」
ククリが丁寧に上げたアーリークロスはゆるやかに伸びた。
これは全力で蹴ると枠行かない奴だな。カットラスは歩幅に気をつけながら
ボールはクラウンエーテルに渡った。独鈷杵がチェック。クラウンエーテルはあさっての方を向いて上がってきたSBシロガネーゼに横パス。
ディフェンダーは、ボール
しかし
ヴェンティラトゥールがボールを受けようと右サイドをダッシュで下りてきた。マン・ゴーシュも追う。と、ヴェンティラトゥールは急に止まったかと思うとしなやかに身を翻し前に走り出した。マン・ゴーシュも慌てて反転するがヴェンティラトゥールのスピードに引き離される。
ここではありませんの?
すかさずシロガネーゼはスルーパスを送る。
いいパスだ。ヴェンティラトゥールは中に進路を取った。しかしボールは急に減速し止まってしまった。ついてきていたマン・ゴーシュが回収。
「芝か」
ヴェンティラトゥールは苦笑いしながら首を横に振った。
ヴァッフェはエレメントがチェックに来ると勝負せず、フリーの選手を探してそこからロングボールを蹴った。勝負するのは
徐々にエレメントから笑顔が消えた。ハルバードもなかなかうまい選手でオー・ド・ヴィも苦戦を強いられる。
こんな情報なかったぞ。クソが!
ボールはハルバードの前に落ちる。着地したハルバードはオー・ド・ヴィに背中を預けた。尻でオー・ド・ヴィを押し込む。
次にハルバードはさり
ソリッドが懸命に伸ばした右手はかろうじてシュートを止めた。
「このままではやられる」
クラウンエーテルがつぶやいた。
「オーケー。ぱりぱりアグレッシブに行こうよ」
マゼンタに染めた髪を撫で、辰砂は楽しそうに答えた。
セットプレーも厄介だった。ショーテルのキックは縦にも横にもよく曲げる技術があった。なんとかフランがハルバードに食らいついてゴールキックにする。
辰砂が合図を送る。
ティンベーのキックはよく伸びて前線のランスに届いた。ランスは一旦バックパス。錫杖が顔を上げると、フランが猛然と追ってきた。横パス。スタッフの所には銀将が詰めた。マン・ゴーシュへ。ヴェンティラトゥールが突っかけてきた。マン・ゴーシュの顔が歪む。パスコースが見つからない。
「前から来てますね」
小野がつぶやく。
剣は横浜の陣形を把握しようと努めた。「4-2-2-2……。いや、ほとんど4-2-4のように見える」
「マンツーマンに来てますね」
それはうちが後半にやりたかったことなんだよなあ。
ティンベーに何度もバックパスが来た。するとフランが追いかけてくる。精度のないキックを打ち上げる。
「ボールの供給元を
剣はピッチサイドに出た。
攻撃の人数より守備の人数を増やして対応するのが守備のセオリーだ。同数だと一人のミスがそのまま失点につながってしまう。カバーリングできるように余裕を持たせる。
ボールを止める時間さえ与えられない。
しかし全員にプレスが来るようでは逃げのショートパスも必要になった。そして。
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