第115話 そして、眼を開くまで ②
ボールはGKの目の前でバウンドし、ゴールマウスに吸い込まれた。
「うむ。撫子りいぐとて、さっかあには変わらぬ」
刀はゆっくりとうなづく。
「いけるじゃん!」
ショーテルが駆け寄る。
「勝てるね。今までやってきたことは間違いじゃなかった」
ククリは楽しそうに笑った。
自分たちのサッカーってなんなんだろう。
手裏剣は思うことがある。
剣が
どういうことか。
つまり自分たちがヘタクソだから剣がやりたいことを我慢しているのだ。と、手裏剣は考えている。現実に即したのだ。
うまくなって剣が望むサッカーをさせてあげたい。
やっぱり、変だ。
ボールを受けた
東京は浜松が攻めてくるのを待っていた。ただ、左右非対称な陣形で特に右SBショーテルは中途半端に高い位置に浮き、2人のIHは縦に並んでいる。穴だらけに見えた。
CF三味線は守備の手薄な左サイドに移動。
早く追いつきたい。IHクラリネットはCF三味線に縦パス。それと同時に独鈷杵が駆け出した。
「だからサァ! 狙われてるんだってば!」
ギターが
突然ランスが駆けた。
花びらが開くように、ヴァッフェは両サイドに散ってセンターラインを開ける。そこにランスが飛び込む。ボールを受けると三味線を
ランス・チャージ。
追いすがるギターは吹き飛ばされる。尺八も当たり負けた。ランスはゴリゴリとドリブルで進軍する。浜松はゴール前で数的不利を作られた。ランスはグラディウスにパス。ワンタッチで
油断がなかった、と言えば嘘になる。
「フフ
バイオリンはニヤニヤ笑う。
「今日のレフェリー、あんまりファール取らないね。ガツンといってみようか」
と、ギター。スパイラルパーマを当てたショートヘアの毛先をいじる。髪の色も真っ赤だ。
「まあこわい」
ピアノは苦笑した。
「ありゃりゃ~ん。こいつは負けですな~」
おかっぱの女が呆然とため息をつく。三味線だ。
「まったく歯が立ちませんわん」
モーニングスターに寄りかかった。モーニングスターはそっけなく三味線を押しやった。
「まあ、つれないお人だこと」
浜松は反撃に出た。東京がタックルに行くと肘や膝を突き出して抵抗。
バイオリンは右サイドから侵入を試みる。マン・ゴーシュをにらみつけ、激しく突破を試みる。
「かわいくない」
「あなたは可愛い
マン・ゴーシュの足が一瞬止まった。バイオリンは体を丸めるようにしてドリブル。不意を突かれたマン・ゴーシュは足をねじ込むが、態勢不十分、
「集中!」
ハルバードが一喝。マン・ゴーシュはハルバードに頭を下げた。
少し、浜松のパス回しは慎重になった。それに対応して東京ももう簡単には罠に引っかからないと判断して平凡な守備陣形に戻した。
「なんか、変だ」
剣はベンチでつぶやく。
少しずつ、押され始めている。1対1での勝率が下がりっぱなし。
技術では劣っていない。体格だって負けてない。
「あっ……」
剣は息を呑む。クラリネットのスパイクがグラディウスのふくらはぎを踏んづけた。何かがちぎれる音がした。雲母が駆け出す。
審判はイエローカードを掲げた。
「今、見てました? 意図なものじゃないです。この人が急に動いたから当たっちゃっただけで私のせいじゃないです!」
クラリネットは両手を自分の背中に回して激しく主審に抗議する。
もしダメだったら……。攻撃的に行くなら手裏剣、守備的に行くならトマホークだ。2点リードしてるが……。
剣は手裏剣と過ごした日々を思った。そうだ、手裏剣のが俺の考えを理解している。
「手裏剣、アップしろ」
雲母はベンチに×のサインを出した。剣は第4審判に交代を告げる。小野が交代用紙に手裏剣の名を書き込む。
「あーあ、壊しちゃった」
ギターが薄笑いを含んで刀に話しかける。
「でも、まだカードもらったのクラちゃんだけだしね」
と、ギターは続ける。刀はまったく表情を変えない。
ティンベーは頭を振った。
浜松からはいろいろな音が聞こえてくる。でもバラバラでしかも音が狂っている。頭がおかしくなりそうだった。
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