第97話 遭遇
つまり、フランは俺のせいだと言いたいんだろう。
ああ、その通りだ。
だったら、俺は。
フランは急に俺から離れた。
フランはクラッシュデニムパンツに透け感のあるシフォンブラウスを合わせていた。
「何これ」
家の至る所に広げてあるスケベえな本を見下ろして言う。
「最近うちに猫が来るんだ。猫よけだな」
フランは変な顔をした。
「猫ちゃん」
フランはカーテン裏に潜んでいた三浦を触ろうとしたが三浦は怖がって逃げてしまった。ざまあ。そして俺に向き直る。
「みんなのマッサージしてるんだって?」
「人手不足なんだ」
「わたくしにも。してよ」
フランはジーンズに手を掛けた。
「脱ぐなよ」
「しっかり診てよ」
おずおずと脱いでいく。
剣は息を呑んだ。
一目で判るぐらい、右足が腫れている。そして両脚には無数の傷が見て取れた。
「右足をかばっているうちに、負担を掛けて他にも色々痛いところができちゃって。その分も運動量でカバーしようとしてたらね。ダメになっちゃった」
「傷は?」
「なかなかファール取ってもらえないんだもん。仕方ないわ」
映像で観ると一部リーグでもフランの体は大きく見えた。タックルを受けても
「最近、判ったことがあるの」そして彼女は、膝立ちで俺に忍び寄る。「剣はね、わたくしがヴァッフェを出るように
なんだそりゃ。
フランは俺に抱きついた。俺に彼女をはねのける権利はない。フランは俺に頬ずりする。
「わたくしのこと、そんなに大事にしなくていいわ。思うように、していいのよ」
体に力が入らなくなる。
違うんだよ。違うんだ。
気が触れそうだった。
チャイムが鳴った。午後七時。よろよろと剣は立ち上がる。
玄関を開ける。
「遊びに来ましたワン!」
手と足に、肉球のついた靴下。頭に垂れ耳をつけて、弓はぴょんぴょん飛び跳ねる。
「どういうことだ……」
「犬恐怖症を克服するために、弓が犬になったワン! 可愛がってくださいワン!」
「猫じゃないじゃない」
弓は凍り付いた。
パンツ姿の、フランが奥から現れたからだ。
「お前もだよ。一人暮らしの男の部屋に上がり込むもんじゃない。ひどい目に遭うかもしれないぞ。男はいつ狼になるか判らないからな」
犬が嫌いだと、狼にもならないのかもしれない。エロ本を片付けながら弓はそんなことを考えた。
とりあえずフランにズボンを履かせ、二人を退屈にさせて帰そうと剣はコンフェデレーションズカップを見始めた。弓が持参した食べ物をつつきながら二人が何か話している。
フランは目を見張った。
剣の猫が、弓に心を許している。自分が近づくと逃げるのに。
弓は、おそらく何度もここに来ている。
家が近ければ、わたくしだってもっと頻繁に来るのにな。
今回のコンフェデの目玉がVARだ。微妙な判定になるとビデオでリプレイを再生し、慎重に判定を行うというもの。
ただし、その度に試合が止まってテンポが悪くなるのでVARが活躍する機会は多くはない。得点が決まると
問題点は、ゴールが決まっても確信が持てない微妙なゴールだと選手達が半信半疑のまま笑顔を作っているので選手もファンも心から
VARが普及すれば審判買収も困難になり、サッカーはより健全になる。
そしてオーストラリアは世代交代を進捗させ、秋よりも手強くなっているのも見て取れた。
「もう遅い、帰れ」
二人は顔を見合わせる。
「弓ちゃんさ、わたくしがここに来たことナイショにしておいて」
「うん。フランちゃんもワン」
「ああ、もちろん」
二人は、剣のマンションを出た。
今日は眠れないかもしれない。
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