第70話 沙羅双樹の花の色 ③
動き過ぎないこと。周りが動いているときには止まり、周りが止まっているときに動くんだ。
意味は解らぬ。
ただ、この言葉の通り、動いてみせよう。
鎖鎌のドリブルを止めるのは簡単だった。不意に飛び出してくるのを
いいプレゼンターだ。
沙羅双樹がフリーになろうと下りてくる。結局彼女にボールが来るだろうと罠を張っていたククリが首尾良く沙羅双樹の鼻先でパスカット。モーニングスターに繋ぐ。
某はこの場を動かぬが良い。
刀は、そうしてプランツ守備陣を観察していた。
パスに備えてディフェンスラインが下がる。モーニングスターは体を張ってわざと芹のタックルを受け止めると反転し、起点になるのが上手い弓にボールを渡す。ブロックプレーだ。
弓は顔を上げた。
プランツ
ここだ。
動け。 どこに?
わからぬ。だが、
走れ。
弓はフリーの刀が前に走り出したのを目に
体は勝手に動き出した。ふんわり、浮き球、スルーパス。
信じられないものを見た。
聞いてない。
「刀は、存在を忘れていい。オブジェに過ぎないから」と、監督は言った。鎖鎌の先取点は予想外だったが突撃してくるだけの存在だとわかりもうすっかりお得意様だ。
もう、フランベルジュのいないヴァッフェは怖くない、はず。
刀は事実前半はピッチを
刀はボールを自分の前に落とすと、ゴールに蹴り込んだ。
笛が鳴る。
全員が一斉に同じ方向を向く。線審が旗を上げていた。
偶然、か?
動くはずのないものが、動いた。
ポルターガイストでも見たような感覚。
オフサイドのフリーキックを蹴ろうとして独活は第4審判がボードを掲げているのに気付いた。選手交代だ。
「マジかよ。ふざけんなよ」
鎖鎌が叫んでいる。
「ほら早く出てけ!」
カットラスが逃げ回る鎖鎌を追いかけ回す。主審がイエローカードを掲げるが鎖鎌は持ち前のスピードを活かし捕まらない。
「イエローがレッドになる前に外に出せ!」
エロスは白い息を吐き出す。
最終的に十一人総出の鬼ごっこに相成った。モーニングスターが引きずるようにして鎖鎌をエロスに預ける。
代わりに手裏剣が入った。
残り時間、走りきる。
手裏剣は持ち前のクイックネスを発揮し、ボールを追いかけ回す。
それを見て、周りの選手も呼応した。
そうだ。今度はうちがやりかえす番だ。
目の色が変わる。ガツガツと肉弾戦を挑む。モーニングスターは息を吹き返し、退場覚悟で膝を当てていく。
沙羅双樹がボールを受けるスペースがない。ボール回しに余裕がなくなる。やがてヴァッフェにこぼれた。
弓はバイタルエリアにあったスペースに飛び出すと前線を確認した。刀と目が合う。そして、希望通りのタイミングで弓にパスが来た。
手裏剣は左サイドから斜めに走り込む。CBがそこに応対する。独活は迷ったが、待機したほうがいいと判断した。手裏剣の動きと刀を両方ケアするべきだ。左
弓は前を向く。
どんなパスぁ。どんな強さぁ。
コーチ、どうしようぁ?
弓は不意に、エロスの言葉を思い出した。
「受け手が走り出すのを確認してからではもう遅い。受け手がどう動いているかを考えてパスするよりも、敵DFがギリギリ取れないパスを考えた方がいいかもしれない。そのパスを取れなかったら、受け手が悪いんだ。そう考えろ」
敵DFがギリギリ取れないパスぁ。
ボールの下に足を差し込んで、
走ってぁ!
周りが動いているときには止まり、周りが止まっているときに動くんだ。
独活が動きを止めたのを見て刀は一歩目を踏み出す。二歩、三歩、速度は増した。独活は刀に対応。しかし刀は振り切る。弓からボールが送られる。独活は跳躍した。わずかに、とどかない。
キーパーが飛び出す。ボールは落ち、バウンドした。刀はボールの左側に回り込んで左足を強く踏み込み、反時計回りに回転。
某の武器は、これじゃ。
右足一閃。ボールはキーパーの手の下で地面と
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