第52話 クラシコ①

「だが、こうも言える。

 

 相手チームからすると、メッシというもしかしたら史上最高の選手は常に意識しておかねばならない。ボールを持っているのが味方であってもだ。ボールを取られたとき、メッシの力が発揮できないように備えておく必要がある。

 だとしたらメッシが守備をしなくても、敵は攻撃に投入すべき選手をメッシのケアにてるため、あるべき攻撃力を発揮できない。また、メッシの攻撃力に対応するために疲弊する。


 だとしたら、メッシは攻撃に専念することがチームに貢献する最適解だ。そもそもメッシは体が小さく、タックルは苦手だ。


 ロナウドもまあ、そもそも守備は得意でないように見える。ロナウドはセットプレーの守備時に十分貢献しているけれど」


 基本的にテニスは個人競技だ。フランはエロスが集団競技の考察を行うことに内心驚いていた。まるで協調性の無さそうな男で、無神経に見えるが、案外繊細なのかもしれない。


「代理人は選手に告げる。


『チームに一生の忠誠を誓っても何もいいことはない。いつ出て行くか判らない、ぐらいの事を常に口うるさく乱暴に言っておくべきだ。君は絶対必要な戦力なのだから。そうすれば君を手放さぬよう、君はたくさんの給料を受け取ることができる』

 そうしたら代理人も応じた手数料を受け取れる。


 C・ロナウドとメッシの価値は他に比す者がいないほど高い。

 いや。

 おかげさまでその二人はうんざりするほど比較対照されてきた。

 おそらくこのスペイン二大メガクラブに君臨する二人の王様は傲慢ごうまんだ。

 でもそれは仕方ないことだ。誰よりも高い所に座っているから。二人の個人的方針は最大限に尊重され、それはもしかしたら監督の理想を超えている。

 仕方ないのだ。膨れあがった選手の激情をぎょし、振りかざした鞭をこらえ、周囲との折り合いを付けるのも監督の仕事だ。ロナウドに鞭打ったファーガソンはロナウドとの確執に悩み、彼との不和と摩擦の末、放出。モウリーニョは最終的に選手大多数との軋轢あつれきを生んで、マドリードを離れることになった。


 現在レアルの監督ジダンは華やかな経歴を持ち、さしものロナウドも何らかの敬意を抱くだろう。監督の経歴は選手に大きな影響を与える。思慮深く、口撃することもない。レアルに格式と気品を添える、理想的な監督だ。……正直に言って羨ましい。

 


 俺はバルサが好きだ。それはおそらく日本人だからだ。日本人の嗜好や美意識に合ったサッカーだと思う。

 だが、選手獲得に失敗し、正直に言って今はレアルマドリードの方が強いだろう。

 レアル所属のモドリッチはエレガントな技術と大変高い知性を持ち、世界最高のIHインサイドハーフ。バルサのサッカーにフィットするに違いない選手だ。モドリッチ自身もバルサのサッカーに魅力を感じていたのだろう。2008年夏にバルサに売り込みを掛けている。


 現在、最も資金力があるのはイングランドプレミアリーグ。中でもアーセナルは若手発掘が大好きなビッグクラブだ。バルサも右SBダニエウアウベスの穴を埋めきれず、現在リーグでレアルの後塵を拝しているが、2011年に快足右SBベジェリンをアーセナルに引き抜かれたのは今から見ると痛恨だった。だが高い給料と出場機会をちらつかされたら、十代の若者の心がぐらつくのは仕方ないことだ」

 フランは焦点の合わない目でゆっくりとまばたきをした。


「もっと前にはセスク・ファブレガスもアーセナルに奪われていたな。バルサに帰還したのは既にプレミアの激しいフットボールでボロボロになってからだった。今のエジルを見てもバルサは過去に戻りたいだろう。明確に獲るチャンスはあったのだから。


 バルサのガンはスター選手を多数かかえるが故の人件費だ。収入に対し70%を超える人件費が給料を上げにくく、また補強を困難にしている。とにかく収入を上げたいバルサは胸に楽天の文字を刻む契約を結ぶ。


 今夏補強した選手は微妙だ。ディーニュは可能性の片鱗を見せている。ユムティティは非凡。だがアルカセル、アンドレ・ゴメス、デニス・スアレスは現状バルサレベルとはとても言えない。ガチャゲーと違い引いた瞬間にSSRと表示されるわけじゃないのが現実の難しいところだな。全員22歳ぐらいなので各自成長の余地はあるだろうが。


 先日、カンプ・ノウでクラシコがあった。前半はレアルがバルサ陣地に分け入って暴れまくり、攻められると大人しくリトリートに回った。以前、エレメント戦で俺が採ったフォアチェックとリトリートの併用だ。やはり後半は疲れが出てレアルの中盤に大きな穴が空いた。クロード・マケレレの再来であるカゼミロの不在が痛かった。ピボーテ中盤の底にはモドリッチが任され奮闘はしていたがその分、攻めにバリエーションが出なくなった。


 レアルがこれだけリトリートを強要されるチームはバルサぐらいのものだ。レアルはベイルがいなかったのも痛かった。ベイルとロナウドという重戦車が両翼から攻め上がる形はDFからすれば悪夢だ。この試合はバルサが勝たなければいけない試合だった。

 だが、今のバルサは中盤に華を欠く。後半、イニエスタが投入されるまでの攻めは満腹の虎が狩りをしているようだった。

 

 この試合、何度もボックス内で手にボールが当たっている。俺はリーガはもっとハンドに厳格であるべきだと思う。その点ではセリエの判断基準が優れている。特にセリエのDFは相手がボールを蹴るチャンスがあるときは手を背中に隠すことが多い。手にボールをぶつけられたら、大体PKになるからだ。DFにとって手でバランスが取れないのは動きにくくやりづらいだろうが、別に構わないことだと思う。DFがかせを負い失点が多少増えたところでサッカーはそう変質することはないだろう。むしろ問題なのは手に当たっているにも関わらず主審の裁量でハンドになったりならなかったりすることだ。


 観客はイライラして非常にフラストレーションが溜まる。極論を言ってしまえば、手に当たったら全部ハンドでも構わないと思う。主審の味つけでゲームが決まってしまうのはいいことではない。DFは手を隠すべきなのだ。


 前にCLバルサ対インテル戦の話をしたな? あの試合、バルサのゴールがハンドの判定で取り消された。セイドゥ・ケイタは手を自分の胴体に付けていた。そこにボールが当たった。にもかかわらずハンドの裁定は下された。あれが取られるなら、もう全部ハンドにすべきだ。

 審判の権力が強すぎるのは審判買収の温床にもなりかねない」


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