第21話 香川真司論
「タイ戦はご覧になりました?」
フランはいつも俺にお小言をくらわせる癖にこうやって済ました顔で感想を求める。なんて図々しい奴だ。
「ああ。寝そうになる試合だった。三浦がいなきゃ寝てたな」
「三浦?」
「なんでもない。まあ、
この二戦は長友の不在が響いたな。彼のスピードがあればUAE戦も勝っていたと思う。俺の中では日本で最も優れたフットボーラーが長友だ」
「長友も含め、欧州組は大多数が苦戦しています」
「まず留意すべきなのは日本人の立ち位置だ。欧州クラブは可能であれば日本人を獲得し、活躍させたい。どうしてか解るか?」
「解りません」
「日本の金が欲しいんだ。まあサッカーに限らんがね。日本企業のスポンサー料、日本人選手の名が刻まれたユニホーム、日本人観戦客が落とす金、高くふっかけても払ってくれる放映料……。実に有益だ。結果、日本人は実力より高いレベルのクラブに行ってしまいやすい」
フランは小さくため息をついた。
「どうして香川は代表で活躍できないのでしょう?」
「香川は日本人の特徴を際立たせ具現化したような選手だ。高いテクニックを持ち、視野が広く、敏捷性があり、体は小さく、外国語が苦手。
もしかしたら
俺に促されてフランと手裏剣が腰掛ける。
「香川の性質を示唆したものとして南アフリカW杯日本代表監督岡田武史の言葉がある。
『彼は自由を与えないと輝けないが自由に活かす余裕がチームになかった』」
「自由……」
「自由とはどういう意味か。二つの可能性があると思う。前者は攻撃面での自由。香川は一つ所に
そしておそらくこちらが本命なのだが、後者は守備面での自由だ。香川はフィジカルコンタクトに弱い。そして体の大きな選手がドリブルして来るとタックルに行かない。行くときは相手の背後からぐらいだ。何度かケガをしたことで臆病になってしまったのだろう。
香川はビッグマッチになるとベンチ行きになることが多い。どうして、だ?」
「コーチは本当に意地が悪いですね。品性下劣な人間です」
どうやら皮肉でも冗談でもなかったし、フランの言葉の抑揚には一部の緩みもなかった。そして彼女の顔はどんな感情も有してはいなかった。ああ、そうかい。
「香川は料理人だ。猟師ではない。他人が狩った
香川がドイツに渡った2010~2012シーズンのドルトムントはドイツではバイエルンと肩を並べるほど強いチームだった。ほとんどの試合でハーフコートゲームになった。ドルトムントがやたら強いので対戦チームがリトリートせざるを得ない。そしてずっとドルトムントの攻撃が続く。そうなると
「crycrycry! 真っ暗! まっく~らあ! 暗い暗い暗い! Don't Cry!」
外で誰かが叫んでいる。おそらくスタッフだろう。
「光がないと影はできない。香川のようなシャドウストライカーは、太陽のように輝く強いチームでこそ活きる。めざとく影を見つけて飛び込み、決定的な仕事をする。しかし強豪相手となると獲物はなかなか捕まらない。日本がW杯で対戦する国はどこもかしこも強豪だ。となればやはり同様。光はないから影もない。侵入しても
今、言っても
残念ながら日本にはトップ下信仰がある。『トップ下、攻撃を取り仕切る! かっこいい!』みたいなね。そんな日本人の精神性が香川に影響を与えているかもしれない。
余談だが、一説によると日本人がトップ下信仰になったのはキャプテン翼の影響もあると言われている。これを反省し作者の高橋陽一は破天荒な
「手裏剣ちゃん。顔色悪いよ?」
そういえばさっきっから手裏剣がずっとおとなしい。
「そう……かな」
「ドイツ人は真面目で人種差別は比較的少なく、黄色人種である日本人も受け入れられやすい。組織力を求められること、ファールに厳格なこともフィジカルに弱点を持つ日本人にとってはプラスだ。迷ったら日本人は
「本田圭佑はどうですか?」
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