第14話 ランス・チャージ
「レイピア。クリス。準備しとけ」
ドギョン!
レイピアはベンチを激しく打った。俺を
試合は停滞していた。ヴァッフェに少しずつ疲労の色がにじむ。
「お嬢様がお立ち遊ばされましたぞ! しゅーごう!」
観客席が騒がしい。
三銃士みたいなコスプレをした幅広い年齢層の男女が学校のクラスをつくれるほど湧いてきて整列したかと思うと、どこかで聞いたことのある歌を朗々と歌い出した。
「何の曲だこれは」
「わたくしの祖国の国歌、ラ・マルセイエーズです……」
フランベルジュは静かに燃えている。
「恥ずかしいから止めなさい!」
レイピアが細い腕をぶんぶん振り回している。
「せ、せめて1コーラスさせてください!」
銃士隊が懇願している。
武器を取れ 市民たちよ
自らの軍を組織せよ
前進しよう 前進しよう!
我らの田畑に、汚れた血を飲み込ませてやるために!
弓の前にボールがこぼれた。
何度も。何度も練習してきた形。歩幅を整えて。勢いをつけて。軸足を安定させて。右足を振り抜いた! しかしミドルシュートは目の前の選手にブロックされる。ルーズボールは手裏剣が回収。相手が詰めてきたのでバックパス。ランスがボールを受けた。
ランスは顔を上げた。つま先に力を込めて一歩目。そして走り出す。
相手FWがボールを奪いに来た。ボールをスペースに蹴り出す。浜松はゴール前を固めており、中盤は手薄、というかがら空きだった。体をぶつけられたが構わず走り続ける。
スピードに乗る。浜松は虚を突かれた。ずっと後ろに控えていたランスの奇襲。誰が自分のマークを放棄してランスを止めるのか、はたして自分が行って止められるのか。守備陣は皆、
いっけえ! エロスは右拳を奮わせた。
ランスは身長百八十センチを超える。加えて強靱な筋肉も持ち合わせていた。慌てて浜松が止めに掛かるが、吹き飛ばされた。
このままじゃまずい!
審判が駆け寄り、立ち上がったブブゼラにイエローカードを提示。
「どうして今のがレッドじゃないんだ!」
俺は憤然として叫んだ。
「ブブゼラを抜いてもまだカバーできるDFは後ろにいました。決定的な場面を阻止しない限りレッドにはなりません」
フランベルジュが淡々と答える。ぐぬぬ。
まったく、サッカーのルールは難しい。
まあ、なかなかいい作戦だったことには間違いがない。参考にしたのはバイエルン時代のルシオだ。
さて。
ボールを手にしたのはショーテルだった。審判が指示した通り、ゴール真正面にセット。キック力のあるランスも隣に控えている。
壁は五人。ショーテルはボールから距離を測りながら慎重に五歩、下がった。
盾なんかじゃあたしは防げない!
ボールに斜めから入ってボールを三十度の角度から、こすりあげるように、蹴る。壁の右上を通過、くわっとボールはゴールマウスをにらんで急激に曲がり落ちる。キーパーはこのシュートは外れたと思い込み、動かなかった。
ゴールネットは、いつも優しくボールを抱き
「練習が、実った」
ナイッシュー!
やわらかな歓喜の花が咲く。
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