第13話 猛攻
四十分が経ち、審判が鋭く笛を吹いた。
前半が終わった。終わってしまった。
足が重い。
「あ、すみません」
くぐもった、アルトの声だった。
浜松のベンチにいたものすごくデカい女と肩がぶつかったのだ。俺はちらりと顔を見て無視して背を向ける。二十代半ばといったところか。監督の他にスタッフがいるなんてうちより恵まれてる。
ドレッシングルームに、選手達が戻ってくる。皆がフランベルジュにちらちら目を
俺は口を開いた。
「ディフェンスラインを上げ、攻めに出る。ショーテル、後半はガンガン上がって前線にクロスを送れ。その分、前線は左にスライドする形で。後ろは3バックでいい。一点取ったらニュートラルに。向こうが攻めてきたら今度はこっちがリトリートだ。それでも崩せなかったら、ランス。頼むぞ」
選手達はこまごまとした話し合いを行った。
「時間です。ピッチに出てください」
めいめいがドレッシングルームを出て行く。
なんか。しっくりこねえなあ。
「コーチさ、どう?」
ショーテルはざっくり、切り出した。
「うーん」ククリは唇を結んだ。そうして。「今まで何もしてなかった。ほんと最近だよね。教え始めたの。あのままだったらもう、投書でもしてやろうかと思った」
「変なコーチだなあと思う。今まで習ったどのコーチとも違う。言ってることはシンプル」カットラスも口を開いた。
「何かねぁ。よく生きてこれたなあぁって思うのぁ。守ってあげなきゃぁって思っちゃうぁ」弓も口を挟んだ。
「鼻毛カッター」ティンベーが我慢できずに心境を吐露する。
きっと、皆がエロス排除に傾くに相違ないと信じて疑わなかった刀は慌てた。
「事は急を要する。あやつに指南役を任しめるなど、人食い熊と同衾するようなものじゃ。無能界無能門無能網無能
「まあ、そう事を性急にしなさんな。少しは様子を見ようぜ」モーニングスターはなだめた。
後半。ボールを奪うや、ヴァッフェの選手達はインストルメント陣内に殺到し、
「カウンター警戒!」俺は叫ぶ。
ショーテルが上がったスペースが空いてるぁ。サイドチェンジだけはされないようにしなきゃぁ! 弓はトライアングルに左を向かせないようにワンサイドカットしながらチェックに行く。トライアングルは諦めて縦パスを送った。
右
「かわいくない」
は?
カスタネットの額が引きつった。細かくボールを触りながら、マン・ゴーシュの膝の動きを見る。カカカカカカカカカカ! 幻惑するようにボールをしごいて突如抜きに掛かった。そこにひゅっとマン・ゴーシュの足が伸びてボールをかっさらった。マン・ゴーシュは強くボールを蹴った。
かわいくない?
カスタネットはちらっとマン・ゴーシュを盗み見た。まあ、なんと言うか。低く結んだサイドポニーテール。小さな体。小さな顔にはめ込まれた大きな目。小動物を思わせる、確かに、可愛い子だった。でも、なんであたしがそんなこと言われなきゃならんのだ!
ボールは再びインストルメントへ。しかしヴァッフェの守備陣形は整ってしまった。中盤でボールを回す。
サッカートハ ボールノ狩リト 見ツケタリ
重心を低く、腰をいれて。
モーニングスターは相手をはじき飛ばした。ボールを奪取。ルックアップ。しかし、浜松はリスクを負わなかった。攻めに人数を掛けていない。
なら何度でも殴りつけるまでだぜ? モーニングスターから弓を経由してカットラスへ。
カットラスもクロスを蹴る。撥ね返されても撥ね返されてもヴァッフェは刀にボールを送り続けた。ククリ、カットラス、手裏剣。刀以外のアタッカーはみんな小兵でターゲットにするのは難しい。低いクロスを入れてもこれだけ密集していると容易に止められてしまう。
正直に言えば。カットラスは曇天を仰いで大口で荒く息をする。
刀は線が細すぎる。少し体を当てられただけでバランスを崩しちまう。
フランベルジュだったら。
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