第7話 付け焼き刃だけど
俺が練習場に姿を見せるなりフランベルジュがつかつかと歩み出て口を開いた。
「コーチ。明日、インストルメント浜松と練習試合です。チームのコンセプトやフォーメーションなどをみんなに伝えてください」
「お……おう」
「みんなを集めてくれ」
「では、自分の志望するポジションにそれぞれ集まれ」
大人気のポジションがあった。全体の九割がここに集まった。センターフォワードだ。俺は笑った。
「刀よ。今までどうやってポジションを決めていたんだ?」
「フランベルジュ殿が軍師として
プレイングマネージャーって奴か。ぺらり、資料をめくってフランベルジュの項を眺める。
十四歳!?
フランス出身のフランベルジュはこのチームの最年少の選手だ……。すでに身長は百七十センチを優に超え、四肢にはぴんと張り詰めた筋肉が備わり、油断をすれば俺も吹き飛ばされかねない。
「
は?
むかっとしたが怒って何かいいことがありそうもないのでぐっと押さえ込む。
「誰がお前なんか!」
無理。
「これでは試合にならない。これから基本フォーメーションを決めていくぞ。まずはキーパー。ティンベー」
「うー」
小麦色の肌がまぶしい。
「センターバック。ランス。スタッフ」
「我が輩か」
「
と、スタッフが外套から顔を覗かせて抗議する。
「俺はずっとお前らの練習を観ていた。お前の能力は後ろが適している。上手くはないが背が高い。比較的冷静で空中戦でも優位だろう。アタッカーに対して体をぶつけることで体勢を崩せる。守備にはフィジカルが必要だ」
くるっと振り返る。
「そしてサイドにはスピードが必要。右サイドバック、ショーテル。左サイドバック、マン・ゴーシュ」
「ガヴトンニャル」
「フェゾン ドゥ ノートル ミュ」
エチオピア人にフランス人。……これもうわかんねえな。
「次、センターハーフ。様々な能力が求められる総合職だ。弓、モーニングスター」
「はーいぁ」
「イッヒ ヴェルデ マイン ベステス トゥン」
「トップ下、攻撃を取り仕切る司令塔だな。手裏剣」
「当然!」
「ウイング。何より突破力が求められる。右にククリ。左にカットラス」
「ホ」
「よおし」
「センターフォワード。言わずもがな、シュートを決めるのが仕事だ。刀」
どよめいた。
「……
目の端でフランベルジュを追う。わずかに顔が下がって悄然、立ち尽くす。たなびく煙。火が消える。
「刀。ゴール前に立ってろ。ランス。刀をマーク。スタッフ。俺の前に立て。ティンベーはキーパーだ」
縦に四人が並んだ。ボールを持つ俺の前にスタッフがいる。
「俺はここからアシストになるパスを狙おうと思う。どんなパスを出せばいいだろうか」
皆の視線がくるくる踊る。だが反応はなかった。
こつん。俺がボールを蹴る。慌てて刀がボールを追った。ティンベーがキャッチ。
「これでは攻撃にならない。攻撃にするためには、フリーランニングが必要だ」
ビビビビッ! ビクッとして振り向くとフランベルジュの体から白い火花が出た。
「さっきの場面で、刀が左右どちらかに走る。一瞬でいい、ランスのマークをはずせればいい。そしてその方向に俺がタイミングよくパスを出していれば決定機だ。大事なのは走り出していることだ。パスが出てから反応するのでは遅い。お前らはいつも立ってパスを受けようとしている。味方から最高のパスが来ることをイメージして走り出せ。パスが来なくても諦めるな。何度でもチャレンジするんだ」
一気に話したのでのどが渇いた。ペットボトルに口をつける。
何もかもが手探りだ。
「さて。俺が右にパスを出したとする。しかし刀は左に走り出していた。攻撃失敗。このとき、俺と刀、悪いのはどっちだろう? 手裏剣」
「いや、どっちが悪いとかなくない?」
「月並みな解答だが正解だ。しかしTVでサッカー中継を観ていると、一方的にパスの出し手のせいにするアナウンサーばかりで非常に腹が立つ。あれを子供なんかが聞いて誤解したら大変な損害だ。
笑い事ではない。こんな経験の積み重ねが日本人のサッカー観に影響を与えている。
日本は、サッカー後進国であり続ける。
プレーが止まったら、自分の選んだプレーが正しかったのか反省する癖を付けて欲しい。失敗した選手を映した映像を見ると、選手が悔しがっていることがあるがあれは自分の判断を反省していることがほとんどだ。
パスの出し手と受け手が正しい判断をして同じ絵を描ければ、得点機。
どこにパスを出し、受け手がどこに向かって走るか。練習ですり合わせを行う。実践を想定した練習を始めよう」
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