第6話 スペース 後編

 ミーティングルームは二十名ほどの選手達を呑み込むとおなかいっぱいになった。下級生は壁際に立ち並んでいる。

 剣は二度見した。キャプテンフランベルジュも壁組だ。

 

 俺はホワイトボードに二つ黒と白のおはじきを置いた。ホワイトボードは最初からサッカーのピッチが塗料で描かれている。

「さっき見たとおり、走力さえあればゴールを決めるのは簡単だ。もしさっき、キーパーがいたとしてもフリーの状態ならゴールを決めるのは難しくなかっただろう。


 端的に言えばサッカーは人数が少なくなれば少なくなるほどゴールを決めるのが簡単になるスポーツだということだ。この辺の理屈はバスケだろうがハンドボールだろうがホッケーだろうが変わらんだろう」


 さっきまで枯れ果てていたフランベルジュがシャワーで水気を取り戻し、目を爛々らんらんとさせてよみがえっていた。

「じゃあサッカーは走力が最も重要か。もちろん違う。面倒なことにサッカーは十人の味方と十一人の敵と提携し折衝せっしょうして進めていく」


 俺は白いおはじきを一つ取り出し、少し離れたところに置いた。

ボール保持者ボールホルダーに対し一人がタックルに行き、一人がカバーに入る。カバーとは一人が抜かれたときのために備えておくというものだ。さっきのケースで言えばフランベルジュが俺のボールを取りに来たとき、フランベルジュの後ろに一人、待機しておけば俺はボールを蹴り出せなくなる」


 俺はゴール前に横に四つ、その下に更に横に四つ、おはじきを並べた。

「オーソドックスに4バックだ。守備陣としてゴール前に二枚の壁をく。俺がこれを突破しようとしたとき、一枚目が俺に噛みつく。俺がこんな風にボールを前に蹴り出しても、スペースがなくてどこに蹴ってもボールを取られてしまう。ドリブルで一人抜くのはそう難しいことではないが二人抜くとなると一気に難しくなる。スピードだけではなく、テクニックや駆け引きも必要になるからな」

 俺はサッカーの戦術に関する書籍を読み漁ったが、さっぱり意味が解らなかった。だがその中でたくさん見かける言葉があった。

 

 スペース。


 攻撃ではスペースをつくる。

 守備ではスペースをなくす。


 どうやらこの言葉が、サッカーを読み解く鍵だ。

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