第15話 コドモ

 交番勤務のTさんが、いつも通り夜の巡回をしていた時のこと。

 道の真ん中に、子供が1人ぽつんと座っていた。雨など降っていないのに、その子は赤いレインコートを着て、こちらに背を向けている。


「キミ、こんな時間にどうしたんだい?」


 優しく話しかけてみるが、全く反応がない。


「お父さんとお母さんは?」


 何を聞いても、子供は黙ったままだ。

 Tさんが困っていると、子供はゆっくりと立ち上がった。そして、おぼつかない足取りで歩き始まる。心配だったTさんは、その子の後をついていくことにした。

 すると、どうしたことだろう。角を曲がったところで子供の姿が忽然こつぜんと消え失せたのだ。この道には電柱もなく、隠れられる場所はどこにもない。

 Tさんは狐につままれた気分だった。


* * *

 次の日の夕方。

 Tさんは町の巡回をしていた。学生が帰宅する時間帯は、交通事故や不審者などの危険が多くなるからだ。

 巡回を続けていると、曲がり角の向こうから子供の笑い声が聞こえた。

 しかし、角を曲がると誰もいなかった。

 今まで聞こえていた笑い声は、いつの間にか途絶えていた。


「おかしいな。確かに子供の声が聞こえたんだけど……」


 辺りを見回していると、あることを思い出した。


「そういえば、昨夜あの子が消えたのもこの道だったな」


 赤いレインコートを着た子供の姿が脳裏をよぎる。

 Tさんは、もう一度辺りを観察した。すると、あるものを見つけた。

 それは壁のラクガキだった。手をつないで幸せそうに笑う子供たちの姿が、描かれていた。その中には、あの赤いレインコートを着た子もいる。


「なんだ、さっきの笑い声はキミたちか」


 壁に描かれた子供たちが笑った。


「楽しそうだな。お兄さんも、仲間に入れてくれよ」


 クレヨンで塗られた、無数の黒く濁った眼玉が、Tさんを見て三日月状に細まる。

 その日、子供たちに新しい友達ができた。

 


 

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