第二話 『過去』
次の日の放課後、ネズミは一度家に帰ってからベッドで横になり、熟睡してしまおうかと考えた後、嫌々私服に着替えて待ち合わせの場所に向かうことにした。
家を出て行く時、玄関で初老の女性から話しかけられた。
「あら、幹彦さん……これからどこかへお出掛けかしら」
「ああ、お母さん。ちょっと友達と出掛けてくるよ。夕飯は、多分要らないかな?」
高校生の母親にしてはやや年老いて見える彼女はネズミの母、根津ねづ喜美子きみこだ。
「ひょっとして、女性の方?」
「ええ。まあ、クラスメイトの女の子と」
親子というにはあまりに他人行儀な言葉遣いだが、別に喜美子に含むところはない。根津家においてはごくごく普通な会話だった。
「なら、お金も掛かるでしょう? お小遣いを渡しておくわね」
息子のデートを嬉しそうに喜んだ喜美子は財布から五千円札を一枚取り出して、ネズミに手渡した。
「はい、幹彦さん」
「どうもありがとうね。お母さん、じゃあ行って来るよ」
柔和な笑みを浮かべた彼は一礼して玄関から出る。その笑みが自分自身、ふだん(・・・)と違うことに気付きながら、それをまた偽りで覆い隠した。
一度立ち止まって気分を切り替えると、母親に向けていた笑顔をするりと剥ぎ取り、ネズミは待ち合わせの場所へと歩き出した。
待ち合わせの場所である駅前にはまだいぶきの姿はなく、ネズミはヒトデに似たオブジェに背を預けて、彼女の到着を待つ。
五分くらい待っていると、ようやく待ちかねた相手がやって来るのが見えた。
「お待ちになられましたか?」
「待ったよ。五分も待った。貴重な僕の時間を返して」
実際はそこまで苛立っていなかったが、いぶきに対して気を遣うのが嫌だったためにそう言った。
「そこは嘘でも『僕も今来たところだよ』と言って欲しかったですわ……」
「それ、どこの少女漫画で得た知識?」
「……病院でたまに看護師さんが持って来てくれていた少女漫画ですわ」
やっぱね、と呆れた風に言ってから、いぶきの姿を上から下へ軽く眺めた。
赤いノースリーブのトップスにユーズド風な迷彩柄のハーフパンツを身に着け、全体的に動きやすい格好に決めている。制服ではお嬢様然と映っていたが、こういったラフな格好をすると多少だが、本人が言っていたように野性味が感じられた。
ネズミが服装に注視していることに気付くと、得意げにくるりとその場で回って見せる。
「どうですの? わたくし、似合っていまして?」
「ウェスト細いね。欠食児童みたい」
「失礼極まりないですわ!」
「嘘ウソ。世界一可愛いよ。超ラブリー。もう一生その服着てればいいんじゃない?」
「そんな雑過ぎる褒め殺しをお経のようなトーンで言われても嬉しくありませんわ!」
馬鹿なやり取りにも飽きてきたネズミは単刀直入に彼女にデートの行き先を聞いた。
「で、どこに行くの?」
いぶきはその言葉によくぞ聞いてくれましたとばかりに嬉しそうな表情を浮かべた。それから身に着けていた小さめのポシェットから一枚のチケットを取り出す。
「遊園地のペアチケットですわ。昨日の内に購入しておきましたの」
褒めてくださいとばかりに物欲しげな流し目をするので、やる気のない仕草でいぶきの頭を撫でた。
「いぶきちゃんは偉いなぁ」
「あの、もうあまり贅沢なことは言いませんので、せめてやった後で『これで満足なんだろう?』って目をするの止めてくださいまし」
ネズミのつれない態度にげんなりするいぶきだったが、何かを思い出したようにポシェットを漁り出す。
そして、何かを再び取り出すと、手のひらに乗せてネズミに見せつけた。
「あと一応、この子も連れてきましたわ」
ネズミが渡した灰色の鼠がギラギラとした瞳を向けている。
「段々と愛着も湧いてきたので、『ドブ太郎』と名付けて可愛がってますの」
「知ってるよ。知覚を共有してるって言ったでしょ?」
ちなみにいぶきがドブ太郎に、どんな格好がデートに向いているのかやどこに行けば男子は楽しめるのかを相談していたことも知っていた。
もっとも、それをあえて口に出すほどネズミは野暮な人間ではなかったので言及はしなかった。
「それにしてもドブ太郎って、どうなのさ」
「溝鼠の男の子だからドブ太郎なのですけれど……おかしいかったですかしら?」
持っている手と逆の手でドブ太郎の首の後ろを摘まんで持ち上げると、下半身が露わになり、毛皮の下に小さな突起物が見えた。
ドブ太郎は暴れることもなくいぶきにされるがまま、やや間抜けにネズミの顔を見ている。
「受肉能力で生み出された生き物にも性別がありますのね。ちょっとびっくりしましたわ」
「女の子として、その反応はどうなの? ……まあ、受肉した存在は完全に生物でもあるからね。生殖能力だってちゃんとあるよ」
なぜ、クラスメイトの女子と鼠の生殖器について語り合わねばならないのだろうかと悲しくはあったが、根が律儀な彼はしっかりと答えていた。
これ以上不毛な話を続けるのが苦痛になってきたので、ネズミはいぶきを連れて遊園地へと移動した。
遊園地の入場口に着くとペアチケットを使い、園内に入る。その際、受付の女性に笑顔で彼女とデートですかと尋ねられたが、ネズミは笑顔で違いますと返した。
「酷いですわ、幹彦さん! あそこは『実はそうなんです。僕の彼女、可愛いでしょう?』と返すべき場面ですわ。受付の方、反応に困って固まっておりましたわ」
「実際、お前彼女彼女じゃないでしょ。何怒ってるの?」
いぶきは文句を言うものの、そこまで怒っている訳ではないようなのでネズミもさして相手にしていない。
ネズミは受付でもらったパンフレットを開く。二人が来た遊園地、東京トロピカルサマーランドは名前の通りに真夏をテーマにした遊園地で、マスコットや表に出る従業員は大体、アロハや水着の格好をしている。
パンフレットにもメインマスコットである頂頭部にヤシの木を生やし、サングラスを掛けた猫、『ヤッシーキャット』が所せましと描かれていた。やたらと六つに割れた腹筋がリアルで、長時間眺めていたいとは思えない仕上がりをしている。
CMで見かける度にネズミは内心、このマスコットを考えた人間とそれを採用した人間は心が病んでいたのではないかと本気で思っていた。
「あ、ヤッシーですわね。ヤッシーキャット。この可愛らしいデフォルメされた顔とワイルドな身体付きがアンバランスで何とも言えないマスコットなんですの!」
「…………」
そして、ネズミが一番病んでいると思うは、このマスコットに愛着を覚える人間だった。若干、いぶきの食い付きに引きつつも、彼は最初にどのアトラクションに乗るか尋ねる。
「いぶきはどのアトラクションに行きたい? ……この、紫外線の含まない健康的な真夏の太陽光が三百六十度から浴びられるとかいう、『太陽の館』以外で」
明らかに遊園地には不向きな謎のアトラクションを選択肢から除外させるネズミ。
すると、いぶきは満面の笑みで答える。
「当然、スーパーシャイニングマウンテンですわ!」
「あー、ジェットコースターね」
「ジェットコースターではありません。スーパーシャイニングマウンテンは、スーパーシャイニングマウンテンというアトラクションで……」
「はいはい。じゃあ、行こうか」
熱く語り出されるのが面倒になり、いぶきの手を掴んで引っ張って目的の場所まで連れて行く。
あ、と小さく後ろで呟きが聞こえた気がしたが、ネズミはいぶきが転ばない程度の速さで振り返らず歩いた。
乗り場まで来ると、平日のおかげでメインアトラクションにも関わらず、列も思ったより長くなかった。これならば、さほど待たずに乗ることができそうだ。
「よかったね。これならそんなに並ばずに済むよ」
振り返っていぶきにそう伝えるが、いぶきはネズミに繋がれた手を見つめたまま、ぼうっとしている。
「ひょっとして……照れてるの?」
「……幹彦さん。わたくし、物心付いてからほとんど病院のベッドで過ごしていたんですのよ? 男の子に手を握られたのなんてこれが初めてで」
恥ずかし気に視線を逸らすいぶきに、ネズミは僅かに驚く。
「教卓に飛び乗ってマッスルポーズするようないぶきに恥じらいがあるとはそんな思わなかったよ」
「こ、これでも箱入り娘でしてよ!?」
チンパンジーの雌めす程度に考えていた少女が意外に可愛らしい反応を示してくれたせいか、普段は家ですら本音らしい本音を吐かないネズミもつい思考を口に出してしまう。
「今、初めてお前のことを可愛いと感じたよ」
「え、それはその、からかっていますの? それとも……本気で言ってらっしゃるの?」
もじもじとした仕草で上目遣いをするいぶきに、ネズミは変な雰囲気になりかけていることを察し、話を切り上げた。
「あ、列が動いてる。前に進もう」
「ちょっと! ちゃんと答えてくださいまし!」
不思議な感覚だった。ネズミにとっては他人など己の目的を円滑に進めるための道具にしか過ぎない。彼にあるのは当たり前のように振る舞う理不尽を食い尽くすことだけだった。
クラスどころか校内でも顔の広いネズミには友人など数えきれないほど居るが、本心を語ったことなど一度もない。誰かに理解されたいと思ったことがなかったからだ。
十年余年以上も誰かに寄り添って生きていきたいとは毛ほども思わない。ただ――。
「ふわああ! おおおお! 凄いですわ、これ! ぐるんぐるん回ってますわよ、幹彦さん!」
ジェッドコースターに共に乗り、隣で騒いでいるいぶきを横目で一瞥する。
喜怒哀楽の激しい、変わった少女。ただの目的を果たすためだけに近付いた人間。
ただ、彼女と居ることが嫌ではない自分に気が付いた。生まれて初めて……いや、二度目の感覚だった。
「楽しかったですわね」
ほくほくとした満足げな顔でいぶきはネズミに言う。
一瞬だけ本音を言うべきか悩んだ後、素直な感想を漏らした。
「そう、だね……楽しかったよ」
それはアトラクションにではなく、いぶきと居たことについてなのだが、当然彼女は気付くはずもなく、近くにあったポップコーンの屋台を見つけて指さした。
「あ。あれ食べましょう、あれ」
無邪気に走っていくいぶきの背中に優しげな淡い笑みを零した。
その後、ココナッツジュースを模したコーヒーカップ『ココナッツグラス』や馬の代わりにイルカが設置されたメリーゴーランド『イルカのザブーン』に乗り、それなりに楽しんだ。その際は係員に見られないように注意しながら、ドブ太郎もポシェットから出してあげ、二人と一匹で余すことなくアトラクションを堪能していた。
日も沈みかけた頃、いぶきが観覧車をリクエストしたために二人は園内の中心から少し外れた場所にある大きな観覧車へ向かった。
入口から一番遠い場所にあるせいか、はたまた時刻のせいなのか、あまり人は居なく、並ぶことなく二人は乗ることができた。
「こんなに楽しい日は生まれて初めてでしたわ。ありがとうございます、幹彦さん」
ゴンドラが動き出すと正面に居るいぶきがぺこりとネズミにお辞儀をした。改まったその態度にネズミは座りが悪くなり、誤魔化すように彼女の肩の上にしがみ付くドブ太郎を指さした。
「頭なんて下げるとドブ太郎、落ちるよ」
「そうでしたわ。この子にもお礼を言わないと。ありがとう、ドブ太郎」
――ヂュウ。
返事をするように可愛げのない鳴き声を吐くドブ太郎。その様子にいぶきは微笑んで目を細めた。
それを黙ってじっと眺めていたネズミは口を開いた。
「で、今日は何で僕を遊園地に連れて来たの?」
疑問に思っていたことだが、聞くタイミングが見つからず、ずっと不思議に思っていた。最初は単純に遊園地で遊びたいからだと思っていたが、一緒に居る内にいぶきのことがそこまで短絡的な人間ではないことに気が付いた。
「今日は幹彦さんにわたくしのことを知ってもらいたくて、この場所に誘いました」
そこでネズミは昨日の帰り際に言った言葉を思い出す。
『信用するほどお前のこと知らないし、知るつもりもないからね』
つまるところ、あの言葉に対する彼女の答えがこのデートだったのだ。
「なるほどね」
「わたくしのことを少しでも知っていただけたなら幸いですわ」
ゴンドラが上へ上へと、上がって揺れる。その中でネズミといぶきの視線が合う。
「いぶきが刹那の時間を大切にして生きているってことは伝わったよ」
アトラクション一つ一つを思い切り楽しもうと全力で遊んでいた彼女の姿を思い出す。今感じるすべてを喜びに変えたいという強い意志が感じられる姿だった。
「それなら、成功ですわね」
「でも、お前が自殺しなきゃいけないなんて悩む理由はさっぱりだよ」
躍動するいぶきの姿を見て、なおさら自殺を考える理由が分からなかった。こうまで生きていることを楽しむ彼女がなぜ生を諦める覚悟を決める必要があるのか、ネズミには心底理解できなかった。
「幹彦さん。窓の外を見下ろしてみてくださいまし」
彼女の言われるがまま、ネズミは窓の外を眺めた。二人を乗せたゴンドラはいつの間にか頂上まで来ていた。
観覧車から見えるのは遊園地で遊ぶ客やそれに対応するスタッフ、マスコットの姿。小さくアリのように見える彼ら動き回ったり、時には立ち止まったりしている。
「人が虫のように見えるね」
「虫ではありませんわ。人は人です。わたくしたちとは関わり合いにならないかもしれませんが、皆様方一人ひとりが一生懸命に生きていますの」
冗談で言った言葉に真剣に返され、ネズミは窓から目を離し、いぶきの方に向き直る。
彼女は今まで見た中で一番真面目な表情を浮かべていた。
「ひょっとしてそれがいぶきの言う、死ななきゃいけない理由?」
いぶきは頷いて続けた。
「ええ、そうですわ。わたくしのわがままで彼らが不条理に死に絶えることなど耐えられません。何度も病室で死の恐怖を感じていたわたくしだからこそ、彼らに同じ苦しみを与える訳にはいきませんわ」
故に邪神の復活を阻止するために、今日死ぬと彼女は言った。
ネズミにはなおも理解ができずに問いを重ねる。
「他人なんてものは自分のために利用するために付き合っていく存在だよ。そんなものために命を擲なげうつなんて馬鹿じゃないの?」
「幹彦さんにも大切な人が居りますわね? その方々に当てはめてみてくださいまし。自分が生きているせいでその方々が命を落とすとしたら、わたくしと同じように……」
そのいぶきの台詞にネズミは嗤わらった。
どんよりとした暗く淀み、濁った瞳を剃刀のように薄くする。
「居ないよ。そんな奴は僕には存在しない」
先ほどまでの穏やかな雰囲気を消滅させたネズミにいぶきは面食らうものの、諭すように反論する。
「そんなはずはありませんわ。御友人や御両親が貴方にも居られるはずです」
「ハハッ。僕にとっては皆代わりの利く代用品だよ。死んだところで痛くも痒かゆくもない」
比喩でも、冗談でも、強がりでもなく、ネズミは本心からそう思っていた。そして、実際にそうやって生きてきたし、これからもそうやって生きていくだろうと確信があった。
「なぜですの!? どうしてそんな風に思えるのか、わたくしに教えてくださいまし!」
昨日とは逆にいぶきの方がネズミを理解できない。しかし、彼の声と瞳には言いしれない説得力があった。
戸惑いの映る彼女の瞳にネズミは己の過去を静かに語り出した。
***
物心付いた時、彼には名前がなかった。
だが、孤児という訳ではなく、彼にも両親が居た。ただ彼は両親に虐待を受けて育った。
いや、正確には虐待とすら呼べない扱いを受けていたと言った方が正しい。
彼は家の脇にある粗末な物置小屋で育てられていた。明かり窓から差し込む僅かな明かりと埃っぽい空気に囲まれて生活をしていた。
戸籍すら持たない私生児、それが推定年齢五歳の頃の彼だった。誕生日すら記録されていなかったので、正確な年齢は分からないが現在の年齢から逆算するとその程度の年齢だった。
学校に行くどころか、そもそも物置小屋から出してもらったことさえない。鎖に繋がれ、満足に三食の食事すら与えてもらえなかった。
両親、特に父親は彼のことを『ネズミ』と呼んで、殴る蹴るの暴力を愛情の代わりのように注いだ。
母親も卑屈な笑みを浮かべ、自分は被害者のような顔をして、夫に言われるがままにネズミを棒で叩いた。
夫婦揃って、息子であるネズミを毎日のように死なない程度に暴力を与え、生ごみに近い残飯を出し、物置小屋から去っていく。
ネズミにとって両親は己の生命を脅かす、恐ろしい存在でしかなかった。
そんな地獄のような日々を送っていた彼だが、ある日唯一の希望と言える存在とで会う。それは物置小屋に入ってきた灰色の一匹の鼠だった。
彼はその鼠を友達として、両親には隠しながら大事に可愛がった。時には与えてすらもらえない食事を分け与え、肌寒い物置小屋で共に眠る。
彼にとって、鼠は掛け替えのない存在となっていた。地獄のような暴力もこの子が居れば耐えられる。心からそう思っていた。
彼はその時まで知らなかったのだ。本当の絶望を。
ある夜、物置小屋に入ってきた父親と母親はいつものように蹴りあげて、息子を叩き起こすと、服の中に隠していた鼠を捕まえて言った。
――これからお前に料理を作ってやる、と。
意味の分からない言葉に唖然としている彼の目の前で、物置に置いてあった工具箱から金槌を取り出し、彼の友達をそれで叩いた。
止めてくれと叫ぶ彼の目の前で何度も何度も金槌を振るい、叩き潰した。そして、ひしゃげて原形すら留めなくなった友達を彼の口の中に捻じ込むと歪んだ笑みでこう言った。
――どうだ、ネズミ。お前のために作った料理だ。残さず食べろ。この日のために太らせておいたんだぞ。
彼は口の中に広がる生臭い鉄の味を感じながら、目の前の男の常軌を逸した悪意を理解した。物置小屋に入ってきた鼠は父親が入れたものだったのだ。
抱かせて、それを踏みにじる時に起こる絶望。たったそれだけのために演出された希望だった。
涙に滲んだ視界に邪悪な男の顔が映った。彼の血の繋がった父親の顔。
楽しげに、嬉しそうに、幸せそうに、嗤っていた。
それを見た瞬間、彼の頭の中で憎悪が火花を散らした。
父親の手に噛み付き、距離を取ると近くにあった工具箱からマイナスドライバーを取り出すと、喉元に突き立てようと振り上げた。
しかし、怒りに我を忘れた彼は、傍に居た母親の存在を忘れていた。
元々、満足に食事を与えられず、痩せていた彼はあっさりと母親に捕まり、いつもよりも過激な暴力を受けた。
怯えるだけの彼が牙を剥いたことに激昂した父親は、母親に彼を押え付けさせ、加減すらなく蹴り倒した。
鼻と前歯は勿論、肩や足の骨も折られた。涙と鼻水よりも口から吐き出した血の方がずっと多かった。内臓が破裂したのか、呼吸音もおかしなものになっていた。
激痛などとうに越え、朦朧とする意識の中で彼が抱いたのは恐怖でも絶望でも後悔でもなかった。
煮えたぎるような敵愾心てきがいしん。それだけが彼の頭の中にあった。
父親は気が済むまで彼を蹴ると、落ちていたマイナスドライバーを拾い、血と涙でぐしゃぐしゃの彼に一言だけ言って嗤った。
――お仕置きだ。
最後に彼の右目が見た光景は突き立てられるマイナスドライバーの先端の鈍い輝きだった。
意識はそこで一旦途切れた。それほど長い間ではなかったが、間違いなくあの時彼は死んでいた。
意識を取り戻した時は右の目蓋から眼球だったものが抉り出された瞬間だった。
残された左目に憎い男の笑顔が映った時、彼の中の敵愾心が世界に顕現した。
その敵愾心は鼠の身体を得て、外敵を貪り付くそうと男に喰らい付いた。見る間に摩耗していく父親の姿と、叫ぶ母親。
生み出された十匹足らずの鼠たちは次なる獲物へと襲い掛かった。
物置小屋の床に横たわる彼はその鼠たちが自分の作り出した存在だと死にかけた頭で理解した。
***
ゴンドラを降りた二人は暫しばし、無言で園内を歩いた。
いぶきは何かを言いたげに口の開閉を繰り返してから、ようやくネズミに話しかけた。
「……その後、どうなったんですの?」
「立てなかったから鼠たちに目立つ場所に身体を運ばせて、近隣の住人に見つけさせた。警察に聞かれたけど、何も分からない振りして孤児院に入った」
その後は可哀想な子供の振りして金を持っていそうな家の養子になるように仕向けたよ、とネズミは笑って言った。
その様子にいぶきは何を言っていいのか分からなかった。ただでさえも世間知らずにな彼女に、壮絶すぎる幼少期を過ごしたネズミに向ける言葉など見つからない。
「その、大変でしたのね……」
口に出してから言葉の陳腐さに気付き、いぶきは俯くが、ネズミは平然と相槌を打った。
「そうだね。当時はひらがなの読み書きもできなかったから、覚えるまで大変だったよ」
不真面目な返答だったが、それに対していぶきは怒ることはできなかった。それどころか、観覧車の中で説教めいた発言をした自分を恥じていた。
ネズミの過去は彼女の人生論を狂わすほどに陰惨で絶望的だった。
「……『ネズミ』と御友人に呼ばせているのも……」
「そう。あの時の屈辱と怒りを忘れないためだよ」
身近な人間に呼ばせたその渾名は己に理不尽への憎悪を忘れさせないために刻んだ傷だ。
「……邪神を倒そうとしているのも……」
「あの時から理不尽な存在が許せないんだよ。存在しているって知っただけでも捻り潰したくてしょうがないんだ」
己よりも強い超常的存在を潰しているのはひとえにそれが理由。強者を喰らい、貶め、蔑むことだけがネズミのたった一つの生き甲斐だった。
「要するに……『強い者イジメ』がしたいのさ、僕は」
虚空を見つめながらいぶきの隣を歩く、ネズミの左目には闇色に輝いていた。
敵意と憎悪と狂気と歓喜を混ぜ込んで一つにしたような闇。矯正不可能なレベルで染みついた邪悪。
「だから、いぶき。勝手に死なないでよ。僕の欲望を満たすために明日まで生きて」
いぶきはそれに何も言ってあげられない自分自身がなぜか許せなかった。
「わたくしは……わた、くしは……」
何かせめて言葉を紡ごうとした瞬間、身体が強烈に熱くなるのを感じた。これは体内で邪神が這い出そうとしている感覚だった。
なぜ? 復活の日は明日のはずなのに――。
昨日よりも激しい脈動にいぶきは耐えられず、蹲うずくまる。
傍に居るネズミはそれを見て、喜びに満ちたように口角を吊り上げた。
「せっかちさんだな、神様。そんなに僕を殺したいのか? いいね、受けてあげるよ」
周囲の地面が灰色の五百匹近い齧歯類で瞬時に覆われる。
受肉能力を使ったネズミに呼応して、いぶきの後ろに八本の首を持つ眼のない大蛇が顕現した。
昨日よりも遥かに大きく、遥かに長い。丸太のような太さの身体は十メートル近く伸びている。昨日の大蛇はまだ奇形の次元で済んでいたが、もはや異形としか言えない造形だった。
……周囲の人を逃がさないと巻き込んでしまう。
とっさにいぶきが考えたことはそれだった。
この場所は遊園地内。屋上とは違い、人気がある。
日が沈んでいるのと中心から外れているおかげで係員合わせて二十名にも満たないが、それでもここで邪神が暴れ出せば、人死には避けられない。
さらに叫び声が上がることや、警察が呼ばれた場合のことを考えれば、被害はさらに拡大してしまう。
「何だ、これ……ヤマタノオロチのオブジェ? うわっ、今度は鼠の行列?」
『邪魔だ、有象無象。散れ』
八つ首の大蛇はその長い尾で周囲に居る人間を叩き潰そうと、振り払った。
「逃げてください!」
何の罪もない人たちが自分のせいで殺されてしまう。こんなことになるなら、早く自殺しておくべきだった。
いぶきの想いを知ってか知らずか、ネズミは生み出した鼠の軍隊の一部を使い、瞬時に無関係の人間の足元に派遣する。
鼠の集団は周囲の人々を波のように浚さらうと、一塊になって大蛇の尾さえ届かない距離まで遠ざかって行った。
代わりに彼らの後方にあった休憩用のベンチや自動販売機が拉げて吹き飛ぶ。
だが、鼠の波に浚われた人たちは常軌を逸した状況に、理解が及ばず皆驚愕しているのものの誰もが理不尽な死を免れた。
「幹彦さん……」
ネズミの過去を知った今、彼が自分の兵力を分散してまで赤の他人を逃がした理由が分からなかった。
「言ったでしょ? 僕は理不尽が気に入らないんだ。替えの利く代用品の殺害だろうと理不尽な存在の行動を許す訳がない」
これは人としての情ではなく、ネズミ個人の主義によるものだ。
もしも、彼らが車に轢かれそうになっていたのであれば助けたりはしなかっただろう。
ただし、それが条理を超えた存在なら話は別だ。
化け物に殺されそうになっている人間が居れば、ネズミはそれを阻止する。なぜなら、彼はそういった存在が起こす理不尽そのものを憎んでいるからだ。
それを無視すれば、ネズミは理不尽を許容したことになってしまう。現実的な事故や事件で人が死ぬのとは意味合いが全く違うのだ。
『ククク、根津幹彦。おかげで見易くなったぞ?』
八つ首の大蛇はその頭を伸ばし、ネズミへと牙を剥いた。
すぐさま、彼は残った鼠で応戦する。しかし、八本の大蛇の大顎は鼠の軍勢をアスファルトの地面ごと抉り取る。
三百は居た鼠の群れは数秒も待たずに残らず、食い尽くされてしまう。口の大きさもその数も昨日の大蛇とは比べ物にならないのだ。当然すぎる結果と言える。
舌打ちをしつつも、新たに鼠を五百体ほど四方八方に顕現し、襲わせる。だが、八本の鎌首に付け入る隙などなく、どの角度からの強襲も次々と対処されて喰い殺されていく。
ネズミはその間、走って距離を取りつつ、思考を巡らせる。
ネズミが生み出す鼠の軍勢の破壊力は絶大だ。どれほどの硬度の金属まで噛み砕けるか調べてみたところ、彼らの前歯はチタン合金すら容易く貫くことができた。
例え超常の存在である八つ首の大蛇の鱗であろうとも、貫通させられる自信がある。
ただ、反比例するように鼠たちは脆弱な耐久力をしていた。野性の鼠よりも多少、頑丈だがそれでも大蛇の一嚙みで絶命してしまう。
数多くの鼠が身体に取り付いてしまえば勝ち目はある。しかし、八本の首の大蛇には死角がない。
大蛇は眼球がないにも関わらず、鼠の動きを完全に捉えて、捕食していく。
そこまで考えた時にふとネズミの中で一つの疑問が生じた。
……奴はどうやって鼠の姿を視認しているのだろうか。
あまりにも当たり前の問いであり、それ故にこの異常な相手には向けることのなかった問い。
眼球がないということは当然視覚ではない。だとすれば、聴覚と嗅覚か。はたまた、第六感のようなものか。
しかし、大蛇はネズミが一般人を逃がした時に確かにこう言っていた。
『見易くなった』と。
見分けやすくなったではなく、見易くなった。つまり、映像で識別しているということに他ならない。
「……なるほどね。ピット器官か」
蛇の中にはピット器官という赤外線感知器官を持つものが居る。ピット器官は人間でいう唇にあたる鱗にある穴で、これにより夜間見通しが悪い中でも獲物である小型恒温動物の存在を察知することができるとされている。
受肉した存在は超常の存在でありながら、生物でもある。ベースとなった生物の固有の器官を保持していても何らおかしくない。
異形の形状をしている故に、生物的観点から見ることを忘れていた。
『もう打ち止めか? ならば、お前の番だ! 根津幹彦!』
足止めをしていた鼠たちを喰らい尽くすと八つ首の大蛇は、ネズミを追い、その巨体を蠕動ぜんどうさせた。重そうな体躯にも関わらず、大蛇は距離をあっという間に詰めていく。
再び、ネズミは五百余りの鼠の軍勢を生み出すと、今度はその中に飛び込み、自分ごとを移動させる。
正攻法では、八本の首は突破できない。だが、彼には既に突破口を閃いていた。
鼠でできたタクシーの中、彼はジーンズの後ろのポケットに入れていたものを取り出そうとする。
しかし、どこにも目的は入っていなかった。走っていた時にどこかへ落としていたらしい。
「クソッ」
悪態を吐くが、鼠の視界を通して、後ろからベンチや自動販売機などを砕きながら一直線で迫って来る大蛇を見て冷静に戻る。
ネズミは、次に五感をいぶきの傍に居るだろうドブ太郎へとリンクさせた。
ドブ太郎の視界には、ポシェットからカッターを取り出したいぶきが震える手で、その刃を首筋に当てている光景が映った。
『馬鹿野郎! お前、何やってんだよ』
声帯をリンクさせ、ドブ太郎の喉から怒声を発する。
いぶきはネズミの声を聞き、ビクッと一瞬驚いた顔をして周囲を見渡した。
「幹彦さん……? どこに居られますの?」
『ここだよ。自殺志願のチンパン娘』
ネズミがドブ太郎の口を通して喋っていることに気が付くと、真剣な表情で伝えた。
「もうこれ以上、邪神の好きにさせる訳にはいきませんわ。ここでわたくしは死を選びます」
『ふざけないでよ。約束したはずだよ。僕があの蛇野郎を殺すまで死なないって』
「邪神は昨日とは比べものにならないほど巨大で強靭になっていますわ。いくら幹彦さんでも手に負える相手ではありません」
彼女には強い覚悟があった。もしも、ここで生半可な答えを返せばその手に持った刃は白い首を赤く染めるだろう。
だが、ネズミは気負うことなく、不敵に言った。
『その必要はないよ。奴を葬る算段は見つかった』
「本当ですの!?」
『ああ、本当だよ。だから、パンフレットを一旦広げて見せてくれる?』
いぶきは疑わしげにドブ太郎を見つめたが、言われた通りにパンフレットを広げて見せた。ドブ太郎の視界を通してネズミの脳に目的の場所が伝わる。
『ありがとう。すぐさま、あの蛇をゴミ屑のように叩きのめすから。いい子で待ってて』
「……その言葉、信じてもよろしいのですか?」
いぶきの中でネズミという人間は定まっていなかった。温かいようで冷たく、冷たいようで温かみのある不思議な少年。
そんな彼を信用したいと思いながらも、どこか踏み出せずにいた。
だからこその問い。この問いで彼を信じるかどうかを決めようと思った。
『――鼠に誓ってもいいよ』
返ってきたのは冗談めいて聞こえる台詞だったが、彼の声には重みがあった。
彼にとって、鼠とは過去の友であり、最強の武器であり、屈辱の傷跡であり、己の名前でもある。それに誓ったということは、何よりの言質だ。
「分かりましたわ。貴方を信じて待ちますわ!」
ネズミはただ一つの場所を目指して、鼠のタクシーを進めた。ここに来るまでも大蛇の犠牲者を出さないように鼠を何匹も無駄打ちしてしまっていた。一般人の避難のために使った鼠の総数を合わせれば一億を優に超えるだろう。
かつてないほどの受肉による精神の消耗は彼を疲弊させており、強烈な頭痛と眩暈に襲われていた。
形なき存在に肉を与え、この世に顕現させる神の如き力。人の身で無限に生み出せる訳もない。当然、限界値がある。
それが『許容量の限界』と呼ばれるものだ。
浴槽に溢れるほど溜まった湯も桶おけで掬って出し続ければ、やがては枯渇する。枯渇してなおも、生み出し続けることも可能だが、それは即ち、受肉能力者の命を削るということ。
平衡感覚を失いながらもネズミはようやく目的の建物がある場所まで辿り着き、その中まで己を鼠たちに運ばせた。
一番奥の広い部屋まで来ると、身体を焼くような熱気が疲弊した彼の体力を奪い去っていく。ネズミはそれを無視して、さらに三百匹近い鼠の軍勢を顕現する。
これで彼の許容量の限界に達した。長時間の睡眠でも取って精神を休めなければ、一匹の鼠すら受肉できそうにない。
懐かしい感覚だった。昔、両親を喰い殺した後、死に掛けの身体を運ばせた時とそっくり同じ感覚。
身体が熱く、思考が重い。気分は最悪としか言えない。
いぶきに昔語りをしてしまったせいか、嫌に十二年前を思い出してしまう。
名前のない自分と、奪われた友達。敵意と殺意に燃えながらも、暴力に為す術もなく、見ていることしかできなかった。
あの時、もっと己が強ければ友達を守れていただろう。
今のように力があれば、自分は失わせずに済んだはずだ。
……だから、今度は失わせない。
その時にようやく理解した。自分がいぶきの自殺を否定している本当の理由――それは彼女をかつての『掛け替えのない友達』と重ねて見ていたからだ。
自分の中で知らない内に急速に芽生えていた感情にネズミが気付いたその時。
『ようやく逃げ回るのを止めて観念したようだな、根津幹彦。此処ここが貴様の選んだ墓場か?』
低いしわがれた声が建物の外から聞こえてきた。ゆっくりとまるで甚振いたぶるためだけに時間を掛けて、八つ首の大蛇が建物内へと侵入してきた。
八つの鎌首が、ネズミの居る一番奥の広い部屋の半開きになった扉から、するりと顔を出す。
そして、勝者の余裕さえ見せていた態度から一変して、狼狽した叫び声をあげる。
『な……これはどういうことだ!!』
八つ首の大蛇はその部屋の中心まで進む。そして、ほんの僅か二、三メートルの距離に居るネズミの姿にも気付かずに大声で叫ぶ。
『何処どこも彼処かしこも紅い!? 何なのだ、此処は!』
にやりと壁際に横たわるネズミが笑みを零した。
彼が逃げてきた場所、それはこの東京トロピカルサマーランドのアトラクションの一つ、『太陽の館』。
このアトラクションは夏の日差しを、紫外線のみ除いて感じられる施設で、天井と壁、そして、床の全方位から赤外線を放射している。
この建物内ではピット器官による、赤外線感知は不可能。故に八つ首の大蛇は獲物を認識する目・を失う。
『何処だ! 何処に居る、根津幹彦っ!?』
『ここだよ。神様』
真逆の方向に居る鼠の声帯をリンクさせ、大蛇に語り掛ける。
『其処か!』
鎌首がすべて一斉に向いた瞬間、ネズミは鼠の兵士へ無言で指示を出す。床だけでなく、壁や天井に貼り付いていた無数の彼らは標的へと狙いを定めて群がった。
『き、貴様……謀たばかったなぁ! 根津幹彦ォ!?』
「いつまで見ろしている気なの? 図が高いよ、神様。――跪け」
大蛇が振り払う隙も与えず、数百の牙は瞬く間にその鱗を貫き、肉を食はむ。削り、抉り、臓腑まで潜り込む小さき殺意に巨体を沈め、太陽の館に断末魔の叫びを響かせた。
『ぐっ、があああああああああ!! 必ず……必ず明日我が貴様を殺してやる!』
「ハハッ、ハハハハハハ! ああ、そうだね! 勿論だとも! 僕『が』お前『を』必ず殺してあげるよ!」
上体を起こして、壁に背を預けた彼は邪悪な笑みを浮かべ、死にゆく大蛇を嘲笑した。
八つ首の大蛇が完全に鼠たちの餌と化した後、ネズミはよろめく足取りでいぶきの元に戻った。
大蛇の目撃者が警察を呼んでいたようで、園内は大混乱していたが、ネズミのおかげで死傷者は出ていない様子だった。
「ただいま、いぶき。いい子にしてた?」
「お帰りなさいませ、幹彦さん」
見るからに体調が優れないネズミの脇に来ると、そっと支えた。
彼の服装は汚れ、髪形はボサボサになり、肩で大きく息を吐いていた。
そんな彼にいぶきは複雑そうな思いを抱え、謝罪を述べる。
「申し訳ありませんでした……」
「それは何に対する謝罪? 約束破ろうとしたこと? それとも僕を巻き込んでしまったなんて言う見当違いなこと?」
「…………」
恐らくは後者だったのだろう。ネズミの疲弊具合を見て、どれほどの辛勝だったのか理解し、今日遊園地に誘ったことに責任を感じている様子だった。
俯く彼女をネズミは鼻で笑い、支えていた手を離させ一人で立つ。
「はあーあ。僕、お腹空いちゃったよ。いぶき、ご飯奢って」
「え? あ、もうそんな時間でしたわね……」
あまりにも色んなことがあり、夕食時だということにも考えが及ばなかった。
「いぶきが何か僕に思うところがあるなら、夕飯奢ってチャラね。それでいいでしょ?」
これ以上無駄なことは言うなと言外に釘を刺すネズミ。いぶきはそこに彼なりの優しさを感じた。
人よりも変わっていようと、歪んでいようとそれでも目の前に居るこの人は思いやりを持っている。
いぶきは彼の言葉に大きく頷き、ネズミに向けて華のように微笑んだ。
「はい。何でも好きなものをリクエストしてくださいませ!」
「……なら、さっさと行こう。警察の事情聴取で拘束させるのも馬鹿らしいしね」
ネズミはそっぽを向いて歩き始める。その隣でいぶきは嬉しそうな足取りで着いて行く。
ヂュウ、といぶきのポシェットから顔を出したドブ太郎がカッターの刃を齧って鳴いた。
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