Boy with Vamp

灰被清祢

唐突なプロローグ

俺は現在、どうやらピンチらしい。

俺と目の前のもう1人以外に誰もいない空間なのであり得ないが、仮に誰かいたとしてそいつの目からすれば壁際で1男子生徒が1女子生徒から迫られているというようにしか見えないだろう。

確かに、誰もいない保健室で学校一の美人との噂もある姫宮アリスとほぼ密着状態にあるこの状況は、普段ならば諸手を挙げて喜ぶようなシチュエーションだ。

教室で遠巻きに見ていたその綺麗な長い金色の髪も、モデル顔負けのその身体も、長い睫毛に縁取られた吸い込まれそうなサファイア色の瞳も、桜の花びらのように色づいた形のいい唇も、ほんの少し手を動かせば届くところにあった。

だかしかし、今はそうも言っていられない止むに止まれぬ事情がある。

心の葛藤を見透かすように、姫宮が見る人全てを魅惑する微笑みを見せる。

そこには、普段の彼女からは見ることのできない異様なまでの艶めかしさがあった。

「佐原涼太くん、貴方が私を誘惑したんですよ?」

待ってください、誘惑はおそらく今貴方がしていることで決して俺が貴方みたいな超絶美人に対してするようなことではないと思います。

そんな言葉は、まるで機能していない身体のせいで欠片も出てこなかった。

姫宮の白魚のような指が俺の頬を撫でる。

そのなんとも言えない感触に、ゾワゾワっと背筋が震えた。

俺の反応が面白いのか、姫宮はまた笑みを浮かべ耳元に顔を近づけた。

「だから…。」

何を、とは聞けない。

俺はすでにその答えを…いや、姫宮アリスの正体を知ってしまっていたから。

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Boy with Vamp 灰被清祢 @Haikaburi_Kiyone

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