探偵ローンウルフ
荒野は地平線の向こうまで続いている。
大空を鷲が飛んでいる。
傍らには壊れたピックアップトラック。
目の前には射殺された女。
俺は疲れたように立ち竦んでいた。
右手にはS&W M29リボルバー6インチ銃身拳銃が握られている。
遥か昔、映画で無茶をする刑事が手にした拳銃。マグナムが代名詞となった拳銃である。
Nフレームを用いた大型回転式拳銃であり、44スペシャル弾並びに44マグナム弾の使用が可能である。弾倉には6発が装填可能であり、銃身は4インチから10.625インチまで用意されている。
主に使用される44マグナム弾はS&Wがレミントン・アームズ社と共同開発した狩猟用拳銃弾である。当時としては最強の名を欲しいままにした拳銃弾であり、拳銃弾としては桁違いの性能を有している。
それは今でも同じだ。
対人に使うにはあまりにも大きな力。
その性能を最大限に引き出す為に弾頭はフルメタルジャケット。
グリップはボーグのゴムグリップ。
殺された女を眺める。
白人。髪はブロンドでロング。瞳は青。中肉中背のそれなりに美女。
衣服に乱れは特に無く、犯されて殺されたわけじゃない。
壊れた車は車体に複数の弾痕。タイヤをパンクさせられ、止められたようだ。
弾痕からして、使われた銃は小口径のライフル弾。
通常なら警察に通報すべき案件だ。
だが、それは俺の仕事じゃない。
闇探偵ローンウルフ
公的許可を一切受けていない探偵である。
「ミッチェルは死亡・・・ジョージは行方不明」
彼等は依頼を請けて追い掛けていた獲物だ。依頼主は犯罪組織。
追われる理由は知らない。
そして、彼女が殺される理由も。
ただ、解るのは・・・ここが危険だと言う事。
彼女を追って、ここまで来た自分は彼女を殺した者からすれば、敵だろう。
内心、面倒だと思った。
女を殺すのであれば、男も殺しておいて欲しかった。
こっちは二人の行方を依頼されているだけだ。死体さえ確認が出来れば、依頼が終わったわけである。
現場にはピックアップトラックでよく使われるパターンのタイヤが複数台分あった。多分、そいつらがジョージを連れて行った。連れて行ったと言う事は死んではいない。そして、利用価値があるからだろう。それが彼の持つ技術なのか情報なのか。
前者なら、無事な可能性は高いし、後者なら今頃、死にたくなるような拷問を受けているだろう。それで死んでいたとしても構わない。こっちは本人を確認したいだけだ。
アメリカの片田舎。
この手の連中と言えども、水や食料には限度がある。確実に物を売っている場所がある近くに拠点を確保しているはずだ。
地図を眺めて、予想する。そして、一か八かで行ってみるだけだ。
こういう場合は人海戦術で付近の町を片っ端から探すのが普通だが、金が無いのでそれは出来ない。ここで外せば、女の死体だけで我慢して貰うしかない。
オンボロのフォード社ネオンはボロボロと壊れかけのエンジン音を鳴らし、ある町に入った。そこは寂れた町だ。その一角に狙った場所がある。
かつて、自動車部品を作っていた廃工場だ。
老朽化して、放置されたまま、長い月日が経っている。
誰も使ってないだろうから、悪い事をするには丁度良い場所だ。
駐車場に車を止めて、キーを抜いて降りる。こんなオンボロ車でも盗まれたら、大変だからだ。
ホルスターから拳銃を抜く。銃身の長い拳銃って奴はホルスターから抜くのが大変なんだ。予め抜いておかないと、ファーストドロウなんて競ったら、こっちに風穴が空いてしまう。
いつ倒壊してもおかしくない工場を前に懐からマルボロを取り出す。
軽く振って、一本を出して、咥える。そして、抜いてから、今度はジッポーを取り出す。親指で蓋を跳ね上げ、慣れた手つきで火を点ける。
煙草に火を点け、煙を吹かした。白い煙が風で靡く。
「さて・・・生きてるかな?」
煙草を咥えたまま、工場へと入って行く。
悲鳴が響く。
嫌な声だと、ローンウルフは軽く笑った。
その瞬間、右手を伸ばし、44マグナムをぶっ放した。
激しい銃声が悲鳴を掻き消し、激しい銃炎が暗がりを照らす。
一瞬だった。
M16系の自動小銃を持った男の背中に大穴が開いて、彼は吹き飛び、倒れた。
「お迎えご苦労」
そう告げた彼は駆け足になる。
工場の中には放置された製造機械が並んでいる。その陰に隠れながらローンウルフは駆けた。相手の数は不明。持っている得物も不明。
正直、男の命がどうでもよかったら、こうして、襲撃する必要など無かったはずだ。
だが、ローンウルフはそんな事を考える男じゃなかった。
獲物を手に入れる。
それが彼のやり方だ。
決して、人の食べ残しを掠め取るなど良しとしない。
男が生きているなら、是が非でも手に入れる。それがローンウルフだ。
反動の強烈な44マグナム弾。
鍛え抜かれた彼の腕ならば、M29は左程、跳ね上がらずに撃てる。
その弾丸は拳銃弾とは思えぬ威力で男達の身体を貫く。
狙うのは胸板。
的の小さい顔は狙わない。仮に防弾チョッキを着ていても、44マグナムぐらいになれば、貫けなくても、充分に相手にダメージを与えられる。その安心感がゆとりのある照準となる。9ミリパラだとこうはいかない。
男達は自動小銃を構えようとするが、射撃姿勢に制限がある小銃と違い、どんな体勢でも撃てる拳銃は相手よりも早く撃てる。
次々と殺していった先に椅子に縛り付けられた男を発見した。
その横には怯えた男が立っている。
ローンウルフは拳銃を構えながら近付く。
「よう、そいつをくれないか?」
その問い掛けに男は軽く悲鳴を上げながら、拳銃を縛り付けた男に向ける。
「こ、殺すぞ?」
「あぁ、殺してくれても構わない。俺が欲しいのはそいつの所在だけだ」
「くぅ・・・フランクの手下じゃないのか?」
「フランク・・・知らないね。俺は依頼を請けて、そいつを探していただけだ」
「依頼だと・・・探偵か?」
「そういう事だ。だから、そいつをくれ。そしたら、見逃してやる」
「ふざけるな・・・こいつからアレの在処を聞き出せないと・・・俺は終わる」
「終われよ。俺は知らねぇよ」
「ふ、ふん・・・リボルバーか・・・弾数ならこっちの方が上だ。てめぇこそ、死にたくないなら、何処かへ行け」
「死にたくないって・・・お前の手下は皆、自動小銃を持って、俺に殺されたんだぞ?解るだろ?」
「うるせぇ・・・」
そう言った時、彼は拳銃をローンウルフに向けた。その瞬間、M29の撃鉄が落ちた。激しい銃声と銃炎を残し、弾丸は飛び去り、一人の男の胸板を貫いた。その瞬間、男は派手に吹き飛んだ。衝撃で拳銃を一発、ぶっ放しながら。
「死なずに済んだのにな」
ローンウルフは椅子に縛られた男に近付く。そして、拷問で手足から血を流す彼を見下ろした。
「おいおい・・・折角、命を助けてやったと思ったら、最後に脳天を撃ち抜かれてやがる。やるな」
彼の側頭部は派手に飛び散っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます