狂気乱舞
笑える。
目の前で人が死んでいる。
死んでいるじゃない。
殺した。
そうだ。殺した。
朦朧とする意識の中で・・・俺は人を殺した。
頭の中はさっきパイプで吸い込んだ麻薬が効いている。
悪童だった。
思えば、小学生の頃からどうにもならない屑だった。
暴力も盗みも悪戯も自分を満たす事は何でもやった。
それは学年が進む事に酷くなり、中学校に上がる前に補導の常習となり、中学校に上がって、少年院にぶち込まれた。
高校なんて通うつもりも無かったが、糞ババァがバカでも高校ぐらいは出ておけと言うから名前が書ければ、入れるようなおバカな高校に入った。
本当にバカしか居ない高校で、校内は荒れていた。
暴力が支配し、女はただの穴だった。
誰もがクスリをキメて、セックスを楽しむ。
そんな糞みたいな学校だった。
俺はそんな世界で頂点に君臨した。
やりたい事は何でもした。
そして、金に困って、ハイエースを盗んだ。
自動車泥棒なんて、誰もがやっている。
売り飛ばすルートもある。
アルバイト感覚で俺らはやっていた。
だが、その日は不幸な事に自動車の持ち主と遭遇した。
高級セダン車の持ち主だったが、そいつは驚きながら怒鳴り、スマホで警察に通報をしようとした。
だから、俺はそいつの顔面を殴った。力任せに殴り、蹴り飛ばした。
奴のスマホを踏み潰し、砕いた。
悲鳴を上げながら逃げ出そうとする奴を徹底的に暴力を振るった。
血が流れ、そいつは痙攣を起こしてから、動かなくなった。
「ター君、殺しちゃったぁ」
一緒に自動車泥棒をしていた友達が缶ビール片手に笑う。
「こいつがマッポを呼ぼうとするからよぉ。ちょっとマジになっちゃった」
照れ笑いをする。人を一人殺した事への罪悪感など、誰も持っていない。
「そうだ。ター君。護身用にって、アフリカ人がこれをくれたぜ」
そいつは販売ルートの一つであるアフリカ人の知人から預かった物を投げて寄こした。それはズッシリと重たかった。
「んだぁ?これは」
受け取った物をマジマジと眺める。
ベクター SP1
南アフリカで開発、製造される大型自動拳銃。
基本的な構造はベレッタ92FをベースにコピーしたベクターZ88を改良したモデルになる。
スライドを強化している為、オリジナルのベレッタ92Fなどでは対応していない40S&W弾を用いるSP2がバリエーションにある。
ベレッタ92Fとの違いはスライドにデコッキングレバーでは無く、フレーム後端にマニュアルセーフティレバーを配した事。
「デカいけど、ベレッタとかじぇねぇのかよ」
それが一目で映画とかじゃ見たことのない銃だとは解った。
「だけど、警察でも使っているって言ってたぜ」
そいつは笑いながら言う。
「マジかよ」
目の前で人が死んでいる事などお構いなしに俺らは笑いながら、死体から鍵を奪い、車を盗んだ。
盗んだ車は国産の高級セダン。こいつを外国人に売り渡せば、1台30万ぐらいで引き取ってくれる。1時間も掛からずに稼ぐ額としてはかなり良い金額だ。
「おい。そこのコンビニに寄れよ。何か腹が減った」
運転をさせている友人に指示をする。
俺らは車から降りて、コンビニに入る。深夜近くのコンビニに客の姿は無かった。外国人の店員が一人だった。
「ちっ、外人の店員か。適当に万引きして帰ろうぜ」
俺らは隠す事無く、弁当などを入れたカゴを持ったまま、店の外に出ようとした。
「ちょっと待って、支払いが終わってないよ」
店員が癖のある日本語で追いかけてきた。
「うるせぇよ」
俺は振り返り、ポケットに入れていた拳銃を取り出した。
「ター君、そいつで練習?」
友人は笑いながらそう言う。言われると俺もそんな気分になった。
スライドを引いて、弾丸を薬室に放り込む。撃鉄はすでに起きている。デコッキング機能が無いから起こした撃鉄を安全に倒す事は出来ない。だが、ダブルアクションでも撃てるので、そうする時は親指で撃鉄を抑えながら、ゆっくりと引金を引いて、撃鉄を静かに戻すのだ。
俺は追いかけてきた店員に拳銃を向けた。彼は銃口を向けられ、怯えた。慌てて、店へと逃げ戻ろうとする。その背中に狙いを定めた。
躊躇など何も無かった。この時、思った事は撃ったらどうなるだろうかと言う興味だけだった。
銃声が鳴り響き、スライドが激しく後退し、手に反動が響く。
宙を舞う薬莢。漂う硝煙。鼓膜が痛かった。
店員は前のめりに転んだ。
悲鳴など上げる事は無かった。彼は倒れたまま、痙攣をしている。
「ひゃはははは!こいつ、なんか、ピクピクしてるぜ」
俺は笑った。アニメで感電した奴みたいな動きをしているからだ。
「ター君、すげぇ。一発でヤッたじゃん」
「お前らもやるか?」
「いいよ。耳いてぇーもん」
「へっ」
俺は倒れた店員を無視して、車に乗り込んだ。
コンビニ弁当を食べながら、車は街中を走る。
友達はビールを飲みながら運転をしている。
蛇行する車。
当然ながら、警察が見れば、すぐにおかしいと感じる。
1台のパトカーが追跡を始める。
サイレンが鳴り響き、スピーカーから彼らに停車を求める声がする。
「うるせぇな」
俺はただ、それを五月蠅いとだけ感じた。
「ター君やべぇ。マッポだ。どうする?」
「ああん?くそぉ。止めろ」
「止める?」
友人は驚いた。普通、こういう場合は逃げるのが普通だからだ。
「あぁ、路肩に寄せろ」
友人は車を路肩に停めた。俺は助手席から降りた。パトカーも後方について、警察官が降りて来ていた。
「ちょっと、良いかな?」
警察官は大人しく言う事を聞いたので、その口調は穏やかだった。
「マッポがうるせぉよ」
俺はポケットから再び、拳銃を取り出した。撃鉄を倒すなんて事は知らないから、起きたまま、ポケットに突っ込んでいた。セーフティだけは掛けていたので、俺は目の前に立つ警察官に銃口を向けながら、親指でセーフティを解除する。
一発の銃声が鳴り、警察官は背中から倒れた。
「松戸巡査長!」
運転席から降りた同僚の警察官が叫ぶ。彼に向けて、発砲した。銃弾は彼に当たらず、パトカーのフロントガラスを貫いた。
「ひぃ!」
警察官は慌てて、パトカーに飛び乗り、頭を隠しながら、バックさせる。
「逃げるなよぉ」
俺はパトカーに向けて乱射した。銃弾はパトカーに当たり、跳ねる。パトカーは懸命にバックして、ガードレールなどに衝突しながらも逃げ切った。
「ター君、やべぇよ」
「おう。逃げるぞ」
俺は車に飛び乗った。
車は一気に加速して、逃げる。もう無茶苦茶だった。
酔っ払いが慌てながら走るんだ。彼方此方に衝突しながら、走っている。
「高速に乗れ。高速に」
俺はその間に拳銃の弾倉に銃弾を詰めた。
サイレンの音が彼方此方から鳴り響く。多分、こちらを追いかけているんだ。
「くそぉ。俺ら、捕まるのか?」
友人がやけくそになって叫ぶ。
「うるせぇよ。俺が皆殺しにしてやるからよぉ」
俺は大麻を包んだ葉巻を咥えた。大麻の香りが車内を漂う。
皆、おかしくなっていた。
酒と麻薬に酔いしれた。
車はガードレールにぶつかり、停車した。その頃にはパトカーが何台も周りに居た。
俺は車から降りる。手には拳銃。
警察官達はパトカーを盾にして拳銃を構える。
「大人しく武器を捨てて、投降しろ」
警察官が叫ぶ。
「ざけるなよぉ」
俺は拳銃を振り回す。警察官達は発砲されると思てって、頭を下げる。
「ター君!やっちまえぇよおおおお!」
友人がラリって叫ぶ。五月蠅いと思った。だから、撃った。
至近距離から撃たれた友人は後頭部を銃弾で破られ、脳みそをぶち撒いた。
「撃ったぞ!」
警察官達が叫ぶ。俺は彼らに向けて発砲した。
9ミリパラ弾はパトカーの車体の一部だって、貫通する。貫通した弾頭は酷く潰れた状態で警察官に当たる、彼はその場に倒れ込んだ。
「撃たれたぞぉおおお!」
銃声と怒号と悲鳴が交わる。
俺は歪む世界の中で引金だけを引き続けた。
だが、その最後は呆気なかった。俺の身体に衝撃が走る。
痛い?
確かに痛かった。それが警察官が撃った銃弾だと気付く前に俺の意識は真っ暗になった。それが終わりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます