初めてママと呼んだ日

千歳

第1話初めての入園式

僕と、まだ幼かった娘「美那」を残して妻の早苗は病死した。

死因は至る所に悪性腫瘍が転移したことによるもので、いわばガンだった。

あれから二年の歳月が流れ、今は早苗が闘病生活中に撮り溜めたビデオレターを美那と一緒に観る事が日課になっている。

「初めての入園式」とマジックで表面に書かれたDVD。丸まった字体を見るたびに瞳が潤んでしまう。


「ねぇ、ぱぱはやく」


上着の裾をくいっと引っ張る美那は、立派に二本足で立ち、言葉もつらつらと言えるようになってしっかりしてきた。

その反面人見知りで、目を合わせて話すのが苦手な所は早苗にそっくりだ。堪えていた涙が零れ落ちそうになる。


「そうだな」


歯を食いしばりどうにか涙を堪えてレコーダーにディスクをセットする。

一寸の間映し出されたのは、まだ病状が比較的軽かった早苗と無機質なベッド、真っ白な壁だった。


『美那ちゃん、入園おめでとう。ママも美那ちゃんと一緒に行きたかったなぁ。でもママは今遠くに居て会いに行けないの。だから、パパの言う事ちゃんと聞いていい子にしててね』


美那はまだ本当の意味を理解していない。だからこそ、画面の向こうの早苗に笑みを向けながら「いい子で待ってる」と言うのだ。

気付かない無邪気さに胸が抉られる。

この無邪気さは何時までも続くわけじゃない。

堪えたはずの涙は、いつの間にか頬を伝っていた。

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初めてママと呼んだ日 千歳 @titose

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