070 大人の階段をのぼった日

 子供のころは、徹夜をするのがオトナだと思っていました。なぜそう思っていたのか、きっと早く寝かしつけられていたので、遅い時間まで起きているだけですごいことだったのでしょう。その上、眠らないなんて。大人はずっと起きていられて、いろんなことができていいな、と感じていました。わたしは小さいとき、眠くなると力尽きて、そのまま眠っていたので、自分が寝てしまった後でひそやかに行われている、大人だけの行事が気になってしかたなかった。

 中学生くらいには、そんなものはないんだと悟りましたけどね。実際は眠ってしまった子供を起こさないよう、小さな声で会話しているのが内緒話みたいに聞こえていただけです。物音で起こしてしまわないよう、そっと動いているだけ。大きくなると、秘密の世界のヴェールははぎとられてしまう。さみしいものです。

 時間軸を小学生に戻しましょう。

 祖父母の家を訪れたとき、わたしにチャンスが舞い込みました。そもそも帰省の移動時間で、長らく覚醒していた。前日は支度に追われ、かつ遠出に興奮していました。家についたらすっかり夜です。放っておいても、そのまま数時間起きていれば、自動的に徹夜達成。いよいよわたしも、大人の階段をのぼる日がやってきたのです。

 おしゃべりをして、毎週楽しみにしているアニメの放送を見る。番組が終われば、晴れて24時間起きていることになります。本来なら、徹夜といえば朝起きたら翌日の夜くらいまでは寝ないのを指すところですが、わたしにとってそれは不可能。

 洗面台に立ったとき、自分の顔を見たら目の下に大きく黒ずんだ、三日月形のくまができていました。頭がぐるぐるして、気分もすぐれない。大人への試練は、かくも厳しいものだったのか、と後悔してももう遅い。だってあとたったの1時間で、この苦行は終わるのです。

 家中の人に心配をかけつつ、ぐったりとソファーに横たわって、死んだ目でアニメを最後まで見たのを覚えています。寝不足で気持ち悪かったのよ。もう限界ギリギリ。目的を達成して、あらかじめ敷いておいたお布団へ直行しました。そんなにテレビ見たけりゃ録画せえよ、自分。

 成人してからの方が、同じ24時間起きているのでもまだ楽です。きつい体験で、慣れたんでしょうか。眠いのにテレビって、受動的な行為だからまぶたが重くなるのに、よくやったなあと我ながら呆れます。ご褒美に得られるのは、骨折り損のくたびれもうけ。

 徹夜をするのは体に悪く、非効率なのでやめましょう。よいこのみんな、約束だよ!

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