069 植物に隙を狙われている

 洋服屋さんに行ったら、男の子が友達ときていて、すれ違いざまに会話が聞こえてきました。

「お前そんなにベルト持ってどうするんだよ。こいつんち、スゲーたくさんベルトあるんだよ」

「ベルト好きなんだよねー」

 そんなにたくさんあるなら、見たい。見てみたいじゃないですか、ベルトコレクション。たしかにベルトって、幅広だったり鋲がついていたり、素材も布や皮だったり、種類がたくさんあります。普段は上着のすそで隠れて見えないのに、ついつい集めたくなる気持ち、わかる。

 野生のリスやネズミも、秋になると冬支度のために木の実を収集します。ドングリなんかを集めて、あちこちへ埋めておく。本格的に冬が訪れたら、備蓄を掘り起こして食料とするのです。でもすべてを記憶しているわけじゃなくて、埋めたまま忘れ去られた木の実が、そのまま根を下ろして芽を出す。植物にも、動物にも利益のあるシステムです。

 くだものは食べてもらって種を遠くへ運ぼうとする。だから動物にとって好みの香りや味がするように、環境へ適応してきました。木の実も同じです。そのままではおいしくない、葉物野菜なんかは食べられるために進化してきたわけじゃなくて、人間に有用なものが選別されているから目立つ。

 自然の中には、食べてもらいたくないがゆえに、毒を持つ生物がいます。動物でも、植物でも。

 一見すると食べられずに種子を撒いて、個体を増やしていった方が有利に思えます。ところが広まったのは一見不利な、自らを食べてもらうことによって増える植物です。もちろん、全部食べられてしまったのでは滅びてしまう。人間は加減がわからないので、他の生物をとことんやっつけちゃいますが、完璧主義じゃない適当な部分があって、そこが狙い目です。意図してかどうか、植物に隙を狙われている。

 怪我の功名とでも言いましょうか。偶然の産物なのかもしれません。それでも、不利だから遠回りだから無駄になる、とは必ずしも言い切れないのが自然の面白さです。

 未来へ対面するとき、明らかに有利なのに、発展の余地が少ないケースがあります。また悪い意味で、どうなるかわからないことをリスクと呼びます。けれど真に未来を見通せるのであれば、リスクなんて存在しないことになってしまう。避けられるものはリスクとは呼びません。無駄にならないか、有利か不利かは、最後まで追ってみなければ判断できない。

 人生もそんな感じです、とたとえ話の最後につけると、深いこと言ってる風で〆られるので、みなさんもやってみましょう。

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