すたすたの章

061 ファンにとって困るファン

 音楽のライブに初めて足を運んだのは中学生のときでした。友達といったのですけれど、すっかり舞い上がってしまって、カバンに入らないサイズのグッズを抱えて持って帰ってきました。今から考えれば、あれはいらなかったな~、なんてものもあった気がします。記念品なので、実用性はどうでもいいんですけれどね。長く気に入っていられるかどうか、という自分への目利きが甘かったわけです。

 千人以上入るような箱から、小さなライブハウスまで行きましたけれど、迫力があるのは断然後者です。ただし、あまりに人気があるとファンが暴れてあぶないので、素直に楽しめない。加えて近年は、いわばライブではしゃげることを重視した楽曲のBPMってかなりの速さですから、ぐったりしちゃう。そんなわけで、ファンや来場しているお客さんと、ステージにいるミュージシャンのどちらからも楽しみ方を強要されないライブが好みです。

 ライブはお客さんと作っていくもの、なんてミュージシャンは言います。でもお客さんが、同じお客さんへ『こういう風に楽しむものだ』って空気感を出してると、家で聞いている方がマシだと感じてしまいます。昔から、クラスでは浮いているので定評のあるわたしですから、窮屈になるとすぐ上に逃れてしまう。

 その点、近年増加傾向にある大型フェスはいいですね。海外から訪れたバンドを、後ろの方で横になりながら聞く。マイナーだったり、同時刻に有名バンドが演奏しているとお客さんが少ないので、ゴロゴロしててもステージがチラ見できます。家で聞いているのに近い環境で、一度体験したんですが、しあわせでした。

 わたしの少し手前にはひとりで踊ってる女の子がいて、最前列はこぶしを振り上げている。わたしのそばには、あぐらをかいて聞いている人もいました。キャンプ用の折りたたみ椅子を持ってきてた人もいたかな。ビール飲んでて。

 ライブっていいなあと思えるのは、精神的な自由を感じられたときです。個々が解放感にひたれたら、それがいい客席でしょう。ファンとの一体感が云々とかは、みんな一丸となって感じようとしなくて結構。ステージ側から押し付けられるものじゃなし、自然発生が理想です。音楽演奏してる人たちは、やってるだけで楽しんでるんですから。

 リアクションという報酬がなくちゃできません、なんて状態だと最後まで続かない。このエッセイだって、26回目あたりから、見る人が急激に減って選別されてます。これを読んでいるあなたは、どうぞご自分を誇ってくださいませ。

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