056 UA(遊泳)

 夏休みに行くなら海派ですか? 山派ですか? わたしはどちらも大丈夫なクチです。といっても、前者の場合はプールが多いです。宿泊施設の説明を勘違いしていて、海を見渡せるホテルのプールで遊んだこともありました。現地についてから、そこの海は遊泳禁止だと知ったのです。あれには肩透かしをくらいました。プールが楽しかったので、レジャーは失敗じゃなかったですよ。

 アニメだとサービスカットの問題で、海のシーンが多いです。山は絵的に地味。自然の描写を売りにした、トトロみたいな作品だったら映えますかね。

 水泳教室に通っていた、なんて経験はまったくなくて、25メートル泳ぐのがやっとでした。今じゃその半分も泳げないでしょう。トンカチならぬ、カナヅチなのです。話を聞いても、息継ぎのやり方とか、手足の動かし方がもうひとつよく呑み込めませんでした。犬かきすら微妙です。きっと犬と勝負したら負けちゃいます。

 海へ行ったら何をするかというと、ぷかぷか浮いたり、浅瀬をゴロンゴロンのたうちまわっています。あの目印まで競争だ! なんて真似はまずできない。溺れちゃいます。溺死はいかにも苦しそうで、創作では心中や入水自殺のシーンなんて美しく描かれてますけれど、無理です。ああいうロマンス自体は好みながら、美化された妄想ですね。

 プールで遊ぶと、あまり慣れていないのもあって、めいいっぱいはしゃいでしまう。たいていヒドイ日焼けを起こして、翌日から肌が痛くて動けない日々を迎えます。ウォータースライダーなんて、子供のころは怖くて仕方なかったのに、成長するにしたがって、背が伸びたせいか少しずつ平気になりました。流れるプールは今も昔も好きです。ゆらゆら流されているのが新鮮で、飽きません。一緒に回っている人も、ころころ入れ替わりますし。

 小学生だったころは、市民プールの近くに個人でやっている、おでん屋さんへ寄るのが憧れでした。夏のプール後の、温かなおでん。数えられるほどしか寄らなかったのに、不思議と覚えています。冷えた体にちょうどよかったのでしょうか。

 おでん屋さんのある方角は、自宅へ戻るのとは反対の位置で、遠回りになります。プールの屋内でも軽食コーナーはあったし、おこづかいの残りはどうだろうとか、数々の誘惑を越えられたときのみ、おでんの門はわたしに開かれる。そうして黄身まで汁のしみた卵をかじると、何かやり遂げたような気持ちがしました。

 でも何かってなんだろう、と振り返ってみると、ただの買い食いですね。

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