052 貼る方じゃなくて、乗る方のシップ

 これまでの人生で、わずかながら船に乗る機会がありました。わたくし車酔い、バス酔いするものですから、船も酔っちゃうだろうな~……なんて不安に思っていたんですね。あらかじめ体調を崩すとわかっていて乗るのだから、ちっとも楽しめない。それで、乗り込むまでの周囲のことなんかは、見ていませんでした。だから覚えようがなく、どんな感じだったかわかりません。

 でも船に乗った後は、記憶にとどめています。暗い気持ちでシートに座って10分。ちっとも具合の悪くなる気配が訪れなかった。あれ? 想像してたのと違う。

 思い切って席を立ち、甲板へ出ました。その快適なことったら! 風を切って、どんどん海原を進む様子に感心しました。後から知ったのですが、小舟だと波の影響を受けやすくて、しけている日は揺れに揺れる。でも穏やかな波浪を、中型~大型船で進むときはそこまで揺れないんです。たしかスクリューで水を撹拌させて、泡を船体の下へ敷き、その上をすべるようにすすむ。だから揺れが少ない。

 またタンカーみたいな巨大な船は、エンジンがものすごく丈夫にできていて、船体の方が先にダメになってしまいます。海水の腐食で、錆びちゃうんですね。日本の船を外国へ売り払うとき、エンジンは元気なのだとか。20年以上動かしていても、壊れず働いてくれる。

 ちなみに原油から石油などの燃料を精製する技術も、日本は優れています。一因として、燃料の質もあるでしょう。

 船体には鉄などが使われているものの、チタンで作れば海水の腐食に強いので、長く船が使える。けれどチタンというのは素材から取り出したり、加工するのが大変なので、コストがかかってしまう。

 船は大きい乗り物ですから、ただでさえ値が張ります。なのにチタンは溶接が難しい。仏像じゃあるまいし、大きな素材から彫り出すなんてできません。だいいち延びにくいので、成形だって一苦労です。日本国内でも、チタン加工が得意なメーカーは数少ない。

 ただしチタンは自然界に豊富に存在するので、レアメタルの一種ながら、将来的に技術が問題を解決すれば、希少ではなくなります。ステンレスだって数十年前までは、一般家庭にとっては非常に高価な素材でした。わたしたちの孫の孫くらいの世代になれば、ありふれた素材として、浸透している可能性はあるでしょうね。

 商売として考えると短いスパンになります。しかし技術の研究開発は、長いスパンで見ないといけません。気の遠くなるような時間の積み重ねが、未来を灯してくれます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る