とことこの章

041 文章散歩

 たまに、気が向くと散歩をします。散歩ブームが自分の中でやってきて、よーし、いっちょう外を徘徊するぞ、となると出かけるのです。それ以外は、ほぼほぼ檻のついた部屋で意味不明なうわごとをわめいています。投薬するとおとなしくなります、鼻水が。花粉症なので、春はつらい。あけぼのでも梅でもなく。

 先日は、貯水池に咲く桜がきれいなので、見てきました。フェンスにカラスが一羽だけとまっていて、空は敷き詰められたように曇天。薄ピンクの桜の花が映えます。青空だと、色が混ざってしまって、すごみが薄れます。

 散歩は昼間だけじゃなく、深夜にもします。深夜徘徊です。迷い人のお知らせが、防災放送で町中に鳴り響かない。そんな時間帯です。語尾でまったく逆の意味に文章を変化させられるって、英語じゃできないトリッキーな技術テクニックですよね。え? そこルビいる?

 夜の散歩は、まったく別の土地を歩いているみたいで面白い。こんなところに建物ができてる、あそこの家はまだ電気がついてるから夜更かしだなあ、などなど。町が自分のものになったと錯覚できる。昼間は昼間で、こんな人が住んでるんだ、みたいな発見もあります。

 車通りが減るため、通常なら行かないような場所にも足を運びます。線路わきの、舗装されていない細い砂利道や、いつも通っているお店の裏通り。火事が発生した現場へ行ったこともありました。すっかり鎮火して、骨組みだけになった建物は、なんだかさびしいものです。

 公園は地域によって性格が異なっていて、雑草が伸び放題のところ、草が生えないように均してしまったところ、小さな山を作って遊具を置き、子供の遊び場になっているところ。珍しい花の植わっているところ等々。

 運動不足の解消を目的としていると、あちこち歩いている間に、帰り道を想像して制限をかけている気がします。その分、発見が多い。目的地があって歩く方が勢いがつくけれど、なりふりかまってないので、景色はさほど目に留まらないです。

 観光で初めて訪れた街をさまようときは、自分の限界より景色に意識が行っていて、無茶をしがち。でもきっと、地元の人が見ていないような角度に視線を向けています。

 散歩して初めて通る道があるように、生活しているとルートを最適化しようとする働きによって、同じ道ばかりになる。それがダメってわけじゃないです。でも、まだ知らない道を発見すると、新しい風が吹き込んだ気がします。それがごく身近な、近所であればあるほどに。

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