035 トゥース! はトゥーの複数形じゃないぞよ

 1年に1度か、それ以上の頻度で歯医者へ行っています。一時期はそうでもなかったんですが、ここ数年は毎年。しかも今年は松の内に門戸を叩きました。あまりにも歯がしみるので、痛くて耐えられなくなったのです。いわゆる知覚過敏。熱いものを口に入れたり、かたいものを噛んだりすると、ズキリと刺すような痛みが走る。お年寄りです。

 しかし歯医者はやさしい顔して、無情なことを言う。様子見しましょう。えぇぇー!? そんなご無体な、ってなもんです。いわゆる処置なし。歯茎に薬を塗ってはくれましたけれど、抜本的改革には程遠い。食べもの食べてるうちに、消えちゃいます。

 最終手段は残ってるんですよ。それは、歯の神経をとってしまう、ということ。これをやると、歯が死んだ、というカウントになります。ご臨終。それでも、死んだ歯が虫歯にかかったりする可能性もある。

 でも痛くてつらいのよ、さっさと神経とっちゃえばいいのに、とささやく自分もいます。悪魔のささやき。天使側はマッチョですから、そりゃもう耐えろ、耐え忍べ、という。正しい道は、いつだって苦難に満ちているんです。

 歯の神経というのは、ただの感覚器官じゃありません。歯へと栄養を運ぶ輸送通路としても機能しています。簡単にとっぱらっちゃえるもんじゃないんです。頼めば手術してくれますけどね。いわば口腔内の安楽死。医師というのは、ドクター・キリコの顔を持っているんですよ。

 この経験を通じて、わたしの今年の抱負は『歯にやさしく、歯茎にやさしく』に決定しました。それだけ強烈な年明けでした。こんなとき、自分がサメだったらいいのに、と思います。

 サメの歯って、わずか1週間で生え変わっちゃうんです。いつまでたっても乳歯。凶暴なナリして、かわいいベイビー。三角形の、ものすごく尖った歯してますけど。生きたまま、人間食いちぎっちゃうしね。ううーむ、全然かわいくないぞよ。でもでも、瞳はつぶら。キュートです。

 歯医者さんはコンビニよりたくさんあります。若い先生や女医だと、比較的ソフトな対応をしてくれます。その代わり、治療もソフト。ダメなところだと、かぶせものがすぐ取れちゃったりします。そういう部分はタフにやってほしいところ。

 できるだけ痛くないようにしてくれるし、説明も丁寧なのはありがたいです。とはいえ、やっぱりやさしいだけの人はものたりない。やさしくて、大富豪で、ルックスが良くて。そんな人にわたしは愛されたい。ちやほやされたい。目いっぱい、全身全霊あやされたい。宮沢賢治だって、生きてたら、そうされたかったと思う。

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