第4話アルトハイム王城内

庭園を抜けてすぐ、俺はこれから使う事になる部屋に案内された。

この部屋が何階にあるのかは明記できない。

アルトハイム王城は酷く入り組んでいるうえに、間層が至る所に存在している。

地図も機密上公開されてない以上、まあ上の方だとだけ言っておこう。

城から同心円状に広がる庭園も良く見渡せる東向きの部屋だ。

そこに少ない荷物を置いて、俺はメイズ殿の案内の元で王城を移動する。

着いたことをこれからの上司に報告する為だ。


「失礼いたします、エイリス卿が到着なされました」


『入れ』


城の一角にあるこの部屋は本拠では無いが、その役職上、王城内にも仕事部屋が用意されている。

メイズ殿の声に答えたのが、恐らく上司となる近衛騎士隊隊長か。

壮年の、ずっしりと重みのある良い声だ。

少しだけ緊張する。


「失礼いたします」


メイズ殿はそのまま部屋の扉の横に仁王立ちしたので、目配せしてから一人で入る。

ていうか着いてきてくれないのかよ。


部屋の内部は酷く小ざっぱりとしていて、壁に飾られた華美な武器と、正面にある重厚な机だけが強烈に主張している。

それでもこの男ほどではない。


「……貴公がエイリス卿か」


「ハッ、ただいまを持ちまして貴殿の旗下に入らせて頂きます。グラム・エイリスと申します、お見知りおきを」


「そうか。私はディードラン・アランドハイムだ。近衛騎士隊隊長を務めている」


そう言って立ち上がった男とがっちりと握手を交わす。

アランドハイム様は筋骨隆々、それでいてロマンスグレーと髪を優雅に流した、眼光も鋭い壮年の男性だ。

種族は恐らく竜人だな。

頭には天を突く黒い双角があり、背中には畳まれた翼、尾てい部からは尻尾が伸びている。

若いころはさぞモテていただろうが、女性たちを一刀両断してただろう感じだ。

いや、もしかしたら今も人気あるかもしれないな。


「長旅ご苦労だった、エイリス卿。急で悪いが、今から職務の説明をするが構わないか。明日からは忙しいからな」


「はい、問題ありません」


「よろしい。そちらの椅子に掛けなさい」


執務机の横にあった椅子に腰かける。

アランドハイム様は書類の中から一枚の羊皮紙を引っ張り出し、俺に視線を向ける。

どっしりと執務椅子に座っているが、どこか疲れたような空気を感じる。


「貴公は近衛騎士隊の旗下に入るが、近衛騎士ではない。私直下の”守護騎士”に当たる」


「守護騎士、ですか?」


「要するに、だ。近衛騎士は王族そのもの・・・・・・を守る。守護騎士は王族の各個人・・・・・・を守護する」


「……新参者に任せる仕事ではありませんよね?」


「王族の方がお望みだ。断ることなど出来まい」


そういうアランドハイム様は少々苦々しさを感じている様だった。

それもそうだろう、重要な職務を俺みたいな新参者に掻っ攫われたのだ。

自分の仕事に誇りを持っている人間なら激怒するだろう。

これは、周りからの悪感情も覚悟した方が良さそうだな。


「そういうことなら、謹んでお受けいたします。しかし、どの御方を?」


「貴公に守護してもらうのは、レインハルト・アルトハイム様となる。レインハルト様は王位継承権こそ低いが、それはさして問題ではないほどの才能がある」


「才能、ですか?」


「後程ご本人より説明される筈だ。あの御方をよろしく頼む」


そう言って頭を下げるアランドハイム様は、本当に深く王家を思っている様だった。

俺は近衛隊の執務室を出て深く息を吐く。

少し緊張していたが、なかなか良い印象を与えられた感じだ。


「お疲れですか、エイリス卿」


「あぁ、メイズ殿。待っていてくれたんですね」


「案内は任されていますから。それで、どうします? 疲れているなら主要な施設だけ案内しますが」


「いえ、問題ありません。少し緊張の糸が切れただけですので」


そういうと、メイズ殿は目を大きく瞬かせた。

なんか驚くようなこと言ったか?


「てっきり、エイリス卿は……えっと、その、なんていうか……」


「……あぁ、確かに冷徹そうだと思われることは多いですね。感情が揺らぎそうにないだとか」


そう思われるのは今生の容姿のせいだけどな。

黒髪にアメジストの瞳と、真っ白な肌の鋭利な美貌を俺は持っている。

下っ端故に真面目な表情が多いから、鋭い印象を持たれることが多いのも分かっている。

中身はこんなんだけどな。


「いえいえ、そんな!」


「これでも若輩なので。緊張もすれば、失敗してじたばたすることも多いですよ」


「はぁ……そうなんですか」


メイズ殿はいまいちピンときていないようだった。

まぁ一緒に仕事してれば分かってもらえるはずだ。


「とりあえず、今は案内の続きをお願いします」


「……そうですね」


でも出来れば格好良いところもみせたいな。

美人に良く見てもらいたいのは男の性だ。

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