第3話登城するグラムと、登場する変態

焼き鳥の他にも適当に夜中まで食べ歩いたあと、俺は宿屋に戻って就寝した。

以前から生活リズムを変更してきたかいがあって、今では夜になると普通に眠くなる。

吸血鬼っぽくないっちゃないけどな。

そのおかげで寝坊も無く、予定通りに登城出来たのだから良いだろう。


「王門を抜けました。庭園を楽しむことが出来ますよ」


「あぁ、ありがとう」


ともに馬車に乗っているエルフの女性の言葉に、窓から景色を眺める。

本当に素晴らしい庭園だ。

国王にエルフ族が就いている影響なのか、人造美的な西洋風というより、自然美を活かす日本風の匂いを感じることが出来る。

とはいっても植生が西洋寄りだから、日本庭園とはにても似つかないがな。

優雅な自然公園に近い。


さて、先程女性が言った『王門』という言葉。

その言葉から推察できるように、このアルトハイムには門、というより城壁が複数にある。

まず最外殻にある街門、その中には兵の詰所があり、更に内側には市街や商人街が広がる。

次に貴門、その中には名立たる商人や一族の邸宅が軒を連ね、同時に役所などの民間に開かれた部署の本拠も存在する。

次に祭門、その中には王国上層の部署の本拠が複雑に入り乱れている。


そして最後に、俺が今通り抜けた、城に直接繋がる王門だ。

他の門は城壁が増えるたびに改称することもあるが、この門だけは変わらない。

今も昔も、城に通ずる唯一の門。

その中は、観賞するにも美しい庭園が広がる。

いざという時には迷路になり、エルフ族に大きく味方する場所だ。


「なるほど、美しいな」


「ありがとうございます。此方の庭園は我々エルフ族が管理しております」


「石の街にあれど、森の民は健在ということか」


俺の言葉に、女性のエルフ耳が僅かに動いた。

どうやら嬉しいらしい。

エルフ族は大昔から、森を守って生きてきたというが、その能力は脈々と受け継がれているようだな。

おぉ、植物だけかと思ったら彫像もあるのか。

あれはドワーフの作かな?

そう思って眺めていると、よく解らないものが目に入った。


「……おい、彫像の中に全裸の男がいるぞ」


「えっ……。いやいやいや。き、ききき気のせいでは?」


「いや絶対全裸だったよあいつ」


見たくはないが、窓から身を乗り出して後方にある彫像を見る。

何故かポーズが変わり、胸筋を強調していた。

まごうことなき変態である。


「ほら見ろ、全裸じゃないか!」


「おーっとすいません、私程度ではもう見えませんねー。後程確認させますね!」


「こいつ……」


白々しさに溢れているが、どうしても触れられたくない事らしい。

目すら合わさず冷や汗をかきまくっている。

なんか可哀想だから追及はやめよう。

というか追及しても誰も幸せにならない。

むしろ不幸になりそうだ。


「よし、この話は止めよう。この後どういう流れか聞こうか」


「あっはい! グラム様には王城内に部屋をご用意しています。此方への赴任中はその部屋をご自由にお使い下さい。それと謁見までは時間がございますので、私が王城内を案内させて頂きます」


「それは助かるな」


警護するにしても、迷路みたいに入り組んだ城の構造を知らなきゃ話にならない。

流石に余所者に知られたくない部分もあるだろうが、そこはこの人が調整してくれるだろう。

そうなると結構お世話になりそうだな。

案内に付けたってことは使えってことだろうし。


「長い付き合いになりそうだから改めて名乗ろうか。トワイライト魔国騎士爵、グラム・エイリスだ。よろしく頼む」


「アルトハイム王国ヴァルキリー隊副長、アイリス・メイズです。エイリス卿にはご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」


立場上下となる予定のメイズ殿は、エルフ特有の柔らかい印象がある。

エルフ族の基本色である深緑色の髪と瞳を持ち、色々と豊かな大人の女性だ。

しかし彼女は歴とした武官である。

ヴァルキリー隊、神々の戦乙女の名を冠した部隊は有名だ。

女性のみで構成されているが故に、貴人の女性の警護に付くことが多いが、それだけではない。

彼女たちは過去、アルトハイム王国を認めない国との戦争の際、野外戦で大きな力を発揮した。

騎乗戦、森での強襲、魔術での殲滅戦と、様々な闘いもお手の物であるらしい。

まぁ他種族の強みを活かしてるんだろうな。


「さて、教えることがあるかどうか……」


「うふふ、御謙遜は……」


「いやいや……」


「いえいえ……」



……やりづれぇよ!


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