第2話アルトハイム王国へ
あれから馬鹿みたいに溜まり続ける仕事を処理し続け、ついに一か月が経過した。
そう、俺がこのトワイライト魔国から、アルトハイム王国へ赴任する時が来たのである。
その移動手段と言えば、
「くっそ、上層部は馬鹿なのか……」
上層部に聞かれたら即首チョンパな事を呟くが、それも仕方ないだろう。
まさか吸血鬼に、真昼間の中、馬で移動しろと言うとは思わなかった。
確かに俺には、何故かは知らないが強力な日光耐性が生まれつき備わっている。
でも辛いもんは辛い。
日焼け止め塗って、ローブも頭から被ってるけど辛い。
しかもよりによって快晴っていうね。
空気が前世の世界よりも澄み渡っているおかげなのか、青い空と白い雲が美しい。
「あと三日もこれか……」
トワイライト魔国とアルトハイム王国そのものは意外と近い。
国境が広い範囲で接しているから、適当に南に進めば入ることが出来るご近所さんだ。
まぁ不法入国になるから今回は正規ルートだけどな。
で、魔国の王都から王国の王都への正規ルート移動となると、王都はそれぞれの国のど真ん中にあるから当然遠い。
途中で宿をとる事は確定しているから、それを加味すると三日。
遠い様で、やっぱり近いかな?
それが彼の王国との距離関係だな。
領土的にも、政治的にも。
さて、そこで俺に飛び込んできた任務の話になる。
どうやらアルトハイム王国は建国100年を迎えるにあたって、我が国との友好を押し進める気でいるらしい。
数年前から互いの国に大使館を設置していたのは知っているが、普通駐在武官を招いて自分の国に仕えさせるとか想像できるか?
ていうかそれ駐在武官じゃないよ。
聞いたことも無い特例だ。
役職名すら解らない不透明感っぷりに脱帽する。
しかも俺一人って言うね。
「あぁ、また胃が痛くなってきた……」
転生という一大イベントを熟した俺だが、実の所飛び抜けた力なんてない。
こんな重大な任務に就くには荷が重いっていうのが正直な話だ。
たぶん選ばれた理由は分かる。
吸血鬼という夜に大きな力を発揮する俺は、暗殺や夜駆け、夜間の奇襲に大きなアドバンテージを持っている。
その上、日光耐性のおかげで行動する時間帯もアルトハイム王国に合わせることが可能だ。
自慢の特性が裏目に出た形だな。
「あっちにも、良い薬屋があればいいが……」
いくら不死性と日光耐性があっても、昼間の胃痛は治るまで地味につらい。
良い薬屋との出会いは必須である。
「はぁ、ちょっと急ぐか」
ともあれ今は旅路の途中だ。
出来れば早めに現地入りして、身支度を整えたい。
そういう思いを込めて、俺は強めに馬の腹を叩いた。
◇
アルトハイム王国は新興国家である。
その来歴は簡単だ。
当時排斥されかけていた、もしくはされていた多数の種族が、英雄の元に集まって一致団結。
色んな意味で畏れられていたトワイライト魔国の周辺の土地は未開だったので、そこに集まって懸命に開拓し、国を興した。
その成り立ちからして、一般的に数の多い普人族は少なく、反対にエルフ族や獣人族、その他の種族が多い。
今では他種族とのハーフも多い、びっくりするほどの他種族混合国家だ。
それでも、ここまでだとは思わなかった。
「とんだカオスだな」
国と同じ名を冠する王都・アルトハイムに辿り着いた俺は、宿の窓から大通りを眺めて呟く。
この世界は種族によって髪や瞳の基本色が異なるので、上から人混みを見ると、まるで花畑のようだ。
そのうえ頭に獣耳が付いていたり、尻尾が生えていたり、種族ごとの様々な様式の服飾が翻っていたり……。
一言で表すならば、やはり混沌としている、となる。
「となると、服装は無難にして良かったか」
アルトハイム王国からは、自由にして良いと言われていた。
となるとトワイライト魔国のものとなるのだが、魔国のものは黒や赤を基調するせいで毒々しい印象も強い。
これから長い時間を凄くこの国に悪印象は与えたくないから、選考からは当然のように外した。
愛国心?
吸血鬼の誇り?
そんなものは過労の中で投げ捨てた。
吸血鬼なんて自動で回復する、過労死しない便利な労働者だ。
精々目が死ぬくらいで済むと思われてるし。
マジでやめてほしい。
それはともかく、服装だな。
やっぱりここは白を基調に、上品に仕上げた。
武官であるということも意識して、騎士服に近い衣裳にしている。
幸い今世の容姿は体型を含めて優れているし、黒髪と紫の目にも白は合う。
ちょっと恥ずかしいが、そこは我慢。
紹介して貰ったアルトハイム王国の仕立て屋に事前に仕上げてもらっているから、登城するときに寄っていけば問題ないだろう。
予定として登城は明日、城に一日泊まってから謁見と言う流れだ。
着いてみると結構余裕があるな。
ちょっと街に出てみるか。
宿の主人に一言言ってから王都に繰り出す。
とはいっても目的なんてない。
精々が、美味しいものとか薬屋ないかなー、という感じだ。
食材流通が地球より難しかったためか、この世界は食文化が未発達というか、地域や食材の系統によって調理のレベルが違う。
見た目もあてに出来ないケースも多いからな。
ある程度食べ歩かないと、アルトハイム王国の食文化が理解出来ない。
だからこれは無駄遣いではない。
「あざっしたー!」
気安い獣人の兄ちゃんから購入したのは、長い木串に刺さった魔物の肉を炭火焼きにしたものだ。
見た感じ鳥の魔物のようなので、焼き鳥でいいのか?
値段も安くて量も多いから、ここら辺は弱い鳥の魔物が出るのかもしれない。
ともあれ実食。
「……美味いな」
乾燥させた香草をうまく使っている。
焼き方も良いし、僅かに甘めの塩気を感じた。
吸血鬼的にはもうちょっと野性味というか、血の味もほしいが、それだけ血抜きが上手だという証拠でもある。
そこに文句をつけるのはお門違いだろう。
この分だと、アルトハイム王国では美味しい料理にありつけそうだな。
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