第6話2050年【感染経路2】
レッドソウルが群れを成す通路に悲鳴と銃声が飛び交う―――
銃を乱射させていた兵士にレッドソウルが襲い掛かり、鋭い歯を前腕に喰い込ませた。感染を悟った兵士は自我が失われる前に、レッドソウルの襟首を掴んで頭部に銃弾を放ち、自らこめかみに銃口を押し当て、引き金を引いた。
やむを得ず自殺した兵士に目を向けた君嶋は、目の奥に悲しみの色を浮かべたが、一瞬で気持ちを切り替え、玲人に注意を促す。
「噛まれんじゃねーぞ。この状況を解決できるのはこのウイルスの生みの親である貴様なしかいないのだから」
「……は、はい」
護衛に囲まれた玲人とシャノンは、生体から罹患者となった研究員の血液を採取し始めた。二人が思うに、現段階においてレッドソウルは三つのタイプが存在する。
1、通常の死体を蘇生させた場合。
2、狂犬病ウイルスとの異種間で組み換えが起きた場合。
3、生体から感染した場合。
タイプ別に異なる三つの特徴を持ち、最も厄介なのが剽悍で知能を残した2のタイプだ。
この通路にも2のタイプが蔓延る。護衛に囲まれているからと言って、確実に身の安全が保障されるわけじゃない。身を引き締め周囲に注意を配らねば、自分達もレッドソウルの餌食になる可能性がある。
血液を採取し終えた玲人は惴惴とし、手にしていたスピッツを保存容器に収めて腰を上げた。その時、前方から呻吟する悍ましい声が聞こえた。
身を強張らせた二人が呻き声の方向に目を転じた瞬間、視界に驚くべき光景が飛び込んできた。信じられないことに剽悍なレッドソウルが鈍重なレッドソウルに襲い掛かり、噛みついていたのだ。二人はあとじさり、訝し気な表情を浮かべた。
種を増殖させる為に、このウイルス研究施設で暴れているはず、それなのに種族同士で殺し合うなんてどう考えてもおかしい……
同じ考えを巡らせた二人は、化学者の目線でレッドソウルを凝視する。
数秒後、今しがた噛みつかれたレッドソウルの動きが、まるで鈴野らのように素早い動きに一変した。
強い者が同種を強くしていく―――弱を強で塗り替える恐るべきメカニズムに二人は驚愕した。
同種を増殖させる為に噛り付いたレッドソウルへと視線を移し、足元から顔まで視線を這わす。
その顔をよく見てみれば<ウイルス性新薬研究施設>で共に働いていた仲間の研究員だった。
彼らにとって不要で動きにくい防護服は脱ぎ捨てられていた為、周囲を徘徊するレッドソウル化した研究員との区別がつかなかったのだ。
改めて変貌した姿を目にした二人は、余りに悲惨な現実に聳懼(しょうく)してしまった。その時、素早さと荒々しさを増したレッドソウルが唾液の糸を垂らし、シャノンに飛びかかってきた。
竦んだ足で棒立ちだったシャノンははっとし、咄嗟にレッドソウルの頭部に銃口を定めて発砲した。放たれた銃弾が額を貫く。恰も木の実が爆ぜるかのように頭蓋がぱっくりと割れ、抉れた脳が脳漿と共に飛び散った。凄まじい拳銃の威力に、シャノンはカタカタと手を震わせ、息を切らした。
君嶋は「ナイスショット。初めてにしてはいい腕だ」と口元の端に笑みを浮かべた。
しかし、シャノンと玲人は双眸に悲しみを湛えた。
「…………」
戦地を経験し、多くの敵兵を殺めてきている彼ら特殊部隊は、国の為の殺しを正義と言うかもしれない。武力で事を解決するという概念を持たない化学者の二人にとって、それは恣意的な殺戮でしかなかった。
どんな姿であれ、人間であり、ずっと一緒に働いてきた仲間なのだと辛い考えを頭に巡らせた。だが変貌した彼らは今、その思い出も脳裏の深淵にすら存在しない。自分達のことは覚えていない。
いくら問い掛けても我に返ることはないと頭では理解してるものの、心は理解してくれず、シャノンは自分達に襲い掛かるレッドソウルに大声を張った。
「シャノンよ! 思い出して! お願いよ!」
「無駄だ。連中が街に行けば人間ジェノサイドでしかない」一人の兵士がシャノンに目をやった。「だが、それを創ってしまったのはお前ら化学者だ」
玲人は涙に頬を濡らし、唇を震わせた。
「どうしてこんなことに……」
シャノンからレッドソウルに視線を移したその兵士は、銃弾を数発放った。ゼリー状と化した眼球が破砕し、後頭部から放射状に噴き出した脳みそが絶命したレッドソウルの後方にいた兵士のヘッド部分を汚した。
「っち!」舌打ちする。「脳みそが。気をつけろよな」
「わりーわりー」
どんな状況下に置かれても闘い慣れした兵士たちは、銃を散乱させながら戯言に近い日常会話をやり取りする。剽悍なレッドソウルより劣る鈍重なレッドソウルを相手にしているせいなのか余裕を見せていた。
だが―――油断していたその時、死角から狂犬となったシロが通路に飛び出し、その兵士の背に飛び乗り、肩に噛みついてきた。
骨肉を噛み砕かれた兵士の肩から迸る赤い瀝血(れきけつ)が床を汚した。君嶋は兵士がレッドソウルになる前に銃弾を乱射し、命を奪った。
兵士は床に倒れたが、シロは掠り傷一つ負っていない。元々人間より長けた身体能力を持つ動物がレッドソウル化した場合の俊敏性は計り知れないものだ。
敵意を剥き出しにしたシロは、次々と兵士に襲い掛かった。銃弾を放つも、軽々と躱されてしまう。シロの餌食になった兵士達が痙攣し、レッドソウル化していく。
「クソッたれ!」
君嶋と兵士が銃を乱射させた。鈍重なレッドソウルは身体を血に染めて通路に倒れるが、<ウイルス性新薬研究施設>でレッドソウル化した研究員数名はその攻撃を避け、玲人の正面にいた一人の兵士の手首に深く噛り付いた。
玲人は意を決し、銃弾を放ち、レッドソウルの後頭部を撃ち抜く。その反動で肉に深く喰い込んでいた歯が更に深く喰い込み、兵士の手首がボリン! と音を立て、前腕から分離した。
通路に兵士の断末魔が響く。地獄の苦悶から解放してあげる為、シャノンがその兵士の頭部に銃弾を放った。
拳銃を握る玲人の手がカタカタと震える。シャノンは玲人の手をギュッと握った。
「私も怖い。でもやるしかないのよ」
今しがたレッドソウルに自分を思い出せと呼び掛けたシャノンも、それを諦めざるを得ない状況だと苦渋の決断の末、覚悟を決めたのだ。
「彼らだってこんな姿は望んでいない……葬ってあげるべきなんだと……」ぐっと言葉を詰まらせ続けた。「勝手よね、このウイルスを創ったのは私達なのに……」
「……。シャノン」
玲人は周囲を見回す。通路には、鈍重なレッドソウルと兵士の死体が累々と横たわる。剽悍なレッドソウルがそれらに噛みつき、自分達の身体を支配するウイルスを感染させ、種を増殖させていた。
北で働く自分達も、この研究施設で働く研究員と面識があり、他愛もない会話を交わす友達だった。レッドソウル化した研究員の命を奪うのは辛いことだが、兵士達もレッドソウル化した仲間を撃ち殺さねばならないのだ。
シャノンの言うようにやるしかないのだろう……
こんな事態を招いたのは、結局自分自身なのだから―――
化学は人を救い、人に夢を与える反面、一歩間違えれば恐怖や死を招く。
僕は……
自分自身が嫌悪感を抱き、断固反対する化学兵器を創ってしまったのだろうか―――
玲人とシャノンも銃口をレッドソウルに向け、銃弾を放ち始めた。剽悍なレッドソウルが通路に十五匹、獲物を狙う野獣のように粘性のある唾液を口から垂らし、シロと共に威嚇する。
「グルルルル……」
「撃てー!」君嶋の声が通路に響くと、兵士たちは裂帛の気合と共に銃弾を放った。
撃たれて絶命したレッドソウルが五匹。残るは銃弾を飛び越え、兵士に猛威を振う。一匹が君嶋の首に組みつき、肩に噛みつこうとした。
玲人が拳銃を構え、声を張る。
「危ない!」
君嶋は玲人やシャノンが思っているよりずっと敏捷性に長けており、レッドソウルの髪を鷲掴みにして床に叩き落とし、額に銃弾を放ち、玲人に怒号する。
「声を上げる暇があるなら撃ち殺せ! 役立たずが!」
「闘うのは産まれて初めてなんです! そんな簡単に身体が反応するわけないじゃないですか!」
「口答えはいい。とにかく撃て」
ピリピリした空気が漂い、玲人と君嶋は同じ事を同時に思う。
“コイツとは馬が合わない”
しかし、いがみ合っている場合ではない。跳梁したレッドソウルがシャノンに鋭い歯を向けた。シャノンは素早く引き金を引き、発砲する。
頭部を狙ったが、銃弾が逸れた。無傷のレッドソウルはシャノンに駆け寄り、勢いよく胸部にのしかかってきた。<ウイルス性新薬研究施設>で負った胸の負傷に痛みが走る。
バランスを崩して転倒したシャノンの目に、悍ましい深紅の双眸が映った。咄嗟に悲鳴を上げたシャノンに襲い掛かるレッドソウル目掛け、君嶋と玲人は同時に発砲した。
玲人はオートマチック式拳銃だが、君嶋は機関銃だ。連射された銃弾がレッドソウルの上半身を貫き、無数の鮮烈な赤い風穴を開けた。
頭部を破壊されたレッドソウルの上半身がシャノンの上に崩れ落ちる。返り血を浴びたシャノンは、こわごわとレッドソウルを押し退け、胸を押さえた。
胸に走る打撲痛に顔を歪める。
「いた……」
駆け寄った玲人がシャノン手を引き上げた。
「大丈夫か!?」
大勢の研究員や兵士が亡くなっているのだから、胸の痛みくらいで弱音を吐いてはいられない。
「ええ、大丈夫よ」
丁度シャノンが床から立ち上がった時、通路に “キャン!” とか細いシロの悲鳴が響いた。君嶋によって頭部を撃ち抜かれたシロは、通常の犬と変わらぬ悲鳴を上げ、あっけなく命の幕を下ろしたのだった。
玲人はシロに目線をやる。
ごめんな、シロ……
シロも研究員達もみんな……罪はない。
罪は……ないんだ……
たまらず涙を流した玲人を見た君嶋は辛辣な台詞を吐く。
「犬を狂犬にしたのはお前だ。そしてこの惨事を創ったのもな」
嗚咽をかきながら泣き続ける玲人は、何も言い返すことができなかった。
ただただ、妻の蘇生を願っただけなのに―――
結果大勢の命を奪うことになってしまった。
無差別殺人鬼以上の許されざる罪。
天に神がいるなら僕は大罪人のように唾棄され、羅刹に喰われることだろう……
涙でぼやける視界に、残る一匹のレッドソウルが見えた。君嶋は大声を上げ、指示を下す。
「残るは一匹、一気に撃て!」
けたたましい銃声と共に銃弾が放たれた。元同僚の研究員の肢体に幾千もの銃弾が風穴を開ける。
「ゲフ……ガ……ガ……」
玲人とシャノンはせめてもの償いに、頭部に銃口を定め、懺悔のつもりで発砲した―――
君嶋が二人に言う。
「犬と組み換えが起きたレッドソウルのサンプルをさっさと採れ」
玲人はシロに歩み寄り、血液を採取し、シャノンは今しがた息絶えたレッドソウルの血液を採取した。
「ごめんなさい」とポツリと言った後、レッドソウルの瞼に手を置き、深紅の目を塞いだ。
君嶋は通路に背を向け、正面のエレベーターを突っ切た位置にある二階へと続く階段室に歩を向けた。
「行くぞ」
君嶋に続く兵士の後ろに二人も続き、心身共に疲労した鉛の脚で階段を上がり始めた。狭い階段室の正面から動きが鈍いレッドソウルがのらりくらりと現れた。
先頭を行く君嶋が問答無用でレッドソウルを撃ち殺す。狭い階段室にけたたましい銃声が反響し、それに慣れない二人の鼓膜に痛みが走る。
一瞬周囲の音がくぐもった。玲人は顔を歪め、防護服のヘッド部分越しに耳を軽く叩いて、唾を呑み込んだ。ふと隣を歩くシャノンに目をやると、彼女も同じ動作を取っていた。
その光景を見ていた兵士の一人が「ひ弱の頭でっかちが」と小声で悪態を突いてきたが、聞こえないふりをし、耳を叩き続けた。
頭脳明晰、疲労困憊の二人は息を切らし、階段を上る。二階の通路に足を置いた君嶋と兵士たちは息一つ乱さず、平然と通路に首を巡らせ、銃を構えた。
平和とは言え、日々のトレーニングを欠かさない。体力作りこそ生き抜く為の術であり軸であると考える彼らにとって、それこそが理念の要なのだ。身に染み込んだ習慣が強靭な体力を維持している。
兵士とは対照的に身体より頭を動かす方が専門の玲人とシャノンは、自分達の正面に立っている筋肉質な兵士らの隙間から二階の通路を望む。目線の先には、一階と比べ物にならないくらい過酷な光景が広がっていた。
白衣を着た剽悍なレッドソウルが群れを成し、跋扈する通路―――<ウイルス性新薬研究施設>でレッドソウル化した研究員達が強力な “種族” を増殖させる為に<死者蘇生ウイルス>に感染した罹患者に噛みつき、自分達の身体を支配する謎のモンスターウイルスを感染させてたのである。
二人は<死者蘇生ウイルス>が生み出した計り知れない被害を改めて思い知らされた。
息を呑んで通路を見据えた君嶋は、一旦足を止めた。
「…………」
一人の兵士が戦法を訊く。
「凄い数だ……どうしますか? 君嶋指揮官」
「……。くだらねえこと訊いてんじゃねえよ。どうするって撃つしかねえだろが……」
一同に気づいた数匹のレッドソウルが威嚇してきたその直後、群れは一斉に跳梁し、尋常を超える速さで襲い掛かってきた。
「撃てー!」
息つく暇もなく兵士たちは銃弾を乱射する。銃弾の合間を縫うように掻い潜ったレッドソウルが兵士の左大腿部に噛みついた。
感染した事を悟った兵士は「くそ―――!」と怒りの声を上げ、銃の側面に施されたボタンを押した。
武器に疎い玲人とシャノンはそれが何なのか理解していない。
兵士が手にしていた銃は自動システムウエポンだ。弾丸を発射する機関部分がボタン一つで変化し、数種類の役割の銃器を一つの銃で賄える軍用銃だったのだ。
機関部分を火炎放射器へと変化させた兵士は、自分の大腿部に噛みつくレッドソウルの脳天に肘を落し、引き離した直後、怯んだ隙に炎を放った。
玲人とシャノンは炎を見た瞬間、顔色を変えた。
シャノンが叫ぶ。
「いけない!」
玲人も大声を張った。
「痛覚が存在しないレッドソウルに炎を放てば被害が拡大するだけだ! 骨になるまで暴れるぞ!」
人間の髪は233℃で燃え、皮膚は249℃で燃える。その間、レッドソウルはモンスター火炎放射器となり、猛威を振うだけだ。
二人の察し通り、赤々と燃える灼熱の鎧を纏ったレッドソウルは、今しがた自分に炎を放った兵士に組みついた。防護服に炎が引火し、一気に炎上した。
血色のよい褐色の肌が赤茶色に焼け爛れてゆく。顔面を覆う炎の僅かな隙間から覗く唇は焼け落ちていた。灰になりかけた歯をむき出しにし、断末魔を上げる。
君嶋は生き地獄の兵士を安楽死させる目的で発砲した。息絶えた兵士の身体が放たれた銃弾の衝撃により、反り返る。火だるまになったレッドソウルがジャンプ台と化した兵士の胸を利用して高く飛翔した。
その時、天井に設置されたスプリンクラーが炎の熱を感知し、弧を描きながら水を放出させた。辺り一面に大量の水が降り注ぐ。良好とは言い難い視界の先にいる水浸しのレッドソウルが突如痙攣を起こし、悶え始めた。
玲人が呟くように言った。
「まさか……恐水症?」
玲人に目をやるシャノン。
「狂犬病と何らかの関連性がある事は間違いないわ。だとしたら狂犬病が発症した急性期に現れる症状が起きたとしても不思議じゃない……」
水浸しの通路に倒れたレッドソウルは、水揚げされた魚のように背を反らして痙攣し、立ち上がることすらできそうにない。
君嶋は、床の上でのたうち回るレッドソウルに訝し気な表情を向けながら、玲人にたずねた。
「狂犬病同様の恐水症の症状がこいつらにあるという事だな?」
「はい、おそらく」真剣な眼差しをまっすぐ君嶋へと向ける。
「弱点ってヤツか……」
形勢逆転。勝利を勝ち取った兵士の顔を見せ、スプリンクラーの跡切れの向こう側で身を強張らせて固まるレッドソウルに目をやった。
天井には数カ所に渡り、スプリンクラーが設置されている。熱を感知した箇所のスプリンクラーが作動し、瞬時に水が降り注ぐ。
「なるほど、全てのスプリンクラーを作動させるには火炎放射器が有効的」
君嶋の後ろ続く兵士たちが、水溜りの上でのたうつレッドソウルに銃弾を浴びせ始めた。玲人とシャノンはその光景から目を逸らし、口を閉ざした。最強のウイルスに犯された体内の中に残された人間のか弱い部分が垣間見えたような気がしたからだ。
「自動システムウエポンを持つ奴は天井のスプリンクラーを狙え! 後は言うまでもない、ぶっ殺せ!」
部下に指示を下した君嶋は、上腕に装着した無線機からB班率いる凛に連絡を取った。勿論、朗報と呼べるレッドソウルの最大の弱点を知らせる為に。
「俺だ、君嶋だ」
焦燥に駆られた凛が応答した。
『君嶋指揮官! はっきり言って手こずってる!』兵士の悲鳴と銃声が途切れ途切れに無線を通じて聞こえた。『応援を要請する!』
玲人が無線に向かって声を張った。
「佐伯君は、佐伯君は生きているのか!?」
『生きてる! 頭でっかちのもやしとは思えない足癖の悪さだぜ! 化学者にしておくのが勿体無いくらいだ!』
確かに佐伯は<ウイルス性新薬研究施設>で剽悍なレッドソウルに襲われた時、闘いの経験でもあるかのような身の熟しだった。大人しそうな顔をして腕っ節が強いようだ。幼い頃から殴り合いの喧嘩と無縁だった佐伯本人も、今日初めてそれを知る。
君嶋が無線に口を当てた。
「いいか、よく聞け。応援は不要だ。連中に最大の弱点があることを発見した。
天井のスプリンクラーに火炎放射器で熱を与えろ。すばしっこいレッドソウルは水に弱い。恐水症らしい」
予想もしていなかった弱点を告げられた凛は、思わず声がひっくり返った。
『恐水症!?』
玲人が再び声を張る。
「ですが、シロから感染したウイルスに犯された罹患者のみかもしれません!」
「うすのろレッドソウルに水は通用しないって事だな?」
「はい、たぶんですけど」
「おそらくだの、たぶんだのアバウトな野郎だ」得意の嫌味を吐き、凛に会話を戻した。「構やしない。うすのろだ。ぶっ放せばいい。厄介なのはすばしっこいレッドソウルだけだ」
『水で倒せるってこと!?』
「死にはしないが、死んだも同然。弱ったのと同時に撃ち殺せ」
『イエッサ、それなら余裕だ。やってみる』
「以上だ」
会話を終えた通路には、天井から降り注ぐスプリンクラーの水に浸されたレッドソウルの死体が累々と横たわり、生体が流す赤い血と変わらぬ血が水溜りを赤く染めていた―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます